8 / 22
迅雷におまかせ。
しおりを挟む
最大の難関と思われた主砲発射モーションの取り込みを何とかクリアした開発チームは、残る課題を全て取り込み終えた。
取り込み終えたデータは陸上国土防衛群(通称”陸防”)が所有するスーパーコンピューターの“迅”と海上国土防衛群(通称”海防”)が所有するスーパーコンピューターの"雷”に振り分けられ、それぞれが最適化作業を行う。
迅と雷のフィルターを通して、さらに陸防と海防の開発部門に設けられたAIに学習させて、より無駄なく効率良い操作コマンドへと変換してゆくのである。
AIに学習させて劇的に開発期間を短縮できると言っても、数日は掛かるので、それまでに実機への新装甲換装や、パイロットたちのメディカルチェックを終えておかなければならない。
「長時間閉所にとどまるのが、これほどまでに体にストレスを与えていたとは思いもしませんでしたよ」
IT開発部門に一般公募で入隊した鞍馬技術曹がジャージに着替えながら、岳に告げた。
「珍しいですね。鞍馬技術曹。これからランニングですか?」
「ええ。今までの生活なら、仕事を終えたら机に向かって、もうひと作業なんて余裕だったのですが、こうも体が萎縮してしまうと、少しは手足を伸ばしてやりたい気持ちにもなりますよ」
実際のところ、キャリバーから降りたら10分間のストレッチ運動をした後10分間の歩行を強いられていた。
下手に横になってしまうと体の血流がわるくなり体調を崩しかねないと懸念されてのアフターケアだ。
今は開発段階なので、30分の連続稼働に止まっている。
でも、ロック・キャリバーのカタログスペックは連続稼働時間を62時間としており、パイロットは狭いコクピット内に最大62時間も押し込められる事になる。
そうなると、今までと同じアフターケアだけで済むだろうか?誰もが心配を抱いた。
そして、ロック・キャリバーのパイロットに志願した誰もが思う。
それは昔に見た、あるロボットアニメの設定。
パイロットの身体的・精神的不安要素を取り除くために、パイロットに何やら得たいの知れない薬物を投入するシーン。
そして、誰もが思う。
(ロボに乗ってのドーピングは嫌だなぁ・・・)
願わくば、普通にコクピットから出て外の空気を吸いたい。
「寝住大尉は、これからどうされるのです?」
「できれば鞍馬技術曹と同じく体をほぐしたいところなんですが、まだデスクワークが残っているもので」
報告書の提出は、パイロットスーツから作業服装へと着替える前に行っておかなければならない。
なので、彼が言うデスクワークは本来の将校としての書類作成等の作業があるのだろう。ご苦労な事だと惣一はため息交じりの笑顔を返した。
「あっ、鞍馬さん!」
基地を出たところで楓が声を掛けてきた。
そんな楓を惣一は快く思わなかった。思わずムッ。
「ご、ごめんなさい。私、何かお気に障る事でもしたでしょうか?」
瞬時に場の空気を読み取り、楓は即座に頭を下げた。
「湊さん。貴方とはほとんど会話をする機会が無かったので言いそびれていましたが、基地内では我々隊員を”~さん”と呼ばず、階級を付けて呼んで下さい」
思いっきり注意をされてしまった。
「ごめんなさい。鞍馬さん」
彼女の頭を下げる姿を見て、今度は腕を組み始めた。
楓が顔を上げる。「アレ?鞍馬さん、まだご立腹?」
「あのですね、貴方には学習能力というものが無いのですか?今たった今注意をしたばかりでしょう」
「いやいや、ここはもう基地の外ですから。へへへ」
言葉尻を取りやがって・・・しかもヘラヘラと笑いやがって。
沸々と湧き上がる怒りを拳を強く握りしめる事で何とか抑えた。
「ま、まぁ、貴方のおっしゃる通りですね。ですが!今後は基地の中ではキチンと階級で呼んで下さいね!」
言って楓の前を過ぎてしまった。と。
「で、私に声を掛けてきておいて、私が去るのをそのまま見過ごすのですか?」訊ねた。
「いえ、これから大学の車が迎えに来るんですけど、鞍馬さんも一緒にどうかな・・・とお誘いしたまでで。それよりも鞍馬さん。いつも思っていたんですが、どうして鞍馬さんは基地の外から通勤なさっているんですか?」
「私は正式な陸士ではなく、あくまでもIT開発部門の研究者扱いなんです。一応"技術曹”なんて階級は頂いていますがね。だから正式な陸士ではない私では、この基地内の宿舎を貸してもらえないのです。もっとも、ガチガチの規則に縛られた宿舎での生活なんてゴメンですけどね」
らしいといえば鞍馬らしい答えが返ってきた。
他者との馴れ合いをとことん嫌う彼がどうしてロック・キャリバーのテストパイロットを志願したのか皆目見当もつかないけれど。
「では、お住まいは何処に?」
「警察幹部宿舎に住んでいます。国家機密に関わる任務に携わっている訳ですから、それなりの警備がなされた所の方が都合が良いのです。それに、私に万が一の事があれば責任を押しつける意味でも警察幹部宿舎の方が都合が良い」
ある意味”縦割り”組織にくさびを打ち込む形を取っている。
全ての責任を陸防に押しつけないための、陸防なりの防護策といったところか。
「このプロジェクトには何かと横槍がはいるものです。例えば関係者に対するハニートラップや賄賂の懸念を取り除くにも、警察組織が関わる方が後々捜査もし易いでしょう?例えば鑑識作業とか」
とても楽しそうに話してくれる。
そんなに組織同士が対立する構図が崩れてゆくのが楽しいのか?
そう思う一方で、異世界からの侵攻が進む中、組織間の対立を解消する方策を練る意味でも、彼の存在意義は大きいと感じずにはいられなかった。
楓は腕時計に目をやった。
予定の時間まで10分くらいはありそうだ。他の学生たちもまだここに到着していないし。
時間を潰すにしても、一人で10分はキツい。
「鞍馬さん。まだお時間、よろしいですか?」
お伺いを立てると、「ほんの少しなら」とは言いつつ、早く帰りたそう。
だけど、そうは問屋が卸すものか。楓はニヤリと笑い。
「そもそもイーターって何ですか?」
世間話に食いつかないであろう鞍馬に訊ねてみた。
取り込み終えたデータは陸上国土防衛群(通称”陸防”)が所有するスーパーコンピューターの“迅”と海上国土防衛群(通称”海防”)が所有するスーパーコンピューターの"雷”に振り分けられ、それぞれが最適化作業を行う。
迅と雷のフィルターを通して、さらに陸防と海防の開発部門に設けられたAIに学習させて、より無駄なく効率良い操作コマンドへと変換してゆくのである。
AIに学習させて劇的に開発期間を短縮できると言っても、数日は掛かるので、それまでに実機への新装甲換装や、パイロットたちのメディカルチェックを終えておかなければならない。
「長時間閉所にとどまるのが、これほどまでに体にストレスを与えていたとは思いもしませんでしたよ」
IT開発部門に一般公募で入隊した鞍馬技術曹がジャージに着替えながら、岳に告げた。
「珍しいですね。鞍馬技術曹。これからランニングですか?」
「ええ。今までの生活なら、仕事を終えたら机に向かって、もうひと作業なんて余裕だったのですが、こうも体が萎縮してしまうと、少しは手足を伸ばしてやりたい気持ちにもなりますよ」
実際のところ、キャリバーから降りたら10分間のストレッチ運動をした後10分間の歩行を強いられていた。
下手に横になってしまうと体の血流がわるくなり体調を崩しかねないと懸念されてのアフターケアだ。
今は開発段階なので、30分の連続稼働に止まっている。
でも、ロック・キャリバーのカタログスペックは連続稼働時間を62時間としており、パイロットは狭いコクピット内に最大62時間も押し込められる事になる。
そうなると、今までと同じアフターケアだけで済むだろうか?誰もが心配を抱いた。
そして、ロック・キャリバーのパイロットに志願した誰もが思う。
それは昔に見た、あるロボットアニメの設定。
パイロットの身体的・精神的不安要素を取り除くために、パイロットに何やら得たいの知れない薬物を投入するシーン。
そして、誰もが思う。
(ロボに乗ってのドーピングは嫌だなぁ・・・)
願わくば、普通にコクピットから出て外の空気を吸いたい。
「寝住大尉は、これからどうされるのです?」
「できれば鞍馬技術曹と同じく体をほぐしたいところなんですが、まだデスクワークが残っているもので」
報告書の提出は、パイロットスーツから作業服装へと着替える前に行っておかなければならない。
なので、彼が言うデスクワークは本来の将校としての書類作成等の作業があるのだろう。ご苦労な事だと惣一はため息交じりの笑顔を返した。
「あっ、鞍馬さん!」
基地を出たところで楓が声を掛けてきた。
そんな楓を惣一は快く思わなかった。思わずムッ。
「ご、ごめんなさい。私、何かお気に障る事でもしたでしょうか?」
瞬時に場の空気を読み取り、楓は即座に頭を下げた。
「湊さん。貴方とはほとんど会話をする機会が無かったので言いそびれていましたが、基地内では我々隊員を”~さん”と呼ばず、階級を付けて呼んで下さい」
思いっきり注意をされてしまった。
「ごめんなさい。鞍馬さん」
彼女の頭を下げる姿を見て、今度は腕を組み始めた。
楓が顔を上げる。「アレ?鞍馬さん、まだご立腹?」
「あのですね、貴方には学習能力というものが無いのですか?今たった今注意をしたばかりでしょう」
「いやいや、ここはもう基地の外ですから。へへへ」
言葉尻を取りやがって・・・しかもヘラヘラと笑いやがって。
沸々と湧き上がる怒りを拳を強く握りしめる事で何とか抑えた。
「ま、まぁ、貴方のおっしゃる通りですね。ですが!今後は基地の中ではキチンと階級で呼んで下さいね!」
言って楓の前を過ぎてしまった。と。
「で、私に声を掛けてきておいて、私が去るのをそのまま見過ごすのですか?」訊ねた。
「いえ、これから大学の車が迎えに来るんですけど、鞍馬さんも一緒にどうかな・・・とお誘いしたまでで。それよりも鞍馬さん。いつも思っていたんですが、どうして鞍馬さんは基地の外から通勤なさっているんですか?」
「私は正式な陸士ではなく、あくまでもIT開発部門の研究者扱いなんです。一応"技術曹”なんて階級は頂いていますがね。だから正式な陸士ではない私では、この基地内の宿舎を貸してもらえないのです。もっとも、ガチガチの規則に縛られた宿舎での生活なんてゴメンですけどね」
らしいといえば鞍馬らしい答えが返ってきた。
他者との馴れ合いをとことん嫌う彼がどうしてロック・キャリバーのテストパイロットを志願したのか皆目見当もつかないけれど。
「では、お住まいは何処に?」
「警察幹部宿舎に住んでいます。国家機密に関わる任務に携わっている訳ですから、それなりの警備がなされた所の方が都合が良いのです。それに、私に万が一の事があれば責任を押しつける意味でも警察幹部宿舎の方が都合が良い」
ある意味”縦割り”組織にくさびを打ち込む形を取っている。
全ての責任を陸防に押しつけないための、陸防なりの防護策といったところか。
「このプロジェクトには何かと横槍がはいるものです。例えば関係者に対するハニートラップや賄賂の懸念を取り除くにも、警察組織が関わる方が後々捜査もし易いでしょう?例えば鑑識作業とか」
とても楽しそうに話してくれる。
そんなに組織同士が対立する構図が崩れてゆくのが楽しいのか?
そう思う一方で、異世界からの侵攻が進む中、組織間の対立を解消する方策を練る意味でも、彼の存在意義は大きいと感じずにはいられなかった。
楓は腕時計に目をやった。
予定の時間まで10分くらいはありそうだ。他の学生たちもまだここに到着していないし。
時間を潰すにしても、一人で10分はキツい。
「鞍馬さん。まだお時間、よろしいですか?」
お伺いを立てると、「ほんの少しなら」とは言いつつ、早く帰りたそう。
だけど、そうは問屋が卸すものか。楓はニヤリと笑い。
「そもそもイーターって何ですか?」
世間話に食いつかないであろう鞍馬に訊ねてみた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる