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[8]学園に潜む“魔”

-74-:呼び方なんて、どうでもいいじゃない!

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 しかし、当のフラウは無事という訳にはいかなかった。

 フラウ・ベルゲンは別の棟に来ている事をすっかりと忘れて、クラス全員が別人になっていると途方に暮れていた。
「どうして1-Cになっているのでしょう?ハテ?」
 本来ならば、日差しによってできる影の向きで別の校舎に来ているのだと気付けるはずなのだが、あいにく昼前から天候が崩れて校舎が異なる事に気付けずにいた。
 昼休み終了まで15分。まだ余裕はあるので、もう少し探してみよう。
 フラウは女子トイレ前を通り過ぎて階段を上の階へと上がって行った。

 彼女が上がって行った階段の下へと降りる踊り場で、長い黒髪の裾部を結った少女が数人の少女に囲まれていた。
 少女の一人が黒髪の少女を突き飛ばした。うつ伏せに倒れる少女の背を、さらに別の少女が踏みつけ、踏みにじる。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 天馬学府高等部1号棟2階北側女子トイレ。
 一番奥のトイレ内にて電話をしているニセ女子高生がひとり―。

「そろそろアンデスィデが始まる頃じゃない?電話していて大丈夫なの?」
 一向に話を終えてくれない相手にツウラは苛立ちを覚え始めた。
 とはいえ、相手は“カンシャク持ち女スピット・ファイア”のアッチソン。下手に怒らせるとガトリングガンの如く止まる事を知らない小うるさい文句を延々と聞かされる。

 電源を落としてバッテリーが切れた事にしてやろうかしら?

 ナイスアイデアではあるが、万が一のマスターからの召喚に応じられない恐れもある。切りたいけど切れない。心底困った。本当にアンデスィデが始まって欲しいと願う。

「どうでも良いけど、アナタ達連携は取れているの?バラバラに動いてキャサリン達の二の舞にならないでよね。アナタ達が抜けられたら、ベルタはプロモーションしてクィーンになってしまうのよ」

「ツウラも心配性だね。高砂・飛遊午の霊力ってギリギリ兵士ポーンを動かせる程度でショボいんでしょ?アイツにクィーンなんて動かせはしないよ」
 一度怒ると火が点いたように口うるさいくせして、普段は過ぎるくらいに楽観的なのも、また腹立たしい。

「ライク様たちが行っているのは、“基本は”チェスなのよ。一番強い女王クィーンの駒が2つになったら、チェック・メイトされる確率が上がるの。そこのトコロ頭に入れなさいよ」

「ハイハイ」
 アッチソンの適当な返事に、「キィーッ!」ツウラはスマホのマイクが拾えないくらいの超高音の金切り声を上げた。
 自分がやられて怒りまくる事を、他人には平気でやってのける彼女の矛盾した行動に腸が煮えくり返る。さすがは旦那をストレスでび漫性脱毛症と胃潰瘍いかいように追い込んだだけの事はある。まさにモンスター嫁。

「分かっているついでに言っておくけど、マスター同士のいざこざはアナタ達がしっかりと手綱を引いて避けるのよ。特にアナタのマスターのデキスギ君とスグルさんのとこのムネオの野郎」
 すると、電話の向こうで舌打ちが聞こえた。

「あのねぇツウラ。ウチのマスターをその呼び方しないでくれる。アイツ、その呼び方されるとブチれるのよ。飯豊・来生いいで・きすぎて本名もバカップルの両親が母方の姓を名前に付けたとイヤがってるしさぁ。面倒くさいけど“ナガマサ”て呼んでやってよ。スグルさんちの洲出川・宗郎すでかわ・むねおも“ヒデアキ”で頼むわ」

「呼び方なんて、どうでもいいじゃない!とにかく戦場でケンカさせるなって言いたいの!敵の前で仲間割れなんて、それこそキャサリンたちの二の舞よ。良い!?」

「はいはい。なるべく努力は致しますよ。じゃあバッテリーがヤバいから、これで切るわ」
 それだけ告げると、アッチソンの方からようやく電話を切ってくれた。が。

「こっちのバッテリーだって残りわずかよ!」
 口を尖らせながら電話を仕舞った。

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