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[8]学園に潜む“魔”
-77-:私はそんなにヒマで意地悪な人間じゃないわよ
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放課後―。
高砂・飛遊午は2週間ぶりに剣道部の練習に参加していた。
とても他人行儀な表現であるが、幽霊部員の彼が置かれている立場ではその表現の方がしっくりとくる。
とはいえ、本日の参加は自発的なものではなく、部長の“竜崎・海咲”が彼を教室まで呼びに来ては道場まで引っ張ってきてのものだった。
男子剣道部員の人数はわずか13人(そのうち数名はバスケット部と兼業)。なので、あえて部長を選出するよりも、圧倒的多数を占める女子剣道部の部長が兼業する方が効率的と、男子部員もまとめて面倒を見ている。
男子更衣室から出たところで。
「あ、高砂君。あなたは今日、練習に参加しなくて良いから」
驚きのあまり、思わず部長の方を二度見した。
「あの部長。わざわざ引っ張って来ておいて、俺を追い返すのですか?」
「私はそんなにヒマで意地悪な人間じゃないわよ。失礼しちゃうわね!」
腕を組んでプンスカと怒って。
「今日は、転校生の部活見学の申し出があったので、あなたにはその案内役を担ってもらいます」
「それは本来部長か副部長の仕事ではないんですかい?」
「ま、そうなんだけど、ね」
やはり押し付けるつもりでいる。
「たまには部活に顔を出しておかないと、他の部員たちから白い目で見られるでしょ。だから、そんな事にならないように、敢えてあなたに仕事を任せたら他の部員たちの心証もアップすること間違いナシ!」
ギャルゲーじゃないのだから他人の心証とかあまり気にしない。のだが、すでに道着に着替えている事だし引き受ける事にした。
で、その転校生とやらはドコのどなた?
「あーッ!ヒューゴさん。剣道部員だったのデスか」
フラウ・ベルゲンだった。まあ、転校生と聞いた時点で予想は付いていたけれど。
ふと、フラウが他方へと顔を向けた。「津浦サン!」
彼女の声の向く方にヒューゴもつられて顔を向けた。
すると、そこには他の生徒たちとは明らかに制服の着こなしの異なる眼鏡少女の姿があった。
「彼女が津浦さんか・・。見た目インパクトがあるのにまったく見覚えが無いな・・」
呟くヒューゴの横を、フラウが風のように駆け抜けていった。
「津浦サンも部活見学に来られたのデスか?」
訊ねつつ、再会に戸惑うツウラの腕を組んでヒューゴたちの元へと引っ張る。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ツウラの止める声に耳を貸さずに、ミサキの前までツウラを連れて来た。
「貴女も?申請の人数は書いて無かったっけ?ま、いいわ。貴女も剣道部へようこそ」
ろくすっぽ確認もせずに二人を迎えたミサキの霊力もまた常人を凌駕していた。
(驚いたわね。この女、ムネオのヤツと同じくらい霊力が高い。こっちはスポーツとはいえ実戦慣れしているようだし、お坊ちゃまのムネオよりも強そう)
少し興味が湧いた。だけど、こういう汗臭いのは苦手だ。
「わ、私はただの通りすがりの―」
「一人で見学なんて、つまらないものよ。急ぐ用事が無いのなら、この娘に付き合っちゃいなさいな」
フラウの頭を撫でながらツウラに告げた。
ミサキが女性である理由に重ねて彼女の強引さに、ツウラはマスター候補から弾き飛ばし、あからさまにムッとした。しかし、撫でられて喜ぶ子犬のようなフラウの表情を見ていると、「仕方無いわね」渋々部活見学に付き合うことにした。
高砂・飛遊午を案内人として剣道部の部活見学が始まった。
道場で子供たちに指導している経験はあるものの、同学年の女子に剣道を教えるのは初めて。ちょっと照れ臭い。
アニメを通して日本の文化に興味を示しているフラウはともかく、こちらの眼鏡女子はあまり興味が無さそう。腕を組んだまま、つまらなさそうにこちらを見つめている。
(何か知らんが、彼女、怒っているのか?)
「では、まず自己紹介を。俺は高砂・飛遊午で―」手を差し出して「ハイッ!」フラウに自己紹介をするよう促した。
「私はフラウ・ベルゲンと申します。では津浦サン!」バトンを渡した。
「ツウラよ…な、何よ?」
身を乗り出しては引いている二人に訊ねた。
「津浦・・何さんデスか?」
フラウの問いに、ツウラが名前ではなく苗字として認識されてしまっている事実を知った。慌てて周囲を見渡す。何かヒントになるものはないか。
部員の出欠を示す名札が目に入った。安子?アンコかしら?名前みたいな苗字ね・・。
「…ヤスコビッチ」ちょっと“ひねり”を加えて呟いてみた。
とたん、二人から「えっ??」訊き返されたので、慌てて「アンジェリーナ!津浦・アンジェリーナよ」違う名前を名乗った。
「わぁー、カッコイイ!モデルさんみたいな名前デスね」
おっしゃる通りファッション雑誌のモデルから名前を“ひねる”コト無く拝借致しました…。
それでは、道場へと二人を案内した。まずは。
「剣道は格闘技だけど、礼法の一面も持ち合わせているんだ。だから道場に入る時と出る時には、まず一礼して、それから上座にも一礼するんだ。出る時はその逆で」
手本を見せて道場に入る。見学者二人も同じように礼をして道場に入った。
「基本、座る時は正座で座ってもらいます。二人は今日お客さんな訳だけど、座布団は出さない。礼に矛盾していると思われるけど、無いのだから勘弁して欲しい」
「そこまでキッチリしなくても、楽に横座りでもしてもらったら良いんじゃない?」
道場の端にいたミサキが叫ぶようにヒューゴに伝えた。
「地獄耳が」吐き捨てるように呟やくと「では楽にして座って下さい」二人に告げた。
それではデモンストレーションと、ヒューゴは二人の前で剣を正眼に構えてからの素振りをして見せた。
さらに左右への足さばき、籠手や胴への打ち込み方を披露して練習メニューのバリエーションを広げてゆく。
(コイツ・・教え方うまいわね・・)
最初は全く興味が無かったのに、いつの間にかヒューゴの説明に聞き入っていた。そんなツウラをフラウは嬉しそうに彼女の顔を見やった。
「ヒューゴさん。実際に試合をしているところを見てみたいデス」
フラウは勢いよく手を挙げて提案した。
高砂・飛遊午は2週間ぶりに剣道部の練習に参加していた。
とても他人行儀な表現であるが、幽霊部員の彼が置かれている立場ではその表現の方がしっくりとくる。
とはいえ、本日の参加は自発的なものではなく、部長の“竜崎・海咲”が彼を教室まで呼びに来ては道場まで引っ張ってきてのものだった。
男子剣道部員の人数はわずか13人(そのうち数名はバスケット部と兼業)。なので、あえて部長を選出するよりも、圧倒的多数を占める女子剣道部の部長が兼業する方が効率的と、男子部員もまとめて面倒を見ている。
男子更衣室から出たところで。
「あ、高砂君。あなたは今日、練習に参加しなくて良いから」
驚きのあまり、思わず部長の方を二度見した。
「あの部長。わざわざ引っ張って来ておいて、俺を追い返すのですか?」
「私はそんなにヒマで意地悪な人間じゃないわよ。失礼しちゃうわね!」
腕を組んでプンスカと怒って。
「今日は、転校生の部活見学の申し出があったので、あなたにはその案内役を担ってもらいます」
「それは本来部長か副部長の仕事ではないんですかい?」
「ま、そうなんだけど、ね」
やはり押し付けるつもりでいる。
「たまには部活に顔を出しておかないと、他の部員たちから白い目で見られるでしょ。だから、そんな事にならないように、敢えてあなたに仕事を任せたら他の部員たちの心証もアップすること間違いナシ!」
ギャルゲーじゃないのだから他人の心証とかあまり気にしない。のだが、すでに道着に着替えている事だし引き受ける事にした。
で、その転校生とやらはドコのどなた?
「あーッ!ヒューゴさん。剣道部員だったのデスか」
フラウ・ベルゲンだった。まあ、転校生と聞いた時点で予想は付いていたけれど。
ふと、フラウが他方へと顔を向けた。「津浦サン!」
彼女の声の向く方にヒューゴもつられて顔を向けた。
すると、そこには他の生徒たちとは明らかに制服の着こなしの異なる眼鏡少女の姿があった。
「彼女が津浦さんか・・。見た目インパクトがあるのにまったく見覚えが無いな・・」
呟くヒューゴの横を、フラウが風のように駆け抜けていった。
「津浦サンも部活見学に来られたのデスか?」
訊ねつつ、再会に戸惑うツウラの腕を組んでヒューゴたちの元へと引っ張る。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ツウラの止める声に耳を貸さずに、ミサキの前までツウラを連れて来た。
「貴女も?申請の人数は書いて無かったっけ?ま、いいわ。貴女も剣道部へようこそ」
ろくすっぽ確認もせずに二人を迎えたミサキの霊力もまた常人を凌駕していた。
(驚いたわね。この女、ムネオのヤツと同じくらい霊力が高い。こっちはスポーツとはいえ実戦慣れしているようだし、お坊ちゃまのムネオよりも強そう)
少し興味が湧いた。だけど、こういう汗臭いのは苦手だ。
「わ、私はただの通りすがりの―」
「一人で見学なんて、つまらないものよ。急ぐ用事が無いのなら、この娘に付き合っちゃいなさいな」
フラウの頭を撫でながらツウラに告げた。
ミサキが女性である理由に重ねて彼女の強引さに、ツウラはマスター候補から弾き飛ばし、あからさまにムッとした。しかし、撫でられて喜ぶ子犬のようなフラウの表情を見ていると、「仕方無いわね」渋々部活見学に付き合うことにした。
高砂・飛遊午を案内人として剣道部の部活見学が始まった。
道場で子供たちに指導している経験はあるものの、同学年の女子に剣道を教えるのは初めて。ちょっと照れ臭い。
アニメを通して日本の文化に興味を示しているフラウはともかく、こちらの眼鏡女子はあまり興味が無さそう。腕を組んだまま、つまらなさそうにこちらを見つめている。
(何か知らんが、彼女、怒っているのか?)
「では、まず自己紹介を。俺は高砂・飛遊午で―」手を差し出して「ハイッ!」フラウに自己紹介をするよう促した。
「私はフラウ・ベルゲンと申します。では津浦サン!」バトンを渡した。
「ツウラよ…な、何よ?」
身を乗り出しては引いている二人に訊ねた。
「津浦・・何さんデスか?」
フラウの問いに、ツウラが名前ではなく苗字として認識されてしまっている事実を知った。慌てて周囲を見渡す。何かヒントになるものはないか。
部員の出欠を示す名札が目に入った。安子?アンコかしら?名前みたいな苗字ね・・。
「…ヤスコビッチ」ちょっと“ひねり”を加えて呟いてみた。
とたん、二人から「えっ??」訊き返されたので、慌てて「アンジェリーナ!津浦・アンジェリーナよ」違う名前を名乗った。
「わぁー、カッコイイ!モデルさんみたいな名前デスね」
おっしゃる通りファッション雑誌のモデルから名前を“ひねる”コト無く拝借致しました…。
それでは、道場へと二人を案内した。まずは。
「剣道は格闘技だけど、礼法の一面も持ち合わせているんだ。だから道場に入る時と出る時には、まず一礼して、それから上座にも一礼するんだ。出る時はその逆で」
手本を見せて道場に入る。見学者二人も同じように礼をして道場に入った。
「基本、座る時は正座で座ってもらいます。二人は今日お客さんな訳だけど、座布団は出さない。礼に矛盾していると思われるけど、無いのだから勘弁して欲しい」
「そこまでキッチリしなくても、楽に横座りでもしてもらったら良いんじゃない?」
道場の端にいたミサキが叫ぶようにヒューゴに伝えた。
「地獄耳が」吐き捨てるように呟やくと「では楽にして座って下さい」二人に告げた。
それではデモンストレーションと、ヒューゴは二人の前で剣を正眼に構えてからの素振りをして見せた。
さらに左右への足さばき、籠手や胴への打ち込み方を披露して練習メニューのバリエーションを広げてゆく。
(コイツ・・教え方うまいわね・・)
最初は全く興味が無かったのに、いつの間にかヒューゴの説明に聞き入っていた。そんなツウラをフラウは嬉しそうに彼女の顔を見やった。
「ヒューゴさん。実際に試合をしているところを見てみたいデス」
フラウは勢いよく手を挙げて提案した。
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