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[8]学園に潜む“魔”

-65-:そこに隠れているのは解っている!出て来い!

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「じゃあ、次はこっちだな」
 室外機の後ろに誰かが隠れている様子。

「その前に高砂くん。腕が痛いの。放してもらえると嬉しいな・・・」

 突然のキョウコのお願いに「はぁ!?」と訊き返しそうなったが、もう揉め事は勘弁して欲しいので素直に手を放した。

 そしてその足で確かめようと室外機へと向かう。

「やめて!高砂くん。もしかしたら、隠れているのはアイツかも。“首無しデュラハン”のジェレミーアかもしれない!」
 すかさずキョウコがヒューゴの手を取って引き留めた。

「お前を監視してか?それは無いと思うが一応は確認しておかないと」
 言い聞かせている最中、キョウコの目線はクレハへと注がれた。

「だからってスズキに確認に行かせられないだろ?」
 ヒューゴの問いにキョウコは頭を振って。「そうじゃない!鈴木さん、もう少し私たちの傍へ来て」

 クレハに危険を報せている傍ら、ヒューゴは突然スマホを取り出した。

「?高砂くん?警察を呼ぶの?」
 キョウコが訊ねると、ヒューゴはニヤリと笑い。

「もっと頼りになるヤツを呼び出すのさ」
 ダイヤルをプッシュ。

「ベルタ!俺の目の前に敵がいるかもしれない。召喚だ。来いッ!!」
 叫ぶと、彼らの前に赤く光る魔法陣が現れて中心から撃ち出されたかのように人が飛び出てきた。

 空色の髪をポニーテールに束ね、ドレスと甲冑が一体となった衣裳を纏った少女が現れた。と、すぐさま左腰に差していた脇差しを抜刀して、ヒューゴが向いている室外機へと切っ先を向けた。

「こちらの方向でよろしいですね?」
 クレハそしてキョウコが唖然としている中、少女が確認を求めるとヒューゴは頷いて見せた。

「そこに隠れているのは解っている!出て来い!」
 少女が叫んだ。

 ただ静寂―。

「あ、あのー」「ちょっとよろしいかしら?」
 クレハとキョウコ、二人してヒューゴに質問して良いか?お伺いを立てた。

「どうした?スズキ」

「この、誰?」「ベルタ?確か、ロボットの名前ではありませんでしたか?」
 聖徳太子じゃあるまいし、二人同時に質問されても困る。

「私の名はベルタ。ヒューゴを護る兵士ポーンの“チェスの駒チェス・マン”です。そして貴女の仰る通り、私のもう一つの姿は盤上戦騎ディザスターでもあります」
 困惑するヒューゴに代わって、ベルタが簡潔に説明をしてくれた。

「ベルタ。足音からして隠れているのは一人だと思うがくれぐれも油断はするな」

「ご忠告、感謝します」「それと」向き直るベルタを呼び止めた。

「心得ています。魔者でない限り刃傷沙汰は避けよとの仰せですね」
 頷くヒューゴを見やると、壁を蹴って三角跳びして室外機の側面へと回り込んだ。
 クレハとキョウコ、二人共その人間離れした跳躍に驚くあまり口を開いたまま。

 姿こそ見せないが、慌てて駆け出す足音が聞こえてきた。

 手にスマホを持った小柄な少女が室外機の影から飛び出してきて・・・盛大にコケた。


「あっ」「貴女は!」「お前か!」3人は少女の正体に驚きの声を上げた。
 咄嗟にキョウコは少女の元へと走り寄り、彼女を庇うように抱きかかえた。

 少女を追い掛けて飛び出してきたベルタに「止めろ!ベルタ。その子は敵じゃない!」
 ヒューゴの声にベルタはすぐさま脇差しを鞘に納めた。

「大丈夫?フラウ」
 キョウコがフラウの乱れた髪を優しく撫でて整え「もう大丈夫よ。安心して」震える彼女をなだめる。

「それにしてもアンタが隠れていたとはね。で、何で屋上にいるの?」
 怯える相手を気遣う事無くクレハが訊ねた。

「今朝方、皆さんが屋上に行かれると話していたので、どんな所なのか?興味があったのでこっそり付いて来ちゃいました」

 彼女の言う“こっそり”にヒューゴは心当たりがあった。屋上へ向かう途中、階段で足音の数が多いと感じたのは聞き違いでは無かった。「あ、アレか」思わず呟いた。
 そんな中、ヒューゴはベルタに視線を送ることなく、手振りで彼女に姿を隠すように支持を送った。ベルタはスゥーとゆっくりと後ろへ下がって物陰に隠れた。

「それにしても驚いたぞ、フラウ。急に物陰から飛び出してきたりして。誰かに追い掛けられでもしたのか?」
 フラウに問うヒューゴに、クレハ、キョウコ揃って驚いた表情で彼を見やった。

「何を言っているの?高砂くん?さっきベルタさんて方が」
 キョウコが訊ねる傍ら、クレハはベルタを指差そうとするも、肝心のベルタの姿はどこにも見当らず、ただ人差し指で空間に何かを描くような素振りを見せるだけ。

 首を傾げる二人にフラウも首を傾げて。
「言われてみれば・・どうしてワタシ、急に走ったりなんかしたのでしょう?驚いたのは確かなのですが、ナニに驚いたのか・・??」
 目を閉じて考え込んでいる。でも理由が思い当たらずに頭を振るだけ。

「まぁ、取り敢えずのところ、彼女はマスターじゃないと信じたいな」
 告げるとヒューゴは物陰に隠れているベルタに出てくるよう手で指示を送った。ベルタが姿を現した。

 ベルタの姿を目にするなり「演劇部の方デスかぁー?!」フラウは興味津々。

「その気持ち、分かるわ。こんな格好見たら、誰でもコスプレ衣裳だと思うよね」
 腕を組んでうんうんと頷くクレハ。「で、タカサゴ。今のは?」訊ねた。

「一般の人はベルタのこの姿を見てもすぐに忘れてしまうらしいから、チョイとテストさせてもらったんよ。フラウの反応を見た限り俺の見解では彼女は“シロ”だな」

「私も同感です」
 ベルタも彼女をシロだと判断した。

 傍ら、フラウがベルタにスマホカメラを向けて「写真撮っても良いデスか?」断りを入れるも、急に青ざめた表情を見せ。
「もしかして、アナタ様は幽霊サンなのですか?」
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