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[9]地獄の棋譜編
-83-:少しばかりペースが早かったみたいだ
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そして、運命の第20手へ。
[第20手]
白c4:クィーンズ・ビショップ・ポーン(ベルタ)を2マス前進。
黒d×c3e.p:d4ポーン(飢屍のソネ)でc4ポーン(ベルタ)にアンパッサンを仕掛けた。
*注意!!
e.pとはアンパッサンを意味する棋譜表記です。
そして2度目となる“生きた駒”同士のアンデスィデが発生した。
飢屍のソネ&骸骨亡者のキャサリン、迎え撃つは6つ脚火竜のベルタ。
しかし、結果は“前代未聞”のテイクスした側の駒が獲られる、しかも2騎揃っての“返り討ち”となった。
結果、棋譜にも変更が加えられた。
*[第20手]~改訂後~
白c4「c3」:クィーンズ・ビショップ・ポーンを2マス前進させた。→アンパッサンを仕掛けられたが返り討ちにしたので、本来敵駒が移動すべきc3のマスに留まる。
黒d×c3e.p(&b3):d4のポーンでc4ポーンにアンパッサンを仕掛けたが、“b3ポーンと共に返り討ちに遭った”。
黒側の棋譜のみ赤文字で表記されている。
これは本来のチェスでは有り得ない“返り討ちに遭った”事を意味する。カッコ内は共に倒されたキャサリンの駒(b3ポーン)。
それにしても驚くばかりである。こんな無茶苦茶なルールでゲームそのものが破綻しないものなのだろうか?
ライクたちが行っているグリモワール・チェスが“ただの”チェスでない事は重々承知している。こんなルールでキングをチェック・メイトするなんて果たして出来るのだろうか?疑問に思えてならない。
「少し良いかな?」
唐突にライクに一声掛けた。
「何でしょう?神父様」
「少しばかりペースが早かったみたいだ」
ワインボトルを手に取り少し振って見せた。
言っている意味を理解したライクが少し笑って「どうぞ」、霜月神父を送り出した。
席を外して廊下へと出る。
何気なく用を足しに向かう素振りを見せつつ静かにドアを閉めた。
と、腕を組むと、廊下にてスマホを手に佇むウォーフィールドに向かって咳払いした。
「聞こえてしまいましたか?神父様」
「聞こえてはいないが、君の行動はバレバレなんだよ。護衛を兼ねているにせよ、もう少し距離を取ったらどうなんだ。ライク君にも気づかれてしまうよ」
「配慮が至らず―」
「いや、それは良いんだ。それよりも、また何処かの特殊部隊でも来ているのかい?」
謝罪するウォーフィールドを、手をかざして制しながら訊ねた。
「はい。今回は人種から判断して中国軍と思われます。しかも、この黒玉門前教会ではなく、ココミ様たちがご滞在されている天馬教会を狙って周りを取り囲んでいるそうです」
霜月神父はウォーフィールドに腕時計を見せてもらい時間を確認する。
「オイ、まだ9時を過ぎたところだぞ。カチコミだって周囲が寝静まってから仕掛けるものなのに、これじゃあただの押し込み強盗じゃないか」
あまりの荒っぽさに驚いた。
「に、しても、ロシア、アメリカに続いて今度は中国と来たか。そんなに盤上戦騎の特性を利用して敵対もしくは周辺国家にダメージを与えたいものなのかねぇ」
レーダーはもちろんカメラにさえ捉えられず、しかも目撃者がいたとしてもすぐさま記憶から消え去る盤上戦騎は他国の経済やインフラにダメージを与えるには最適の手段だ。
さらに復興支援というマッチポンプのオマケ付き。
法王庁と繋がりのあるごく僅かな国家だけが知り得る情報を駆使しての襲撃であったが、ライクを拉致しようとしたロシア、アメリカ両国の特殊部隊は先日、身元不明の遺体として市松市内の公園に山積みにされて遺棄された。
身元判別の手掛かりとなる装備及び“身体の部位”は警告も兼ねて、後日彼らの乗ってきた車両に乗せて各領事館へと返却された。
「この事はライク君に報告しなくて良いのかね?」
「これは“法王庁”との密約を破る行為であり、同時に法王庁の顔に泥を塗る行為と見なされ、こちらが独断で報復を与えても非難される謂れはございません」
理屈で言えばそうなのだが、ライクに心労を抱え込ませない配慮ならばこの際仕方がない。
もはや多数の死者を出す事は避けられないが、この際、自業自得として受け止めてもらうしかない。
[第20手]
白c4:クィーンズ・ビショップ・ポーン(ベルタ)を2マス前進。
黒d×c3e.p:d4ポーン(飢屍のソネ)でc4ポーン(ベルタ)にアンパッサンを仕掛けた。
*注意!!
e.pとはアンパッサンを意味する棋譜表記です。
そして2度目となる“生きた駒”同士のアンデスィデが発生した。
飢屍のソネ&骸骨亡者のキャサリン、迎え撃つは6つ脚火竜のベルタ。
しかし、結果は“前代未聞”のテイクスした側の駒が獲られる、しかも2騎揃っての“返り討ち”となった。
結果、棋譜にも変更が加えられた。
*[第20手]~改訂後~
白c4「c3」:クィーンズ・ビショップ・ポーンを2マス前進させた。→アンパッサンを仕掛けられたが返り討ちにしたので、本来敵駒が移動すべきc3のマスに留まる。
黒d×c3e.p(&b3):d4のポーンでc4ポーンにアンパッサンを仕掛けたが、“b3ポーンと共に返り討ちに遭った”。
黒側の棋譜のみ赤文字で表記されている。
これは本来のチェスでは有り得ない“返り討ちに遭った”事を意味する。カッコ内は共に倒されたキャサリンの駒(b3ポーン)。
それにしても驚くばかりである。こんな無茶苦茶なルールでゲームそのものが破綻しないものなのだろうか?
ライクたちが行っているグリモワール・チェスが“ただの”チェスでない事は重々承知している。こんなルールでキングをチェック・メイトするなんて果たして出来るのだろうか?疑問に思えてならない。
「少し良いかな?」
唐突にライクに一声掛けた。
「何でしょう?神父様」
「少しばかりペースが早かったみたいだ」
ワインボトルを手に取り少し振って見せた。
言っている意味を理解したライクが少し笑って「どうぞ」、霜月神父を送り出した。
席を外して廊下へと出る。
何気なく用を足しに向かう素振りを見せつつ静かにドアを閉めた。
と、腕を組むと、廊下にてスマホを手に佇むウォーフィールドに向かって咳払いした。
「聞こえてしまいましたか?神父様」
「聞こえてはいないが、君の行動はバレバレなんだよ。護衛を兼ねているにせよ、もう少し距離を取ったらどうなんだ。ライク君にも気づかれてしまうよ」
「配慮が至らず―」
「いや、それは良いんだ。それよりも、また何処かの特殊部隊でも来ているのかい?」
謝罪するウォーフィールドを、手をかざして制しながら訊ねた。
「はい。今回は人種から判断して中国軍と思われます。しかも、この黒玉門前教会ではなく、ココミ様たちがご滞在されている天馬教会を狙って周りを取り囲んでいるそうです」
霜月神父はウォーフィールドに腕時計を見せてもらい時間を確認する。
「オイ、まだ9時を過ぎたところだぞ。カチコミだって周囲が寝静まってから仕掛けるものなのに、これじゃあただの押し込み強盗じゃないか」
あまりの荒っぽさに驚いた。
「に、しても、ロシア、アメリカに続いて今度は中国と来たか。そんなに盤上戦騎の特性を利用して敵対もしくは周辺国家にダメージを与えたいものなのかねぇ」
レーダーはもちろんカメラにさえ捉えられず、しかも目撃者がいたとしてもすぐさま記憶から消え去る盤上戦騎は他国の経済やインフラにダメージを与えるには最適の手段だ。
さらに復興支援というマッチポンプのオマケ付き。
法王庁と繋がりのあるごく僅かな国家だけが知り得る情報を駆使しての襲撃であったが、ライクを拉致しようとしたロシア、アメリカ両国の特殊部隊は先日、身元不明の遺体として市松市内の公園に山積みにされて遺棄された。
身元判別の手掛かりとなる装備及び“身体の部位”は警告も兼ねて、後日彼らの乗ってきた車両に乗せて各領事館へと返却された。
「この事はライク君に報告しなくて良いのかね?」
「これは“法王庁”との密約を破る行為であり、同時に法王庁の顔に泥を塗る行為と見なされ、こちらが独断で報復を与えても非難される謂れはございません」
理屈で言えばそうなのだが、ライクに心労を抱え込ませない配慮ならばこの際仕方がない。
もはや多数の死者を出す事は避けられないが、この際、自業自得として受け止めてもらうしかない。
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