盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)

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[24]白い闇、黒き陽光

-255-:理由が掴めないのだが

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 結局はケンカ別れのようにして、別々に下校する事になってしまったクレハとヒューゴ。

 思うままの気持ちをぶつけて泣きながら走り去るクレハを、ヒューゴは追う事ができなかった。

 だって、首の後ろに肘鉄を食らった黒玉の学生を置いて、彼女を追い掛ける訳にはいかない。

 この状況、気持ち的にも、物理的にも追う事は不可能と言えた。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 草間・涼馬も、ようやく家に辿り着いたところだ。

 ダナが家の前で待っていてくれた。「おかえりなさいませ、マスター」

「ただいま、ダナ。わざわざ出迎えてくれなくても良かったのに。君だって疲れているだろう?」
 マウンテンバイクから降りてチェーンで繋ぎとめる。

 立ち上がるなり、腰を伸ばした。

 盤上戦騎ディザスターは、掛かるGジーを10分の1にまで抑えてくれるけれど、あれほど激しく機動すれば、さすがに全身の骨と筋肉に負担が掛かる。

 リョーマは年寄りくさいなと感じつつも、腰に手を当てて伸びをした。

 全身筋肉痛だ。早く家に入って風呂に浸かりたい。

 そんなリョーマを、ダナは静かに待っていた。

「どうしたんだい?僕の方は心配無いよ。早く家に入ろう」
 告げて、ダナの前へと進んだ。

「あの、マスター…お客様がお見えです」
 来客を報せてくれたのは分かるけど、ダナの困惑した表情が気になった。

「僕に、お客さん?」
 訊ねた。

「マスターにではなく…私たち二人…いえ、今回のアンデスィデに参戦した白側全員に御用があると」
 それを聞いて(ココミかな?)、だけど彼女は、ダナが困るような相手ではないし、一体誰なのだろう?

 取り敢えずは。

「わかった。お客様はリビングにお通ししているのだね」
 相手を確認する事もなく、リョーマは先に家へと入った。

 リビングで静かに椅子に腰かける少女の姿。

 見た事も無い制服姿に、リョーマはまったく心当たりが無かった。

 挨拶もせず、何も言わずに少女の前に腰かける。

「ダナ、お茶を頼む」
 ここは一旦、二人きりになろう。

 これで心置きなく話ができる。

「挨拶も抜きに申し訳ない。早速だけど、君の名前を教えてくれないか?」
 すると、少女は顔を俯かせたまま頷いた。

「あ、あの…私、た、建前・静夏とも、申します。こ、この度は皆様を危険に晒してしまって、も、申し訳ありませんでした!」
 勢いよく頭を下げた途端、テーブルに頭突きをしてしまった。「あ痛たた」額をさすっている。

「すまないが、もう一度名前を聞かせてもらえないかな?」
 聞き違いなのでは?リョーマは再度確認を求めた。

「ですから、木乃伊マミーのアルルカンに搭乗していた建前・静夏です。皆様にご迷惑をお掛けして―」
 リョーマは手で制して、シズカを止めた。

 このオドオドとした態度、とても戦闘狂丸出しの、あのシズカとは思えなかった。

 その一方で。

 これは油断させようとする演技か何か?勘繰るも、それではわざわざ自ら名乗る必要は無いはずだし、闇討ちを仕掛ければ良いだけの事。

 こうやって訪ねてくる理由にはならない。

 にわかに信じ難いが、ここは彼女の話を信じるしかない。


「正直君と戦って、何度も死を覚悟したよ。あれほどまでに残虐な手段を用いていたのに、どうして僕たちの前に現れたのか?理由が掴めないのだが」
 ただし、油断はできない。いつ何時、殴り掛かってくるか、警戒を解いてはならない。

「その事に関して、謝罪をしに参りました」

「謝罪?」
 ますます油断できない。この少女、得体が知れないにも程があるぞ。

「その事に関して、マスターの判断を仰ぎたくて、外でお待ちしておりました」
 ダナが戻ってきた。

 手際よく、それぞれに紅茶を並べてくれる。

 シズカが土産として持ってきたのだろう、テーブルにはシュークリームが並ぶ。

「謝罪など、僕は別に望んではいないよ。アンデスィデに参戦した以上、皆、死は覚悟の上と認識している」
 あれほどの超兵器同士がぶつかり合う以上、ただで済むと思うのは楽観的過ぎる。搭乗する者すべてが、薄々ながらも死に直面しているのを実感しているはずだ。

「そういう謝罪ではなく!」
 ところが、シズカは別の意味で、リョーマを訪ねていた。

 ドンッ!シズカが両手を激しくテーブルに叩きつけた瞬間、入れられた紅茶が激しく波打った。途端、「ごめんなさい」すぐさま謝り、再び席に着いた。

「今更ながら、言い訳がましいとお思いでしょうが、アレはアルルカンの能力を引き出す代わりに、私の中の破壊衝動を、その…」
 心の底から言い訳がましいと感じているようで、シズカは口ごもってしまった。

「つまり、君が言いたいのは、アレは君の本心じゃなく、アルルカンの能力によって心のタガが外されてしまった。そう言いたのだね?」
 解りやすく説明してくれたリョーマに、シズカは小刻みに何度も頷いて見せた。

 本心なのか、定かではないが、彼女の言う事には説得力がある。

 アルルカンに搭乗していた、あの時のシズカは、形態を変える度に凶暴性を増していた。

 それに加えて、初めてアルルカンと戦った時に、当時アルルカンのマスターだったマサムネが、どうして進化をしなかったのか?これで謎が解けた。

 あの時の戦闘の舞台は、高等部を含む天馬学府だった。

 そんな場所で、自らの破壊衝動が抑えられなくなるような進化は遂げられなかったのだろう。

 マサムネなりに、周りに気を配っていてくれた事を、改めて思い知らされた。

 それはともかく。

 ステータス割り振り時に、ある程度のペナルティを負う事によって数値を変動させられるからと、このような人道外れた条件付けをされている騎体に対して無性に腹が立つ。

「君もさぞ辛かっただろう。不本意に戦わされたのだから。分かった。この事は僕から皆に伝えておこう。だから、君も気にせず、この事は綺麗サッパリ忘れ去るんだ。いいね」

 去り行くシズカの背中をダナと共に見送る。

 思い返すだけでも、アルルカンの存在にはぞっとする。

 搭乗する者の心に干渉して戦闘能力を引き上げるとは…。

 リョーマはふと、ダナの横顔を見つめた。

 果たして自分は、マスターとして迎えられたのだろうか?

 シズカのように、勝つための道具として迎えられたのではないか?

 ダナに、そのような機能が搭載されていないという保証は何一つ無い。

 そんなリョーマの視線に気付いたダナが、柔らかな笑みを向けてくれた。

 今は彼女を信じよう。

 この魔導書グリモワールチェスそのものに抱く疑念は払拭できないが。
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