盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ

ひるま(マテチ)

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[9]地獄の棋譜編

-87-:その体を失い、とくと後悔するがよい!

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「ふん!ぬぅ…」
 ナバリィはOLの肩に足を掛けて、地面から大根を引き抜くように、不恰好にもサーベルを引き抜きに掛かった。

 だが、ベルタも負けてはいない。

「おのれぃ!往生際の悪いッ!さっさと『彼女を死なせるものか!』

「ええぃ!何度も何度も腹立たしい!運命を切り開く力を駆使せぬ者が、他人の命の心配など、おこがましいにも程がある!」
 ナバリィは二人に突き刺さしたサーベルを諦めて、新たなサーベルを2本空間に空けた穴から調達すると「その体を失い、とくと後悔するがよい!」
 まさに双手のサーベルが振り下ろされようとした、その時。

「―ッ!?」
 ハッとナバリィは急に、ベルタたちから距離を置くべく、後方へと飛び退いた。


 ナバリィの視線の向く先には―。


 一匹の黒猫がゆっくりと、ベルタの元へと歩み寄っていた。

「ナバリィ!ロボの旦那が仕事を終えた。とっととズラかるぞ!」
 ウォレスがナバリィに告げるも「それどころではない!急ぎ我らも退くぞ。来い!ウォレス!」
 慌てた様子でナバリィたちは開けた空間の穴へと飛び込んで撤退した。


 敵の撤退を見届けると、「・・ロボ?新し・・い名前・・」足元の血溜りをね上げてOLと串刺しのままベルタはその場に倒れ伏した。

「おーおー、尻尾を巻いて逃げよったか。さすがに探知系でないあ奴らでも、霊力を全開して見せてやれば恐れをなして逃げてくれるか」
 もはや姿の消え失せたナバリィたちに告げるように呟きながら、黒猫が歩み寄る。

「オ、オロチ様です・・か?」
 重傷の上、霊力を消耗し切っている今は声を発するのさえ厳しい。

「共に先の戦に参戦した間柄ではあるが、逢うのは初めてじゃな。ベルタよ」
 黒猫の足元に白く輝く魔法陣が展開された。

「この姿でも、多少は治癒魔法の心得がある。完全とはゆかぬが、その者の命を繋ぎ止める事はできよう。じゃが、心配召さるな。今こちらに治癒に長けた分身・・を向かわせておる。安心せい」
 黒猫の言葉に、ベルタは安堵の笑みを浮かべた。

「それにしても、何故“充填モード”の姿のまま戦っておったのじゃ?男の姿であったなら、あのような小物どもくらい難なく倒せたであろうに?」
 黒猫の問いに、ベルタは申し訳なさそうにただ「面目ない次第です」とだけ告げた。
 黒猫も、油断とおごりから来る敗北だと察して、それ以上は何も訊ねる事はしなかった。

「・・あの・・オロチ・・様。・・先程、“分身”と仰いましたが・・」
 思う以上に深手を負っているため、途切れ途切れの質問となった。

「無理をして訊ねずともよい。まっ、早い話がこの体も分身のひとつよ。本体は街角でしがない占い師をしているババアでな。何せ頭が九つもあるもので、みんな各々好き勝手に道楽に励んでおるのよ」
 答えを聞くなりベルタはキョトンとした眼差しで黒猫を見つめた。
 ならば、もう一つどうしても訊ねたいことがある。

「そ・・それでは、貴方様を何と御呼びすれば・・よろしいのですか?・・」
 ベルタの問いに、黒猫はかしこまって座ると。

「ワシは8番目の頭にして、ご覧の通り体は黒一色じゃろ?」

「え・えぇ…」
 問われたので、ベルタは力を振り絞って返事をして見せた。


 黒猫オロチは、もったいぶって。

「なので“ハチクロ”じゃ」


「そんな人気作品に乗っかるような名前はめてください」
 瀕死に近い身ではあるものの、そこはピシッと言い切る。

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