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[19]悪魔の王

-190-:ヒューゴの敵討ちだ!

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 明けて、6月19日―。

 情報整理にと、クレハは昼休みにヒューゴとキョウコをカフェに呼び寄せた。

 当事者となる1年生たち(イオリ・タツロー・オトギ)はあえて呼び寄せずに。

 そして、昨日の出来事を二人に話した。

 神楽・いおり従えるオロチがアンデスィデで、すでに敵の盤上戦騎ディッザスターを食い殺してしまっていること。

 自分も含めて3人が、新たな白側のマスターとなった事も報告した。

 クレハの報告に案の定、両者とも良い顔はしなかった。

 特にヒューゴ。

 だけど彼本人から苦情が出る事は無く、彼が身代わりにベルタのマスターとなった経緯を知るキョウコが、クレハに厳しく当たった。

「そもそも、何で廃病院になんか侵入したのですか?」
 根本的な箇所を今さら責められても、どうにもならない。

 クレハはタツローの軽率な行動を理由にすることもせずに、ただ、申し訳なさそうに苦笑いを返す。

「まあ、今さらどうこう言ってもしょうがないだろ」
 まさに、その通り。解ってくれて、とても嬉しい。

「高砂くんは甘いのよ。鈴木さんも。二人とも直接狙われた事が無いから、悠長に構えていられるのよ」二人に向けてふくれっ面。

「私が契約したボンバートンは、すでにチェスの駒になっちゃっていて、ライフの姿も霊力の供給も無いし、アンデスィデにも参戦しないんだよ」
 心配は無いと告げたつもりなのだが。「でもね、電話でお話しする事は出来るんだ」付け加える最中。

「ココミさんと関わりを持つ事それ自体が危険なのよ!」
 思わずバンッ!と机を叩いてしまい、3人は周囲からの注目を集めてしまった。

 ごめんなさいと周囲に謝りつつ、キョウコは咳払いをした。

 そして。

「もしも貴女のところにジェレミーアが現れても、誰も貴女を守ってはくれないのよ」
 忠告と言うよりも、脅されてしまし、つい。

「あの変態が!」「やめて!人に聞こえてしまうわ」
 ジェレミーア=変態の構図が出来上がってしまう。キョウコが嫌がるのも無理も無い。

 再び周囲に謝る。しかし、今度はクレハも一緒に。

「落ち着けよ、猪苗代。お前の時と同じように、ライクにスズキは無関係だと伝えれば済む話じゃないか」
 とにかく、その件はそれで収めることにした。

 問題はタツローとオトギの方だ。

 折角、契約を結んだ龍たちが、揃いも揃って体に障害を抱えている。果たして、そんな彼らにタツローたちを護る事ができるのだろうか?それも心配ではあるが。

 コールブラントがいつ何時、誰を攻撃するか分からない危うさを抱えている方が問題だ。

 とにかくタツローに、無暗にコールブラントを呼び出さないよう、厳重に注意しておく必要がある。あとで彼に伝えておこう。

 さて。

「これだけ駒が出揃ってしまうと、アンデスィデ発生時に、果たして被害を抑えることができるのだろうか?」
 不安を漏らしつつ、ヒューゴはコーヒーの入ったカップに口を付けた。

「チェスの中盤戦ミドルゲームは、いわゆる“殴り合い”ですものね」
 キョウコの口から出た、これまた過激な表現。「殴り合い?」

「そう。オープニングゲーム中に駒は中央に集まってきているので、中盤戦は最も駒の取り合いが激しくなるの」

 そうなると、アンデスィデはテイクされた駒の周囲8マスを巻き込んで行われるため、参戦する駒も多数になってしまう。被害を抑えるのは、より困難を極める。

 何が何でもココミに、アンデスィデを発生させずに黒側のキングをチェックメイトしてもらわなくてはならない。

 3人はそろってため息を漏らした。

 それが考えられる中で、最もハードルの高い決着手段だから。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 
 今日も剣道部に立ち寄ることなく、真っ直ぐに鶏冠井かいで道場に向かったヒューゴの仕事は、小学生たち少年剣士たちの指導に当たること。

 道場主の鶏冠井・未散かいで・みちるは、今はシニア向けのパソコン&タブレット教室の指導を行っている。

 そして、この後、そろばん教室も控えている、何かとお忙しい身。

 少年たちの打ち込み練習を指導している最中、道場に草間・涼馬が姿を現した。「やあ」軽く挨拶。

 リョーマの姿を目にするなり、少年の一人が彼の元へと駆け寄って行く。

 そして、いきなり竹刀の剣先をリョーマに向けて「ヒューゴの敵討ちだ!」威勢よく勝負を挑んだ。

 リョーマは眼鏡を中指でクィッと上げると。

「それは、この僕が君たちの前で高砂・飛遊午を倒してからにしてもらおうか」
 ついに、リョーマはヒューゴたちの道場に乗り込んできた。が。

「待ちなさい!」
 天馬学府高等部の制服を着た少女が、待った!を掛けた。

 剣道部部長を務める竜崎・海咲りゅうざき・みさきが、サイドテールに結った髪を揺らしながら、彼らの元にツカツカと歩んできた。


 

 
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