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[25]澱み
-274-:これは失敗だなと反省する次第です
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クレハはココミの胸座を掴んで引き寄せた。
「何なのよ、一体!何勝手にあんなヤツを乱入させているのよ!」
激しく揺さぶり答えを求める。
「これはオープンなので、白側なら誰でも途中参加できるのです」
説明をしている最中に、ヒューゴとキョウコがVR空間から戻ってきた。
「見事に殺されちゃったわ」「ああ、反省点しか無い」
スポーツで汗をかいたように清々しさを見せる二人。しかし。
「あんなの、ネトゲで横取りプレイをする悪質プレイヤーじゃない!何を反省とか言って笑っているのよ!?」
怒りのあまり顔を真っ赤にするクレハ。
「それにしても容赦無いな。猪苗代は」
猪苗代・恐子の戦い方は、根本的に対人戦から抜け切れておらず、どうしても狙いが頭部に集中してしまう。
これでは敵を無力化する前に、隙を突かれて逆転負けしかねない。
「ヒューゴくんが私に遠慮し過ぎなのよ」
一方の高砂・飛遊午は、霊力が低いおかげでベルタは常時パワー不足に陥り、狙いが関節部分に限定されてしまっている。
それを“遠慮”と勘違いされてしまうのも無理も無い。
「私の話を聞け!」
汗を拭いながら会話する二人に、クレハは注意を向けさせた。
「颯希さんよ!今の。あの品の欠片も無い、勝てれば何でもアリな戦い、やっぱり私、彼女を認める事なんて出来ない!」
思わず拳を握りしめる。
そんなクレハの頭にポンとヒューゴが手を載せた。
「サツキ姉の戦い方は俺も好きじゃない。けど、彼女を戦場に立たさなければ良いだけの話さ。これはヴァーチャル。あくまでも訓練であって実戦じゃない」
諭されても、やや納得の行かないクレハであったが、幾分か落ち着きを取り戻した。
「それにしても、アイツ、クロックアップ中でも口を聞いていたな?」
ヒューゴがココミに訊ねた。
「はい。掃部・颯希さんの駆る盤上戦騎、紫蛇竜の刹那は兵士の駒でありながら、戦闘モードに入ると2分46秒という制限時間を設ける事によって、基本ステータス数値に手を加える事無く常時クロックアップモードでいられるのです。だからアルルカン3と同じく、息を止める必要も迫られていないのです」
身体能力が高い代わりに制限時間が短いとは…。
まるで獅子座L77星の紅き巨人のような設定だ。
「2分46秒を過ぎたら自滅してしまうので、これは失敗だなと反省する次第です」
ココミはテヘペロして見せた。
何だか腹が立つ。
クレハはココミを恨めしそうな目で見つめた。
「それにしても、とても強い方ね。会ってみたいわ」
目をキラキラさせるキョウコを見やって。
そんなに強者と会うのが楽しみなのかねェ…。まるで格闘家じゃないか。
「会ってみたいも何も、この間のパーティーで会っているぞ。それに彼女は改めて会う様な人物じゃない。彼女は根っからの戦闘狂だ。一般人が関わるような人物じゃない」
ヒューゴはお勧めしない。クレハも続いて頷いた。
ヒューゴは疑念を抱いている。
掃部・颯希…。
証拠こそ挙がっていないが、彼女はきっと現実で人を殺害、遺体をどこか分からない場所に遺棄、隠蔽している。
彼女に言い寄ったチンピラ紛いの若者たちが揃いも揃って行方をくらましている。
飄々とした態度に隠れる彼女の狂気を、ヒューゴとクレハ、ふたりは肌で感じ取っていた。
それはココミも同じ。
先程のキョウコの戦いぶりを見ていて、ふとリョーマの話を思い出した。
“盤上戦騎は人の破壊衝動を駆り立てる”と。
あの話は、あながち間違いでは無いと感じてならなかった。
☆ ☆ ☆ ☆
帰宅途中、タツローは友人たちと別れた。
自転車に跨る。
練習疲れがひどく、とてもこのまま自転車を押して帰れそうにない。
とはいえ、自転車に乗っても、腕の筋肉痛がひどく、真っ直ぐに走らせる自信も無いけれど、とにかく歩いて帰るよりは早く帰れると思う。
自転車をこぎ出す。も、やはりフラついてしまう。
とうとうヨロけて倒れそうになった、その時。
ガシャンと自転車は倒れてしまったが、襟首を掴まれ持ち上げられる感覚はあった。
ゆっくりと地面へと下される。
「あ、ありがとうございます」
告げながら振り向くと、そこには栗色の長い髪が夕陽を浴びて、まるで後光を差すかのように映る美しい女性の姿があった。
「お、お前は!」
すぐにその女性が妲己だと悟った。
それよりも、倒れる自転車から人を持ち上げて助ける時点で、相手が人間ではないことに気付くべきだった。
「妾にお前呼ばわりとは失礼だぞ、少年」
浴衣姿の妲己は、風流にも団扇で自身を扇ぎながらタツローを嗜めた。
「な、何の用ですか?妲己さん」
このシチュエーション、前にもあったような。
以前は有無を言わさずに、いきなり鼻頭を斬り付けられたが。
「明日ヒマなら、妾と付き合え。御陵・御伽の彼氏とやら」
「え?えぇぇぇぇーッ!!!?えぇぇぇーッ!?」
自身でも何を驚いているのか?さっぱり分からなかった。
あまりにも驚きの要素が多過ぎる。
「何なのよ、一体!何勝手にあんなヤツを乱入させているのよ!」
激しく揺さぶり答えを求める。
「これはオープンなので、白側なら誰でも途中参加できるのです」
説明をしている最中に、ヒューゴとキョウコがVR空間から戻ってきた。
「見事に殺されちゃったわ」「ああ、反省点しか無い」
スポーツで汗をかいたように清々しさを見せる二人。しかし。
「あんなの、ネトゲで横取りプレイをする悪質プレイヤーじゃない!何を反省とか言って笑っているのよ!?」
怒りのあまり顔を真っ赤にするクレハ。
「それにしても容赦無いな。猪苗代は」
猪苗代・恐子の戦い方は、根本的に対人戦から抜け切れておらず、どうしても狙いが頭部に集中してしまう。
これでは敵を無力化する前に、隙を突かれて逆転負けしかねない。
「ヒューゴくんが私に遠慮し過ぎなのよ」
一方の高砂・飛遊午は、霊力が低いおかげでベルタは常時パワー不足に陥り、狙いが関節部分に限定されてしまっている。
それを“遠慮”と勘違いされてしまうのも無理も無い。
「私の話を聞け!」
汗を拭いながら会話する二人に、クレハは注意を向けさせた。
「颯希さんよ!今の。あの品の欠片も無い、勝てれば何でもアリな戦い、やっぱり私、彼女を認める事なんて出来ない!」
思わず拳を握りしめる。
そんなクレハの頭にポンとヒューゴが手を載せた。
「サツキ姉の戦い方は俺も好きじゃない。けど、彼女を戦場に立たさなければ良いだけの話さ。これはヴァーチャル。あくまでも訓練であって実戦じゃない」
諭されても、やや納得の行かないクレハであったが、幾分か落ち着きを取り戻した。
「それにしても、アイツ、クロックアップ中でも口を聞いていたな?」
ヒューゴがココミに訊ねた。
「はい。掃部・颯希さんの駆る盤上戦騎、紫蛇竜の刹那は兵士の駒でありながら、戦闘モードに入ると2分46秒という制限時間を設ける事によって、基本ステータス数値に手を加える事無く常時クロックアップモードでいられるのです。だからアルルカン3と同じく、息を止める必要も迫られていないのです」
身体能力が高い代わりに制限時間が短いとは…。
まるで獅子座L77星の紅き巨人のような設定だ。
「2分46秒を過ぎたら自滅してしまうので、これは失敗だなと反省する次第です」
ココミはテヘペロして見せた。
何だか腹が立つ。
クレハはココミを恨めしそうな目で見つめた。
「それにしても、とても強い方ね。会ってみたいわ」
目をキラキラさせるキョウコを見やって。
そんなに強者と会うのが楽しみなのかねェ…。まるで格闘家じゃないか。
「会ってみたいも何も、この間のパーティーで会っているぞ。それに彼女は改めて会う様な人物じゃない。彼女は根っからの戦闘狂だ。一般人が関わるような人物じゃない」
ヒューゴはお勧めしない。クレハも続いて頷いた。
ヒューゴは疑念を抱いている。
掃部・颯希…。
証拠こそ挙がっていないが、彼女はきっと現実で人を殺害、遺体をどこか分からない場所に遺棄、隠蔽している。
彼女に言い寄ったチンピラ紛いの若者たちが揃いも揃って行方をくらましている。
飄々とした態度に隠れる彼女の狂気を、ヒューゴとクレハ、ふたりは肌で感じ取っていた。
それはココミも同じ。
先程のキョウコの戦いぶりを見ていて、ふとリョーマの話を思い出した。
“盤上戦騎は人の破壊衝動を駆り立てる”と。
あの話は、あながち間違いでは無いと感じてならなかった。
☆ ☆ ☆ ☆
帰宅途中、タツローは友人たちと別れた。
自転車に跨る。
練習疲れがひどく、とてもこのまま自転車を押して帰れそうにない。
とはいえ、自転車に乗っても、腕の筋肉痛がひどく、真っ直ぐに走らせる自信も無いけれど、とにかく歩いて帰るよりは早く帰れると思う。
自転車をこぎ出す。も、やはりフラついてしまう。
とうとうヨロけて倒れそうになった、その時。
ガシャンと自転車は倒れてしまったが、襟首を掴まれ持ち上げられる感覚はあった。
ゆっくりと地面へと下される。
「あ、ありがとうございます」
告げながら振り向くと、そこには栗色の長い髪が夕陽を浴びて、まるで後光を差すかのように映る美しい女性の姿があった。
「お、お前は!」
すぐにその女性が妲己だと悟った。
それよりも、倒れる自転車から人を持ち上げて助ける時点で、相手が人間ではないことに気付くべきだった。
「妾にお前呼ばわりとは失礼だぞ、少年」
浴衣姿の妲己は、風流にも団扇で自身を扇ぎながらタツローを嗜めた。
「な、何の用ですか?妲己さん」
このシチュエーション、前にもあったような。
以前は有無を言わさずに、いきなり鼻頭を斬り付けられたが。
「明日ヒマなら、妾と付き合え。御陵・御伽の彼氏とやら」
「え?えぇぇぇぇーッ!!!?えぇぇぇーッ!?」
自身でも何を驚いているのか?さっぱり分からなかった。
あまりにも驚きの要素が多過ぎる。
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