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[4]主と従
-34-:ややこしくなる?
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ウォーフィールドの手がゆっくりと握られ…悲鳴も上げられず、強く目を閉じて涙も出ない。恐怖が過ぎると何も出ないものなのだ。そして無情にもカチッ!
もう一度カチッ!と鳴った。そしてもう一度カチッ!
傷が深いと、脳が痛みを遮断すると言うけれど、全く痛みが無いのも異様な感覚だ。
(うぅぅ・・。何本指を落としてくれるのよぅ・・)
薄っすらと目を開けてみる。見たくは無いが、おずおずと左手に目を移す・・。
「へっ!?」指は5本揃っている。
「冗談ですよ。クレハ様。ふふふ」
シガーカッターを何度もカチカチ鳴らしながら、穏やかな笑みを向けていた。
「さぁ、ヒデヨシ様、人前で無様な姿を晒すのは本意では無いでしょう。ご自宅へ戻って、ゆっくりとお休み下さい」
闇執事に帰宅を促されて立ち上がったヒデヨシが歩き出す。その姿は、まるでゾンビ映画に出てくる街を徘徊するゾンビそのものだ。
眺めながら思うも。
(えっ!?冗談?冗談なの??アナタ、冗談言うキャラだったの!?)
安心を得ても声が出なかった。体中の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「クレハ先輩!」
突然の校門からの声。顔を向けると、そこには弓道の道着に着替えた御陵・御伽の姿があった。
「一向に部活に姿をお見せにならないから、部長から探してくるよう仰せつかったのですが。先輩!こんな所で何をされていたのですか!?」
(何でこんなタイミングで出てくるのよ)
部活に遅れる言い訳もまだ考えてもいないし、彼女をこのグリモワール・チェスに巻き込む訳にもいかないし、色々考えすぎて脳がパンクしそうだ。言葉が見つからない。
「クレハは―」「黙って!あなた達みんな黙っていて!ややこしくなるから!」
説明しようと口を開いたライクを、その他その場にいる者たちに黙るよう指示した。
「ややこしくなる?」
オトギはクレハの元へと歩み寄ると、左手を腰に当てた姿勢で彼女を見下ろしていた。
「あのね、オトギちゃん。その・・見下ろして訊き直されるともの凄く怖いよ。アナタ美人さんなんだし、余計に。ね」
「部活にも顔を出さずに何をされていたのか、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
何でこんな時に尋問を受けなければならないのか?
歴史の教科書の挿絵で見たことのある、江戸時代の裁判風景を思い出す・・。三角形の木の台に正座をさせられて、太ももの上に何枚も石板を載せられる、まさにザ・拷問なアレ(石抱の事)をされている心境だ。言葉が思い浮かばない。
「昼休みに賭けチェスの手を教えて欲しいと仰っていましたね?それと関係があるのですか?」
今、この場でチェスという単語を出すのは控えて欲しい。しかも“賭け”なんて人聞きの悪い。一枚石版を追加された気分・・。
「まさか!この方たちが賭けチェスをしている張本人なのですか?」
察しが良すぎて困るのよ。もう一枚追加・・。
「あんな子供まで巻き込んで。賭け事は節度を持った大人の―」
ライクを指差して、クレハに詰め寄っていたオトギの体がふわりと舞った。
ウォーフィールドが彼女の傍に立っている!しかも左手を彼女の腰に回して。
引き寄せる姿は、まるで社交ダンスのワンシーンのよう。
(やっぱり美男美女は画になるなぁ・・)ついつい見とれてしまう。
「坊ちゃまを其処らの子供と一緒にしないで頂きたい」
ウォーフィールドのブルーの瞳がオトギの赤茶の瞳を捉える。彼の後ろ手には2本のアイスピックと思しきものが!
「ライク君!アンタの狂犬がまた暴走してる!」
向いて注意するも。
「へぇー、スゴいね」「スゴーい」
ライク、ココミ二人そろって本を眺めて大はしゃぎ。
コイツらは公園に来てまで携帯ゲームで遊んでいる小学生かッ!!
誰も頼りにならない。だったら!オトギへと駆け出し―。
「そう殺気立つでない。ウォーフィールドよ」
知らぬ間に一人増えていた。
サマーセーターを纏った、栗色の膝裏辺りまで伸ばしたロングヘアーの女性の姿がそこにあった。
もう一度カチッ!と鳴った。そしてもう一度カチッ!
傷が深いと、脳が痛みを遮断すると言うけれど、全く痛みが無いのも異様な感覚だ。
(うぅぅ・・。何本指を落としてくれるのよぅ・・)
薄っすらと目を開けてみる。見たくは無いが、おずおずと左手に目を移す・・。
「へっ!?」指は5本揃っている。
「冗談ですよ。クレハ様。ふふふ」
シガーカッターを何度もカチカチ鳴らしながら、穏やかな笑みを向けていた。
「さぁ、ヒデヨシ様、人前で無様な姿を晒すのは本意では無いでしょう。ご自宅へ戻って、ゆっくりとお休み下さい」
闇執事に帰宅を促されて立ち上がったヒデヨシが歩き出す。その姿は、まるでゾンビ映画に出てくる街を徘徊するゾンビそのものだ。
眺めながら思うも。
(えっ!?冗談?冗談なの??アナタ、冗談言うキャラだったの!?)
安心を得ても声が出なかった。体中の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「クレハ先輩!」
突然の校門からの声。顔を向けると、そこには弓道の道着に着替えた御陵・御伽の姿があった。
「一向に部活に姿をお見せにならないから、部長から探してくるよう仰せつかったのですが。先輩!こんな所で何をされていたのですか!?」
(何でこんなタイミングで出てくるのよ)
部活に遅れる言い訳もまだ考えてもいないし、彼女をこのグリモワール・チェスに巻き込む訳にもいかないし、色々考えすぎて脳がパンクしそうだ。言葉が見つからない。
「クレハは―」「黙って!あなた達みんな黙っていて!ややこしくなるから!」
説明しようと口を開いたライクを、その他その場にいる者たちに黙るよう指示した。
「ややこしくなる?」
オトギはクレハの元へと歩み寄ると、左手を腰に当てた姿勢で彼女を見下ろしていた。
「あのね、オトギちゃん。その・・見下ろして訊き直されるともの凄く怖いよ。アナタ美人さんなんだし、余計に。ね」
「部活にも顔を出さずに何をされていたのか、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
何でこんな時に尋問を受けなければならないのか?
歴史の教科書の挿絵で見たことのある、江戸時代の裁判風景を思い出す・・。三角形の木の台に正座をさせられて、太ももの上に何枚も石板を載せられる、まさにザ・拷問なアレ(石抱の事)をされている心境だ。言葉が思い浮かばない。
「昼休みに賭けチェスの手を教えて欲しいと仰っていましたね?それと関係があるのですか?」
今、この場でチェスという単語を出すのは控えて欲しい。しかも“賭け”なんて人聞きの悪い。一枚石版を追加された気分・・。
「まさか!この方たちが賭けチェスをしている張本人なのですか?」
察しが良すぎて困るのよ。もう一枚追加・・。
「あんな子供まで巻き込んで。賭け事は節度を持った大人の―」
ライクを指差して、クレハに詰め寄っていたオトギの体がふわりと舞った。
ウォーフィールドが彼女の傍に立っている!しかも左手を彼女の腰に回して。
引き寄せる姿は、まるで社交ダンスのワンシーンのよう。
(やっぱり美男美女は画になるなぁ・・)ついつい見とれてしまう。
「坊ちゃまを其処らの子供と一緒にしないで頂きたい」
ウォーフィールドのブルーの瞳がオトギの赤茶の瞳を捉える。彼の後ろ手には2本のアイスピックと思しきものが!
「ライク君!アンタの狂犬がまた暴走してる!」
向いて注意するも。
「へぇー、スゴいね」「スゴーい」
ライク、ココミ二人そろって本を眺めて大はしゃぎ。
コイツらは公園に来てまで携帯ゲームで遊んでいる小学生かッ!!
誰も頼りにならない。だったら!オトギへと駆け出し―。
「そう殺気立つでない。ウォーフィールドよ」
知らぬ間に一人増えていた。
サマーセーターを纏った、栗色の膝裏辺りまで伸ばしたロングヘアーの女性の姿がそこにあった。
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