57 / 351
[6]魔者たち
-55-:脱ぐ!?
しおりを挟む
「もう!タカサゴってば、先に言わないでよね。私もソレ言おうとしたのに!」
視線は頬を膨らませるクレハへと移され。
「あ、貴方たち・・」
言葉が出ずに、キョウコは思わず両手で口を覆った。
「事故現場に遭遇して警察や救急車を呼ぶのと同じくらい立派な事をしたんだからさ。胸張ろうよ。ねっ」
クレハの言葉に、それはちょっと違うと感じつつも、あざけりの集中砲火に屈して目頭が熱くなりそうだったのが、ここにきて、彼女たちの言葉に感極まって、もう涙を抑え切れそうにない。
「二人とも」
両手の指先で目頭を抑えつつクレハたちに声を掛けた。
「あまり私に優しくしないで。他の人が見たら、『点数を稼いでいる』と捉えられるわよ」
キョウコはクレハたちを退けた。でも。
この状況に置かれながらも他人を思い遣れるキョウコを、クレハは少し見直した。
「猪苗代・・実は―」ヒューゴが何かを伝えようと声を発した瞬間にクレハは彼の手を取り、キョウコから少し距離を置いた。
「タカサゴ、もしかして、あの事話そうとしているんじゃないでしょうね?」
「うーん。それなんだが、何を話せば良いのやら。亜世界とか盤上戦騎の事なんてファンタジーだし、猪苗代のヤツ怒るかもな。かと言って、彼女を放って置けないだろ?」
言われても、とても難しい状況である。
「でも、しょうがないでしょ?もう少し、ほとぼりが冷めるまでキョウコちゃんには“頭がおかしくなった”状態でいてもらわないと」
盤上戦騎とは、全く厄介なロボット達である。目にしながらも、しばらくしたら記憶から消え飛んでしまうなんて。
彼女には申し訳ないが、人の噂も七十五日と言うし、しばらく我慢してもらう他ない。
「スマンがスズキ、ここは一肌脱いでくれないか?」
両肩にガッチリと手を置いてヒューゴが頼み事をしてきた。
「脱ぐ!?」
訊ねるクレハを置き去りにして、ヒューゴはキョウコへと歩を進めた。
「猪苗代」ヒューゴの声にキョウコは向いた。
「実は、お前が見たモノを、スズキも目撃しているんだ」「何ですとぉーッ!?」
ヒューゴの衝撃的発言に、クレハは思わず声を上げた。
「ちょ、ちょっと良い?」
キョウコに断りを入れると、ヒューゴの手を取り、再び彼女から距離を置いた。
「これ、どういう事よぉ?」
小声でヒューゴに詰め寄った。
「一人よりも二人いた方が被害は少なくて済むだろ」
何と単純な発想。まったく呆れ果てる。
「頭割りかい!だったら、タカサゴも『見た』と言いなさいよ」
こうなれば頭数は多い方がいい。お前も道連れにしてやると意気込んだが。
「俺は直接動いているベルタを見てはいない。何せ中に乗っていたもので」
事実その通りではあるが、この際ウソでも『見た』と言って欲しい訳よ。
「うーわ、ズルい」
スモール・マン全開の高砂・飛遊午には、もはやそれしか言葉が出なかった。
そんなヒューゴに背中を押されてキョウコの元へと寄る。
「え、と。確か、こんなんだったかな?」
と、クレハはノートを開いてベルタを描いて見せた。
走り書きで描かれたベルタを目にするなり、キョウコは「プッ」と吹き出すも。
「ええ、そうよ。確かに特徴は捉えているわ」
クレハの絵心の無さに笑いを堪え切れずに、微かに両肩が上下している。
絵の苦手な人特有の、手足は棒線のみ。しかし、温泉マークのように描かれた髪には“かみのけ”と、腕と膝から伸びる刀剣には、それぞれ“サバイバルナイフ”、“真っ直ぐな刀”と添え書きが入っている。
するとキョウコは、机の中からクシャクシャに丸められた一枚の紙を取り出すと、その紙を広げてクレハたちに見せてくれた。そこには精巧に描かれたベルタの姿があった。ポニーテールに結った髪はもちろん、膝関節の裏まで突き出た直刀もしっかりと描かれていた。
「アレを見た時に、誰かに信じて欲しくて、これを描いて皆に見せたわ。すると誰かが『弟が見ていた特撮ヒーロー物にこれが出ていた』と言って・・。私、そんな番組、観たことも無いのに・・」
クシャクシャに丸めた紙から、彼女の悔しさが伝わってくる。
確かに彼女の言っている事は真実である。カニヨロイドと異なりベルタには中の人は入っていない。膝から膝裏へと突き抜けている直刀が何よりの証拠だ。
「ワタシの国では放送していませんでしたが、ネットを通して観ている人が多くて、男の子たちには大変人気でしたよ」
フラウ・ベルゲンが唐突に話に割り込んできた。
「ワタシも大好きですよ。猪苗代サンもガイオウジャーの大ファンなのデスカ?」
初めて見る外国からの転入生に、キョウコは目を丸くして、ただ首を横に振るだけ。
クレハはそんなフラウの襟首を掴み上げると、キョウコから距離を離した。
「テメェは人の心の傷に塩を塗りたくって楽しいのかい!?」
フラウの両頬をつまむと横へと伸ばして問い詰める。
「ふぁぁ、ひたいへふぅ」もはや言葉になっていない。
「あの子は?」
キョウコがヒューゴに訊ねた。
「ドイツからの転入生でフラウ・ベルゲンて言うんだ。日本のアニメが好きなんだとさ」
本人を差し置いて、代わりにヒューゴが彼女の紹介をした。
「見た目も可愛い子だし、ああやって皆に可愛がられているんだ。猪苗代も仲良くしてやってくれ」
「え?ええ」戸惑いつつ返事をするも、いま彼女の受けているのはスキンシップにしては少々過激で、“いじめ”に発展しなければ良いのだがと危惧してしまう。その一方で、後で改めて自己紹介をしておこうと心に決めるキョウコであった。
「おはよー、委員長」
挨拶を返そうと向いた先には御手洗・虎美の姿が。
しかし、彼女の姿を見た途端、キョウコは頭を悩ませ「おはよう、御手洗さん」
もはや何も言うまい。何で頭にタオルを巻いて来るのだと。
「まー、気にしないでちょうだいよ。朝練の後にさ、頭から水をかぶったんだけど、なかなか乾かなくてね。しょうがないからターバン巻いて来ちゃった」
訊いてもいないのに、自らターバンと言ってしまうの?
担任の葛城・志穂が教室に入ってきた。朝のホームルームが始まる。
早速、頭に巻いているタオルを注意されているトラミに。
「うぅぅ」やはり痛むのか?両頬を手で押さえているフラウ・・。
目が合えば小さく手を振って笑みを返してくれるクレハにヒューゴ。
キョウコは、ふと感じた。
このクラスって、こんなに賑やかだったかしら?
少しずつではあるが、日常を取り戻しつつあると実感した。
放課後―。
今一つ調子の芳しくないキョウコは早々に帰宅することにした。理由は他にもある。
本日の生徒会の議題は、先日の騒ぎもあって、各クラス、各部活でのシェルター非難先の確認であったが、無暗に騒ぎ立てた張本人であり今日の会議の出席を辞退した。この件に関しては、副委員に任せておいたほうが無難だ。
歩きながら、友人たちの有難みを改めて噛み締める。
今まで、さほど会話を交わさなかったクレハやトラミたちが、他の誰よりも自分を心配してくれていたのには正直驚かされた。
一方で、今まで彼女たちに厳しく接してきた事を深く反省した。
もっと彼女たちと話がしたいな…。
そう思った矢先、黒のマントに身を包んだ、仮装パーティーで使われる目元だけを隠した半面マスクを被った、恐らく男性であろう人物が彼女の視界に入った。
こんな所で何をしているのだろう?疑問を抱くも、マジマジと見るのは相手に対して失礼と判断。世の中、どんな人がいるのか分かったものじゃないので、変わり者には関わらないようにしよう。
彼の前を過ぎようとした時に「お嬢さん」
見渡す行為はしてはならない。視界に入る限り、周りには誰もいない。
明らかに声を掛けられているのは解っている。だけど無視して通り過ぎてしまおう。
「ツレナイですねぇ。猪苗代・恐子さん、貴女に声をかけているのですよ」
キョウコの足が止まった。
振り向いてはいけないし、口も利いてはいけない。とは解っているけど、どうして名前を知っているのか?恐ろしさが理性を上回り、キョウコは思わず振り返ってしまった。
目が向いたその時、男の頭がストンッ!腰の辺りまで落っこちた。
手品師!?
見たことのある手品ではある。が。
彼の意図は全く解らないが、やはりこの人、変な人だ!
視線は頬を膨らませるクレハへと移され。
「あ、貴方たち・・」
言葉が出ずに、キョウコは思わず両手で口を覆った。
「事故現場に遭遇して警察や救急車を呼ぶのと同じくらい立派な事をしたんだからさ。胸張ろうよ。ねっ」
クレハの言葉に、それはちょっと違うと感じつつも、あざけりの集中砲火に屈して目頭が熱くなりそうだったのが、ここにきて、彼女たちの言葉に感極まって、もう涙を抑え切れそうにない。
「二人とも」
両手の指先で目頭を抑えつつクレハたちに声を掛けた。
「あまり私に優しくしないで。他の人が見たら、『点数を稼いでいる』と捉えられるわよ」
キョウコはクレハたちを退けた。でも。
この状況に置かれながらも他人を思い遣れるキョウコを、クレハは少し見直した。
「猪苗代・・実は―」ヒューゴが何かを伝えようと声を発した瞬間にクレハは彼の手を取り、キョウコから少し距離を置いた。
「タカサゴ、もしかして、あの事話そうとしているんじゃないでしょうね?」
「うーん。それなんだが、何を話せば良いのやら。亜世界とか盤上戦騎の事なんてファンタジーだし、猪苗代のヤツ怒るかもな。かと言って、彼女を放って置けないだろ?」
言われても、とても難しい状況である。
「でも、しょうがないでしょ?もう少し、ほとぼりが冷めるまでキョウコちゃんには“頭がおかしくなった”状態でいてもらわないと」
盤上戦騎とは、全く厄介なロボット達である。目にしながらも、しばらくしたら記憶から消え飛んでしまうなんて。
彼女には申し訳ないが、人の噂も七十五日と言うし、しばらく我慢してもらう他ない。
「スマンがスズキ、ここは一肌脱いでくれないか?」
両肩にガッチリと手を置いてヒューゴが頼み事をしてきた。
「脱ぐ!?」
訊ねるクレハを置き去りにして、ヒューゴはキョウコへと歩を進めた。
「猪苗代」ヒューゴの声にキョウコは向いた。
「実は、お前が見たモノを、スズキも目撃しているんだ」「何ですとぉーッ!?」
ヒューゴの衝撃的発言に、クレハは思わず声を上げた。
「ちょ、ちょっと良い?」
キョウコに断りを入れると、ヒューゴの手を取り、再び彼女から距離を置いた。
「これ、どういう事よぉ?」
小声でヒューゴに詰め寄った。
「一人よりも二人いた方が被害は少なくて済むだろ」
何と単純な発想。まったく呆れ果てる。
「頭割りかい!だったら、タカサゴも『見た』と言いなさいよ」
こうなれば頭数は多い方がいい。お前も道連れにしてやると意気込んだが。
「俺は直接動いているベルタを見てはいない。何せ中に乗っていたもので」
事実その通りではあるが、この際ウソでも『見た』と言って欲しい訳よ。
「うーわ、ズルい」
スモール・マン全開の高砂・飛遊午には、もはやそれしか言葉が出なかった。
そんなヒューゴに背中を押されてキョウコの元へと寄る。
「え、と。確か、こんなんだったかな?」
と、クレハはノートを開いてベルタを描いて見せた。
走り書きで描かれたベルタを目にするなり、キョウコは「プッ」と吹き出すも。
「ええ、そうよ。確かに特徴は捉えているわ」
クレハの絵心の無さに笑いを堪え切れずに、微かに両肩が上下している。
絵の苦手な人特有の、手足は棒線のみ。しかし、温泉マークのように描かれた髪には“かみのけ”と、腕と膝から伸びる刀剣には、それぞれ“サバイバルナイフ”、“真っ直ぐな刀”と添え書きが入っている。
するとキョウコは、机の中からクシャクシャに丸められた一枚の紙を取り出すと、その紙を広げてクレハたちに見せてくれた。そこには精巧に描かれたベルタの姿があった。ポニーテールに結った髪はもちろん、膝関節の裏まで突き出た直刀もしっかりと描かれていた。
「アレを見た時に、誰かに信じて欲しくて、これを描いて皆に見せたわ。すると誰かが『弟が見ていた特撮ヒーロー物にこれが出ていた』と言って・・。私、そんな番組、観たことも無いのに・・」
クシャクシャに丸めた紙から、彼女の悔しさが伝わってくる。
確かに彼女の言っている事は真実である。カニヨロイドと異なりベルタには中の人は入っていない。膝から膝裏へと突き抜けている直刀が何よりの証拠だ。
「ワタシの国では放送していませんでしたが、ネットを通して観ている人が多くて、男の子たちには大変人気でしたよ」
フラウ・ベルゲンが唐突に話に割り込んできた。
「ワタシも大好きですよ。猪苗代サンもガイオウジャーの大ファンなのデスカ?」
初めて見る外国からの転入生に、キョウコは目を丸くして、ただ首を横に振るだけ。
クレハはそんなフラウの襟首を掴み上げると、キョウコから距離を離した。
「テメェは人の心の傷に塩を塗りたくって楽しいのかい!?」
フラウの両頬をつまむと横へと伸ばして問い詰める。
「ふぁぁ、ひたいへふぅ」もはや言葉になっていない。
「あの子は?」
キョウコがヒューゴに訊ねた。
「ドイツからの転入生でフラウ・ベルゲンて言うんだ。日本のアニメが好きなんだとさ」
本人を差し置いて、代わりにヒューゴが彼女の紹介をした。
「見た目も可愛い子だし、ああやって皆に可愛がられているんだ。猪苗代も仲良くしてやってくれ」
「え?ええ」戸惑いつつ返事をするも、いま彼女の受けているのはスキンシップにしては少々過激で、“いじめ”に発展しなければ良いのだがと危惧してしまう。その一方で、後で改めて自己紹介をしておこうと心に決めるキョウコであった。
「おはよー、委員長」
挨拶を返そうと向いた先には御手洗・虎美の姿が。
しかし、彼女の姿を見た途端、キョウコは頭を悩ませ「おはよう、御手洗さん」
もはや何も言うまい。何で頭にタオルを巻いて来るのだと。
「まー、気にしないでちょうだいよ。朝練の後にさ、頭から水をかぶったんだけど、なかなか乾かなくてね。しょうがないからターバン巻いて来ちゃった」
訊いてもいないのに、自らターバンと言ってしまうの?
担任の葛城・志穂が教室に入ってきた。朝のホームルームが始まる。
早速、頭に巻いているタオルを注意されているトラミに。
「うぅぅ」やはり痛むのか?両頬を手で押さえているフラウ・・。
目が合えば小さく手を振って笑みを返してくれるクレハにヒューゴ。
キョウコは、ふと感じた。
このクラスって、こんなに賑やかだったかしら?
少しずつではあるが、日常を取り戻しつつあると実感した。
放課後―。
今一つ調子の芳しくないキョウコは早々に帰宅することにした。理由は他にもある。
本日の生徒会の議題は、先日の騒ぎもあって、各クラス、各部活でのシェルター非難先の確認であったが、無暗に騒ぎ立てた張本人であり今日の会議の出席を辞退した。この件に関しては、副委員に任せておいたほうが無難だ。
歩きながら、友人たちの有難みを改めて噛み締める。
今まで、さほど会話を交わさなかったクレハやトラミたちが、他の誰よりも自分を心配してくれていたのには正直驚かされた。
一方で、今まで彼女たちに厳しく接してきた事を深く反省した。
もっと彼女たちと話がしたいな…。
そう思った矢先、黒のマントに身を包んだ、仮装パーティーで使われる目元だけを隠した半面マスクを被った、恐らく男性であろう人物が彼女の視界に入った。
こんな所で何をしているのだろう?疑問を抱くも、マジマジと見るのは相手に対して失礼と判断。世の中、どんな人がいるのか分かったものじゃないので、変わり者には関わらないようにしよう。
彼の前を過ぎようとした時に「お嬢さん」
見渡す行為はしてはならない。視界に入る限り、周りには誰もいない。
明らかに声を掛けられているのは解っている。だけど無視して通り過ぎてしまおう。
「ツレナイですねぇ。猪苗代・恐子さん、貴女に声をかけているのですよ」
キョウコの足が止まった。
振り向いてはいけないし、口も利いてはいけない。とは解っているけど、どうして名前を知っているのか?恐ろしさが理性を上回り、キョウコは思わず振り返ってしまった。
目が向いたその時、男の頭がストンッ!腰の辺りまで落っこちた。
手品師!?
見たことのある手品ではある。が。
彼の意図は全く解らないが、やはりこの人、変な人だ!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる