盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)

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[17]沼へ

-170-:もう、お嫁に行けないよねぇ

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 しゃがみ込んでいる女子生徒の長い髪がグイッと掴み上げられた。

「イオリぃ、もう一回、悲鳴を上げろよ。なぁ、お前を襲ったのは、この男子なんだろ?」
 イオリと呼ばれる少女が首を横に振ると、さらに髪を高く掴み上げられて、無残に焼かれたヤケドの跡が姿を見せた。

「可哀想に。この男に、散々ヒドい目に遭わされて。もう、お嫁に行けないよねぇ」
 リーダー格の生徒がイオリに顔を寄せる。

 イオリは痛みと恐怖に声を発する事が出来ずに、ただ涙が流れ落ちる目で皆に訴えかける。

「もう、彼女をイジめるな!」
 タツローが制するも。

「先生読んで来いよ。痴漢を捕まえたって」
 リーダー格と思しき女子生徒が、他の生徒に指示を出した。

 タツローたちの横をすり抜けて、女子生徒が女子トイレを後にした。

 リーダー格の生徒が不敵な笑いを浮かべながらタツローへと寄る。

「イオリが証言してくれるなんて希望も持つなよ」
 思いも寄らぬ言葉が耳元で囁かれた。

「コイツはね、私たちにイジメられたくない一心で、すでに万引きや器物破損の罪を犯しているのさ。それをネタに脅してやれば、痴漢のねつ造くらい、あっさり引き受けてくれるさ。くくく」
 あざ笑うリーダー格からイオリへと目線を移す。

 我が身可愛さに、犯罪に手を染めてしまうなんて…。憐みの目を向けてしまう。だけど。

 イオリはただ俯いて。
「ご、ごめんなさ…い」

「な、何を謝っているんだ?君は!」
 意味を察したタツローは茫然と彼女を見つめる。

(ぼ、僕ばかりか…。このままじゃあ、姉ちゃんまで、この学校から追いやれてしまう)
 状況を把握しても、もう、どうする事もできない。

 だけど、何かできないか、考えを巡らせる。

 ここで諦めたら、全部コイツらの思うままじゃないか!

 タツローは立ち塞がる女子生徒と押しのけて、女子トイレから脱出を図る。

 今はどうする事もできないけど、この生徒たちのイジメを知る誰かが、誰かがきっと、これが冤罪だと気付いてくれるはず。だから、とにかく。

 脱出だ!

「逃がすものか!」
 イオリを投げ出して、全員でタツローを追う。

 出口まであと一歩。

 と、いうところで、さっき先生を呼びに出て行った生徒と、出口で鉢合わせになった。

 ぶつかる一歩手前。

「危ない!」
 誰かが咄嗟に声を掛けてくれた。

 思わず避けた先に壁!ブチ当たる!

 と。

 グイッ!と力強く誰かがタツローの腕を掴んだ。


 しまった!

 不覚にも捕まってしまった。


 何としても、この手を振り解かなくては!



 はやるも、腕を掴んだその手は、何故かしら、ゆっくりと優しく自らの方へとタツローを引き入れてくれた。


 この感覚、まさに地獄に仏。

 危うく壁にぶつかりそうなところを助けてくれた張本人へと向く。

 ……へ?

 事態は急転直下!

 何と!タツローの腕を掴んでいるのは。


 御陵・御伽みささぎ・おとぎではないか!



 クレハから粗方理由は聞いていたけど、やはり何を言われるか分からない恐怖は未だに抱いている。

 なので。

「うわぁぁぁ!」
 思わず悲鳴を上げて、後退りするも、オトギにしっかりと腕を掴まれているため、思うように後ろへと下れない。

「お、落ち着いて。タツロー君」
 困惑するも、その手はしっかりと離さない。

「ど、ど、どうして!どうして?御陵さんが!?」
 もはやタツローは混乱状態に陥っていた。

 すると、オトギは捻り上げていた女子生徒の手を解放して、前へと突き飛ばした。

 解放された女子生徒は痛む手首を抑えながら、仲間の影へと隠れる。

 オトギはタツローの腕も解放すると、一歩前へと歩み出て。

「貴女たちを、喫煙と他の生徒への暴力及び恐喝行為の現行犯で告発します」

 毅然とした態度で宣告するオトギの姿に、タツローは助かったのだと安堵すると、急に膝に力が入らなくなり、その場にへたり込んでしまった。

 見上げるオトギの背中は、やけにたくましく…!?その影でタツローは目撃した。



 イオリという生徒が、オトギが登場した瞬間、意図的に目を逸らした事を。

(あれ?今何で彼女、御陵さんから目を逸らしたんだ?)

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