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[19]悪魔の王

-206-:よくぞご無事で

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 東欧から遠路はるばるやって来たミュッセ・ペンドラゴンの話によれば…。

 彼が携える魔導書グリモワール“ゴエティア”とは、72体の悪魔を召喚できたとされる魔導書“ゴエティア”を“名前ごと”モチーフにしているとの事。

 元ネタとなった『ゴエティア』(同じ名前なので、ややこしいが)に記載されている72体の悪魔が記載されている順番は、序列ではなく、あくまでも記載された順位に過ぎない。

 ところが、ミュッセが彼ら悪魔たちと契約しようとしたところ、悪魔たちの中にも序列と勘違いしている者が多々存在していて難儀したと言う。

 早い段階で、記載順位37番のフェネクスを城砦ルークの駒として迎えたが為に、彼よりも記載順位の上位の悪魔たちは、さらなる大駒(もはやルークとクィーンのみ)でしか契約を結んでくれない。

 なので。

 泣く泣く記載順位がフェネクス以下の悪魔たちと契約を結ばざるを得なくなった次第。

 さらに輪を掛けて厄介だったのは、フェネクスの地位。

 フェネクスは、魔界での地位は侯爵。

 侯爵以上の爵位を持った悪魔が、フェネクスよりも小駒を引き受けてくれるはずもなく、ここでもあえなく侯爵以下の爵位もしくは地位の悪魔を探すはめに。

 とはいえ、記載順位最下位より2つ目、いわゆるブービーに位置するダンタリオンが公爵なように、序列と勘違いされてしまうと、要らぬ苦労のオンパレードは必至。

「まったく、全ての駒と契約を結ぶのに骨が折れマシタ」
 グチをこぼしつつ首をポキポキ鳴らすミュッセ…。

 彼のグチは、まだまだ続く。

「身の程を弁えないグラシャ=ラボラス(記載順位25番目にして伯爵)のアホを女王クィーンに据え置いたものの、真っ先にくたばってしまうし」
 早い段階で最強のクィーンを失っている模様。しかも、期待するほど強くは無かったようだ。

「先のアンデスィデでは、危うく駒を5つも失うところデシたよ。ったく、ホントに少年ボーイたちには感謝カンゲキでございマス」
 それはそれで大概な戦いぶりだ。

 ミュッセの話など右の耳から左の耳へのヒューゴは、どうしたものかと散々な有様の道場を見渡していた。

 床に大の字で寝かされているミスターサムライに全額弁償してもらおうか…。思うも、彼も被害者の一人に過ぎない。

 どの段階でハギトに憑りつかれたのか定かではないが、彼にすべての罪をなすりつける、もとい!負わせるのは酷だ。

 そんなヒューゴの不安そうな表情を察して。

 ポンとミュッセが札束の山をヒューゴの前に差し出した。帯の札束が5つの2つ山。一千万円ある!

「申し訳ない、ヒューゴ少年ボーイ。今はこれしか持ち合わせが無いのデース」

 だけどヒューゴは、慌てて札束の山をミュッセの前へと押し戻す。

「どうして受け取ってくれないのデース。それともご自身に降り掛かる損害も、すでにギャラに含まれているのデスか?」
 再度大金の山を押してくる。が。

「いや、そういうのじゃなくて、道場の修理は、道場主のミチルさんが施工業者と話し合って決める事で、俺の一存では決められない」
 理由を告げて再度突き返す。

 それにしても、大金を簡単に出すなんて、彼の金銭感覚を疑う。

「てか、ギャラって何だよ?」
 思わぬワードが会話の中に出てきたので訊ねた。

「ギャラはギャラです。我々悪魔と契約を結んだ者に支払われる報酬です」
 フェネクスが説明をくれた。

 “悪魔と契約”とは普通『命』ではないのか?それはさて置いて、ヒューゴは今になって、この王位継承戦にお金が動いている事実を知った。

 人の生死を左右しかねない殺伐とした戦いに身を投じておきながら、それをお金に換算する気にもなれない。

「ほとんどのマスターが円に換算して5億くらいは受け取っているのではないでしょうか。これは私たちの場合ですけど」
 金額が大きすぎて、話についていけない。

 そういえば、黒玉工業の連中もライクから大金をもらっているのだろうか?何せ、コンビニのセットを作ってしまうくらいだし…。

 それはそれで許せないハナシだ。

 甚大な被害を及ぼしかねない戦いを繰り広げておいて、自分たちは契約だからと大金をせしめる。

 まるで戦争屋稼業のようだ。

(こんな事なら、あいつら全員を殺しておけば良かったな…)
 極端な発想に至る。

「マスター!!」「ヒューゴ!!」
 慌てた表情で、ベルタとダナが道場に上がり込んできた。

「よくぞご無事で」
 無事だった事に安心し、感極まって抱き着こうとしてきたベルタを、ヒューゴは寸での所で手を前にかざして、これを拒否。

 彼の中には、ベルタの中のオッサン要素が未だに抜けていなかった。

 その傍らでは。

 リョーマの胸に「マスター!」ダナが飛び込んでいた。

 彼女の、その豊満な胸が圧迫されて、横からはみ出ているではないか。

 それはそれで、とても羨ましい限り。

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