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[21]はじめてのアンデスィデ

-209-:準備は出来た?

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「『マスターへのインストール処理が完了しました』」
 天井から聞こえてくる機械音声マシンボイスに“鈴木・くれは”は、目を閉じながら不快感を示した。

 脳内にインストールされた盤上戦騎ディザスターの操作方法。そして魔導書グリモワールチェスのおおまかなルール等々。

 仮契約しか結んでいない高砂・飛遊午は、何の情報も与えられないまま、よくもまぁ、あれだけの戦闘を繰り広げられたもんだと感心して止まない。

「やっぱ、タカサゴはスゴいや…」
 思わず呟いた。

彼氏カレシ褒め褒めデスね~」
 盤上戦騎となったガンランチャーが茶化す。

「うっさいわね!それよりも、何でインストールが終わった時に機械音声の真似事なんかしてたのよ?」
 恥ずかしさを、ぶっきらぼうな口調で誤魔化しにかかる。

「ああいった設定画面での作業は機械音の方が、らしくなるもんですよ。要はノリ。設定を楽しみましょうよぉ」
 気楽なものだ。これから戦闘という時に。


 とはいえ。

 クレハは自らのパイロットスーツを改めて眺めてみた。

 自分で好きなデザインを設定できるとはいえ…。

 袖や襟、スカートの裾にまでフリルをあしらった。おまけにオペラグローブにまでフリルの付いた、まさに“魔法少女”風の衣装。

 可愛らしさを最優先しまくったせいで、果たして耐G機能や防御力などは期待できそうもない。

 今更ながら思う…。

 やっちゃった感満載なコスチュームだなと。

 でも、高砂・飛遊午は普通に制服のまま戦っていたっけ。それに比べたら、これくらいどうって事はないだろう。

「タツローくん、オトギちゃん、準備は出来た?」
 通信を入れる。と、正面ディスプレイに二人の画像が映し出された。

 御手洗・達郎は…。

 現存する宇宙服が細身へと進化したような、どこかアニメで見たことのあるようなパイロットスーツ、しっかりとヘルメットも被っていやがる。クソ面白くとも何とも無い。

 コールブランドのコクピット内装は。

 潜水艦の潜望鏡のように、上から降りているハンドルを握るタイプ。しかも肩から上の周囲270度視界って…狭くないか?まっ、良いか。

 

 御陵・御伽は…クレハはともかく、男性陣皆が驚きの声を上げた。

「ま、まぁ、確かにアニメとかにはあるけどさ…」
 オトギは、いわゆるピッチリ系のパイスーをまとっていた。

 ボディーラインがまる分かりな、チャレンジャー精神旺盛なパイロットスーツ。そこそこ名の知れたグラビアアイドルならゼッタイに断るタイプの衣装だ。

「あ、あまりジロジロ見ないで下さい。恥ずかしい・・です」
 胸を隠しながら顔を染められても…反応に困る。

 さすがは学園人気№1女子だけあって、出るところは出てるし、くびれている所はしっかりとくびれている。運動神経抜群なのに、スレンダーと来た。

 これを凝視せずして何とする。同性のクレハであったが、しっかりとオヤジ目線でオトギのエロいコスチューム姿を堪能する。だけど。

 意外だった。

 あの御陵・御伽のアニメの好みが、まさか“セカイ系”だったとは!

 しかも、グラムのコクピット内装ときたら、これまた男性陣の興奮は止まないだろう。

 シートに跨るバイクスタイル。

 おかげで、通信画面に映るオトギの胸は否応なく強調されるカタチとなる。


「それよりも何て格好をされているのですか?クレハ先輩」
 オトギが信じられないといった表情を見せて訊ねてきた。

 …この状況、どっちもどっちでしょうに…。
 それは言わない約束と念を押したい。



 草間・涼馬から通信が入った。

「みんな、準備はできているようだね。今回は前もって戦場を市街地に設定してくれたおかげで、市松市街は避難が完了していてゴーストタウンと化している。だけど、万が一があるかもしれないので、注意を払って行動して欲しい」

 それは言われるまでもなく。

 だけど、火事場泥棒という輩もいるかもしれない。そういった連中は、わざわざ気にして戦う必要も無いだろう。そこは割り切って考える。

「緊張するなぁ…」
 タツローの声に。

「君たちは、現在いる場所から動かないでくれ。敵は全て僕が倒す。君たちが戦えば、最悪の場合、敵を殺し兼ねないからね」
 リョーマもまたヒューゴと同じく、不必要な殺生は控える気構えだ。

「向こうは殺す気で向かってくるかもしれないのにですか?」
 落ち着いた様子でオトギが訊ねる。

「それでもだ。僕たちは、それが可能な騎体に乗っている。現に、高砂・飛遊午は3度出撃して、誰一人として人を殺めてはいない」
 リョーマの説明の裏では、タツローの感嘆する声が聞こえる。

 考えるまでもなく、当たり前の話をしているので、クレハはスマホを取り出して自写撮りを始めた。

 こういう格好はそうそう出来るものではないし、コスプレをしている人々の気持ちもまんざら解らないものでもない。

「マスタァ、ノリノリですねぇ」
 またもやガンランチャーが茶化す。

「まぁね。できればリョーマくんに全部任せたいところね。んな事よりも、私の事を気安く“マスター”と呼ばないでくれる」
 天井へと向けて文句をぶちまける。

「そもそも、アンタのマスターが拒否してくれるから、私が出撃するハメになったんじゃない!」

 鈴木・くれはは正規契約を交わしたものの、ガンランチャーの代理マスターとして出撃していた。







 
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