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[13]ミドルゲームスタート!!

-123-:まるで聖人のような台詞を吐くのだな

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 黒玉教会にて―。

 霜月神父の元に、外国人神父が訪れていた。

 彼は“法王庁”から派遣された人物で、霜月神父から魔導書グリモワールチェスの経過報告を受けていた。

 霜月神父からの報告をタブレット端末を用いて法王庁に連絡、今後も監視を怠らないように、念を押すと、黒玉教会から立ち去って行った。

「はぁ~」
 この手の報告手続きが苦手な霜月神父は、ため息を漏らした。

「戦闘による被害が小さ過ぎるだと?誰のご意向に沿いたいのだろうねぇ。まったく」
 塩の代わりに鼻クソをほじって撒いてやった。

 意向も何も、法王庁は基本的に盤上戦騎ディザスター同士の戦いで被害を被った地域に赴いては慈善活動を行うのが目的。
 すなわち、事前に災害が発生する地域と規模が分かっているので、手厚い保護だのニーズに応えるのは出来て当たり前。
 悪く言えば、マッチポンプに勤しんでいる。

 霜月神父は“教会”が行っているエセ慈善活動には心底乗り気ではない。

「随分と絞られていたみたいじゃの」
 栗色の長い髪をなびかせて妲己だっきが現れた。

 いつもながら、彼女の美しさには心奪われてしまう。

 彼女の、濡れた瞳に見つめられてしまうと、霜月神父は鼻の下を伸ばすも、頭を振って。
「いいのかい?勝手に出歩いて。またウォーフィールドに叱られてしまうよ」

「ヤツの年齢を全て足したところで、わらわの生きた年月を超えることなど有り得ぬよ。ガキの戯言など、妾は聞く耳持たぬ」
 ふふっと小さく笑うと、「少し大きく言ってしもうたかの」口元に手を当てる。

 茶目っ気を見せる妲己に、霜月神父は、またもや鼻の下を伸ばした。

千年狐狸精せんねんこりせいだったかな?確か貴女は。千年以上生きていて、今の世の中を見たご感想は?」
 興味本位に訊ねてみた。

「人も獣も千年生きれば仙者の仲間入り。千年が最低ラインと言えば解るかの?それよりも神父殿。女性の前で歳月の話を持ち出すのは禁忌ではないかな?」
 いたずらっぽい眼差しを向けて、神父の唇に立てた人差し指を宛がった。

「悪い九尾なら、この瞬間に神父殿の生気を吸い取っているところじゃ。果たして、妾は良い九尾か?それとも」
 妲己の言葉に、神父の顔がみるみる青ざめて行く。

「ふふふ。冗談じゃ」
 長椅子に腰を掛けると、通路側に足を組んで見せた。

「ところで」
 妲己が神父に流し目をくれる。

「本日、アンデスィデが発生するそうじゃが?」
 訊ねた。

「ライク君は、そう言っていたがね」
 霜月神父はため息を漏らすと。

「最初の頃のように、一方的にココミちゃんの駒を壊してくれると、被害が出ないで済むんだけどねぇ」

「お主のところの小童共が、動かぬ相手をサンドバックにして楽しんでいた、あの頃が良いと申すのかや?」
 目を丸くさせながら足を組み直した。

「ガキ共の火遊びにしては、盤上戦騎ディザスターは危険過ぎる。誰の記憶にも残らない事が“罪が許されている”と勘違いを起こしかねない。俺はその事に懸念を抱いているのさ」

「まるで聖人のような台詞を吐くのだな。お主は」
 意外と言わんばかりに驚いて見せた。

 彼は、見かけこそ不良少年が単に年を食ったような出で立ちをしているが、今では立派な神の僕として布教活動に勤しんでいる身…。

 妲己に苦笑いを返す事しかできない。


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