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[3]チェスを始めましょう
―30-:これ、アンパッサンだよ
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「ココミ!アレが何なのか?お前知っているのか!?」
「どうして?ベルタさんを取ることなんて出来ない筈なのに…」
動揺するあまり、訊ねるヒューゴの声が耳に届いていないようだ。
「ココミ、しっかりせぇ!」ルーティがココミの頬を叩いた。
が、やはり加減が利かないのか、勢いよくココミの体は張り倒されてしまった。
「ココミ!時間があらへん。さっさとコイツ等のどちらかにベルタはんと契約してもらわな」
「何がどうなっているんだ?誰か説明してくれよぉッ!」
こんな状況は作ろうと企んでも到底ムリ!なので言ったもの勝ち。…とココミへと向き直り。
「お前、いま『ベルタさんを取ることなんて出来ない筈』って言ったよな?『取る』って単語が出てきた事から察して、空に浮いているアレは本から出てきたチェスの駒と関係あるんだな?」
もはや質問ではなく確認を求めていた。
「早よせな。ベルタはんも皆と同じように嬲り殺しに遭ってしまはるで」
「お前は黙ってろ!ココミ!お前何をした?タイムリミットが延長されたと言っていたが、駒を動かしたからタイムリミットが延びたんじゃないのか?」
ヒューゴの問いにココミは力なく頷いて見せた。つでに本を広げて現在の盤面も見せてくれた。
c2に位置していた白ポーンが姿を消してc3に黒ポーンが移動している。
クレハとヒューゴが最悪の手だとしていたc2白ポーンを2マス前進させた後にd3黒ポーンによるアンパッサン。つまり伏兵によって駒を取られてしまったのだ。
「ココミちゃん。これ、アンパッサンだよ」
「アンパッサン・・?」
「うん。ポーンを2マス進めて相手の黒ポーンの隣へ移動させたから安心したでしょ?でもこういった場面に限って移動の途中で相手のポーンを仕留める特殊なルールが設けられているの」
「そんなルールがあったなんて・・」
知り得なかったルールに驚くココミにヒューゴが彼女の胸ぐらを掴んだ。
「何故、俺たちを待たなかった。時間まで15分も早く到着したのに、どうして俺たちを待てなかった。お前、俺たちにこのゲームを託してくれたんじゃないのか?わざわざ相手に駒を差し出さなくても、この取られた駒で逆にb3にいた黒のポーンを取れば良かったじゃないか!」
「残念ですが、それはできませんでした」
「できない?」
胸ぐらを掴んでいたヒューゴの手が離された。
「ベルタさんは、まだマスター契約を果たしていない駒です。一方相手の駒はすでにマスター契約を果たしています。マスターを得ていないベルタさんでは相手の駒を取ったところで成す術もなく一方的に倒されるだけなのです。だから、こちらから駒を取るなんてできなかったのです」
で、結果がこのザマである。
「で、ココミちゃん。マスター契約ってことは私たちのどちらかにアレに乗って戦えって意味だよね?無茶言わないでよ。何で私たちなの?冗談じゃない。ヤメテよね!」
「スズキの言う通りだよ。俺たちはてっきりゲームの助言を求めているものだと思ったから承諾したのに、戦うってなら話は別だ」
二人して参戦を拒否した。
「お前らに考えてもらって何とかなるんか!」
二人が声を荒げるルーティへと向き直った。
「考えてもらうのも、戦ってもらうのも、ホンマ言うたら頼みとう無いわ!でも、どないもならへんのや。あの姿のベルタはんたちは自力で動けへんし、ウチらの魔力では動かせへん。みんなを動かせるのは、この世界の人間が持ってる霊力を変換させた魔力だけなんや」
なんて回りくどい機巧なのだろう・・。
「オマエらと逢う前に消えていった皆は小指一本動かすコトもできずに一方的に殺されてしもたんや!」
「ルーティ、別に誰も殺されては・・」「うっさい!」
「みんな、死ぬほど痛い思いしたはるのに、ウチら何も出来ひんかった。もう誰にも痛い思いさせとう無かったのに・・クソッ!」
涙にくれるルーティの肩に、そっとココミの手が添えられた。
「ズェスさんも言って下さったではありませんか。痛みはあっても死ぬ訳では無いと。それに今回はルールを知らなかった私に非がー」「アホ言え!」
悲しみを抑え、それでも少し鼻声になりつつあったココミの声をルーティが遮った。
「それって拷問だよね?」
二人のやりとりに思わずクレハが口を挟んだ。
「どうして?ベルタさんを取ることなんて出来ない筈なのに…」
動揺するあまり、訊ねるヒューゴの声が耳に届いていないようだ。
「ココミ、しっかりせぇ!」ルーティがココミの頬を叩いた。
が、やはり加減が利かないのか、勢いよくココミの体は張り倒されてしまった。
「ココミ!時間があらへん。さっさとコイツ等のどちらかにベルタはんと契約してもらわな」
「何がどうなっているんだ?誰か説明してくれよぉッ!」
こんな状況は作ろうと企んでも到底ムリ!なので言ったもの勝ち。…とココミへと向き直り。
「お前、いま『ベルタさんを取ることなんて出来ない筈』って言ったよな?『取る』って単語が出てきた事から察して、空に浮いているアレは本から出てきたチェスの駒と関係あるんだな?」
もはや質問ではなく確認を求めていた。
「早よせな。ベルタはんも皆と同じように嬲り殺しに遭ってしまはるで」
「お前は黙ってろ!ココミ!お前何をした?タイムリミットが延長されたと言っていたが、駒を動かしたからタイムリミットが延びたんじゃないのか?」
ヒューゴの問いにココミは力なく頷いて見せた。つでに本を広げて現在の盤面も見せてくれた。
c2に位置していた白ポーンが姿を消してc3に黒ポーンが移動している。
クレハとヒューゴが最悪の手だとしていたc2白ポーンを2マス前進させた後にd3黒ポーンによるアンパッサン。つまり伏兵によって駒を取られてしまったのだ。
「ココミちゃん。これ、アンパッサンだよ」
「アンパッサン・・?」
「うん。ポーンを2マス進めて相手の黒ポーンの隣へ移動させたから安心したでしょ?でもこういった場面に限って移動の途中で相手のポーンを仕留める特殊なルールが設けられているの」
「そんなルールがあったなんて・・」
知り得なかったルールに驚くココミにヒューゴが彼女の胸ぐらを掴んだ。
「何故、俺たちを待たなかった。時間まで15分も早く到着したのに、どうして俺たちを待てなかった。お前、俺たちにこのゲームを託してくれたんじゃないのか?わざわざ相手に駒を差し出さなくても、この取られた駒で逆にb3にいた黒のポーンを取れば良かったじゃないか!」
「残念ですが、それはできませんでした」
「できない?」
胸ぐらを掴んでいたヒューゴの手が離された。
「ベルタさんは、まだマスター契約を果たしていない駒です。一方相手の駒はすでにマスター契約を果たしています。マスターを得ていないベルタさんでは相手の駒を取ったところで成す術もなく一方的に倒されるだけなのです。だから、こちらから駒を取るなんてできなかったのです」
で、結果がこのザマである。
「で、ココミちゃん。マスター契約ってことは私たちのどちらかにアレに乗って戦えって意味だよね?無茶言わないでよ。何で私たちなの?冗談じゃない。ヤメテよね!」
「スズキの言う通りだよ。俺たちはてっきりゲームの助言を求めているものだと思ったから承諾したのに、戦うってなら話は別だ」
二人して参戦を拒否した。
「お前らに考えてもらって何とかなるんか!」
二人が声を荒げるルーティへと向き直った。
「考えてもらうのも、戦ってもらうのも、ホンマ言うたら頼みとう無いわ!でも、どないもならへんのや。あの姿のベルタはんたちは自力で動けへんし、ウチらの魔力では動かせへん。みんなを動かせるのは、この世界の人間が持ってる霊力を変換させた魔力だけなんや」
なんて回りくどい機巧なのだろう・・。
「オマエらと逢う前に消えていった皆は小指一本動かすコトもできずに一方的に殺されてしもたんや!」
「ルーティ、別に誰も殺されては・・」「うっさい!」
「みんな、死ぬほど痛い思いしたはるのに、ウチら何も出来ひんかった。もう誰にも痛い思いさせとう無かったのに・・クソッ!」
涙にくれるルーティの肩に、そっとココミの手が添えられた。
「ズェスさんも言って下さったではありませんか。痛みはあっても死ぬ訳では無いと。それに今回はルールを知らなかった私に非がー」「アホ言え!」
悲しみを抑え、それでも少し鼻声になりつつあったココミの声をルーティが遮った。
「それって拷問だよね?」
二人のやりとりに思わずクレハが口を挟んだ。
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