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[23]穢れ
-251-:まさか、私たちを撃つのですか?
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天馬学府高等部の全生徒が、一斉に下校を始めた。
市松市街地と周辺地域にに敷かれていた緊急避難命令が解除されたからだ。
市松市を中心に発生した地震による被害は甚大で、市街地はほぼ壊滅。住宅地にも及んでいるとの事。
報道ヘリコプターは飛び交い、地上での会話も困難となりつつある。
これに関しては、毎度の如く苦情が殺到しているというのに、未だ解消されていない。
彼らは学習しないのか?それとも、我先にが先だって、単にモラルを欠いているだけなのか?どちらにせよ、誰も同じニュースが長々と垂れ流しにされるくらいなら、騒音激しいヘリコプターなど乗ってくるなと苦情を呈したい衝動に駆られる。
「タツロー!」
姉の御手洗・寅美がタツローを呼んだ。
「ああ、お姉ちゃん」
ぼんやりとした眼差しで駆け寄ってくる姉を見つめる。
「お姉ちゃんじゃないでしょ!どこへ行っていたのよ。タツローが入っているはずのシェルターに行ったのに、いなかったから、家に帰っているのかと思えば、まだフラフラと校内を歩いているし。もう!帰るわよ」
タツローの手を引っ張る。
「そんなに急がなくたって、もう大丈夫なんでしょう」
引っ張られながら、ズンズンと突き進む姉を落ち着かせようと声を掛ける。
だけど、トラミは足を止めてくれない。そればかりか、振り向いてくれさえしてくれない。
「校内放送でも言っていたけど、とにかくスゴい地震だったんだって。だから家がどうなっているか心配で、心配で。ホラ、早く」
なおも急かす。
駐輪場へと向かう途中、廊下の窓から駐車場を望む事ができた。
オトギが迎えのリムジンに乗り込むところが目に映った。
「オトギさん…」
ふと、立ち止まり、呟いた。
急に足を止めてしまったタツローに、じれったいと感じたトラミは、ついに振り向いた。
「あ?オトギ?こんな時に、呑気に御陵・御伽を見送って、どうするの?」
タツローは、未だにあの時の光景が、いや、あれは空耳だと信じたかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「あの女は、私たちを殺そうとしたのですよ。容赦なく、何度も何度も。手下を仕向けて殺そうとしたのですよ」
オトギの訴えにも、ガンランチャーはハンドガンを下してはくれない。
「だからシンジュちゃんは“死んで当然”て言いたい訳?」
クレハが再度問い掛ける。
「私は”生きていてはいけない女”だと申したのです」
言い間違いを正すオトギの表情は険しさを増した。
「あの…クレハさん?本気じゃないですよね?僕たちを撃つなんて事は―」「タツローくんは黙っていて!」「今はオトギちゃんと話しているの」
二人して、割って入る事を許さない。
バックモニター越しに映るガンランチャーは、1丁しかハンドガンを握っていない。
しかも。
あれほどズラリとスカートに並んでいたハンドガンの予備弾倉が、すっかりと無くなっている。
どうして1丁しかハンドガンを握っていないのか?おそらく弾切れを起こして、デッドウエイトを嫌ったクレハが、投げ捨ててしまったのだろう。
だとすると、今、ガンランチャーが握っているハンドガンが全てという事になる。
残弾数は?仮に15発全て揃えているとしても、果たして、それでコントラストを行動不能に陥らせる事は可能なのだろうか?
オトギもその事に気付いたようだ。
「先輩?もう弾は無いのでしょう?そんな騎体でどうやって私たちを止めるというのですか?」
背を向けたまま訊ねる。
「まさか、私たちを撃つのですか?」
確認を求めるように訊ねる。
「その“まさか”だけど、貴方の言う通り、コイツ一丁じゃあ、貴女たちにご退場願うのは無理でしょうね。でもね。両肩さえ落とせば戦えなくなる。そんでもって、もう一回復活されても、また両肩を落として、貴方たちを止めてやるわ」
背中からズドンという訳では無いので、とりあえずは安心。
タツローは深くシートに身を預けた。ついでに安堵のため息も漏れた。
カチャ…。
小さく、静かな音。
い、今の音は一体…。
「…ふぅ……」
後ろから、静かなため息が聞こえてきた。
振り返ると、オトギがシートの背もたれに深く身を預けていた。
彼女も、相当疲れているのだろうな。思い、ようやくこの激しいアンデスィデの終了が間近だと実感すると、疲れもあるけれど、何だか嬉しくて胸の高鳴りを感じた。
クレハの無事を確認しようと、バックモニターに目を移した、その瞬間、タツローの目は大きく見開かれた。
タツローは我が目を疑った。
どうして…思うも、それは決して声に出してはならない。
コントラストに合体したと同時に、背部へと回っていたグラムの主兵装であるキャロネード砲のロックオンマーカーが、ガンランチャーを捉えて点滅していた。
さっき耳にした音は。
空耳などではなく、信じたくは無いが、あれは、オトギがトリガーを引いた音に違いない。
先ほど、アルルカン3との戦いの最中、オトギにコントロールを譲り、代わりに火器管制を引き受けていなければ。
ウソだ…。
オトギは一度、ガンランチャーをロックオンして、キャロネード砲で仕留めようとしていた事になる。
◇ ◇ ◇ ◇
去り行くリムジンを目で追う。
オトギは気付いていないようで、目線は真っ直ぐ前へと向いたまま。
今でも信じられない。
あの時、彼女は、どうして引き金を引いたのだろうか?
市松市街地と周辺地域にに敷かれていた緊急避難命令が解除されたからだ。
市松市を中心に発生した地震による被害は甚大で、市街地はほぼ壊滅。住宅地にも及んでいるとの事。
報道ヘリコプターは飛び交い、地上での会話も困難となりつつある。
これに関しては、毎度の如く苦情が殺到しているというのに、未だ解消されていない。
彼らは学習しないのか?それとも、我先にが先だって、単にモラルを欠いているだけなのか?どちらにせよ、誰も同じニュースが長々と垂れ流しにされるくらいなら、騒音激しいヘリコプターなど乗ってくるなと苦情を呈したい衝動に駆られる。
「タツロー!」
姉の御手洗・寅美がタツローを呼んだ。
「ああ、お姉ちゃん」
ぼんやりとした眼差しで駆け寄ってくる姉を見つめる。
「お姉ちゃんじゃないでしょ!どこへ行っていたのよ。タツローが入っているはずのシェルターに行ったのに、いなかったから、家に帰っているのかと思えば、まだフラフラと校内を歩いているし。もう!帰るわよ」
タツローの手を引っ張る。
「そんなに急がなくたって、もう大丈夫なんでしょう」
引っ張られながら、ズンズンと突き進む姉を落ち着かせようと声を掛ける。
だけど、トラミは足を止めてくれない。そればかりか、振り向いてくれさえしてくれない。
「校内放送でも言っていたけど、とにかくスゴい地震だったんだって。だから家がどうなっているか心配で、心配で。ホラ、早く」
なおも急かす。
駐輪場へと向かう途中、廊下の窓から駐車場を望む事ができた。
オトギが迎えのリムジンに乗り込むところが目に映った。
「オトギさん…」
ふと、立ち止まり、呟いた。
急に足を止めてしまったタツローに、じれったいと感じたトラミは、ついに振り向いた。
「あ?オトギ?こんな時に、呑気に御陵・御伽を見送って、どうするの?」
タツローは、未だにあの時の光景が、いや、あれは空耳だと信じたかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「あの女は、私たちを殺そうとしたのですよ。容赦なく、何度も何度も。手下を仕向けて殺そうとしたのですよ」
オトギの訴えにも、ガンランチャーはハンドガンを下してはくれない。
「だからシンジュちゃんは“死んで当然”て言いたい訳?」
クレハが再度問い掛ける。
「私は”生きていてはいけない女”だと申したのです」
言い間違いを正すオトギの表情は険しさを増した。
「あの…クレハさん?本気じゃないですよね?僕たちを撃つなんて事は―」「タツローくんは黙っていて!」「今はオトギちゃんと話しているの」
二人して、割って入る事を許さない。
バックモニター越しに映るガンランチャーは、1丁しかハンドガンを握っていない。
しかも。
あれほどズラリとスカートに並んでいたハンドガンの予備弾倉が、すっかりと無くなっている。
どうして1丁しかハンドガンを握っていないのか?おそらく弾切れを起こして、デッドウエイトを嫌ったクレハが、投げ捨ててしまったのだろう。
だとすると、今、ガンランチャーが握っているハンドガンが全てという事になる。
残弾数は?仮に15発全て揃えているとしても、果たして、それでコントラストを行動不能に陥らせる事は可能なのだろうか?
オトギもその事に気付いたようだ。
「先輩?もう弾は無いのでしょう?そんな騎体でどうやって私たちを止めるというのですか?」
背を向けたまま訊ねる。
「まさか、私たちを撃つのですか?」
確認を求めるように訊ねる。
「その“まさか”だけど、貴方の言う通り、コイツ一丁じゃあ、貴女たちにご退場願うのは無理でしょうね。でもね。両肩さえ落とせば戦えなくなる。そんでもって、もう一回復活されても、また両肩を落として、貴方たちを止めてやるわ」
背中からズドンという訳では無いので、とりあえずは安心。
タツローは深くシートに身を預けた。ついでに安堵のため息も漏れた。
カチャ…。
小さく、静かな音。
い、今の音は一体…。
「…ふぅ……」
後ろから、静かなため息が聞こえてきた。
振り返ると、オトギがシートの背もたれに深く身を預けていた。
彼女も、相当疲れているのだろうな。思い、ようやくこの激しいアンデスィデの終了が間近だと実感すると、疲れもあるけれど、何だか嬉しくて胸の高鳴りを感じた。
クレハの無事を確認しようと、バックモニターに目を移した、その瞬間、タツローの目は大きく見開かれた。
タツローは我が目を疑った。
どうして…思うも、それは決して声に出してはならない。
コントラストに合体したと同時に、背部へと回っていたグラムの主兵装であるキャロネード砲のロックオンマーカーが、ガンランチャーを捉えて点滅していた。
さっき耳にした音は。
空耳などではなく、信じたくは無いが、あれは、オトギがトリガーを引いた音に違いない。
先ほど、アルルカン3との戦いの最中、オトギにコントロールを譲り、代わりに火器管制を引き受けていなければ。
ウソだ…。
オトギは一度、ガンランチャーをロックオンして、キャロネード砲で仕留めようとしていた事になる。
◇ ◇ ◇ ◇
去り行くリムジンを目で追う。
オトギは気付いていないようで、目線は真っ直ぐ前へと向いたまま。
今でも信じられない。
あの時、彼女は、どうして引き金を引いたのだろうか?
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