6 / 22
ムダに無駄ナシ。
しおりを挟む
1000通りの動作を取り込む。
最初は腰を抜かすほど驚いたが、始まってしまうと「えっ?こんな事まで一つの動作に入れちゃうの?」と思えるような動作までもがメニューに組み込まれていた。
例えば。
首を捻って後方を確認。さらに腰を捻って視界を確保。・・・これは解る。
でも。
う○こを踏みそうになったので足を浮かした体勢で止まる。なんて項目は、すでに演劇の稽古ではないのかい?
作業を停止する事無く、次々とお題をクリアしてゆく。
こんなのでいいのかな・・・?
思った以上に簡単な作業なので、つい会話を挟みたくなる。
「湊女史」
楓の名を呼びながら彼女の方へと顔を向ける。
「あーッ!!余計な動作を入れないで下さいよォッ!寝住さん!!」
怒られてしまった。
モーションキャプチャでのデータ収集は簡単な作業ではあるけれど、繊細さを求められる作業でもあるのだ。
思わず癖が出ようものなら。
「リテイク!!日向大尉」
隣のブースでは、やり直しが続いているせいか、もはや単語を並べるだけと味気ない。
(俺もミスが続いたら湊女史に単語だけで叱られるのかな・・・?)
人間扱いすらしてもらえないシビアさに天を仰ぎたくなる。
岳たち2号機班は、1時間で約50の動作の取り込みを終えた。
「休憩に入りましょう」
技師たちが休憩に入ったので、岳たちも休憩に入った。
休憩といっても・・・。
白いマーカーを体のあちこちに付けた全身黒のタイツスーツ姿では外の空気を吸いに行く気にもなれない。
それは岳だけに止まらず、3機全てのパイロットが現場で休憩をしていた。
恥ずかしさも当然あるけれど、マーカーが取れてしまわないかの心配もある。
「お疲れ様です」
そんな動きに制限を設けられた岳を気遣って、楓が彼にコーヒーを入れてくれた。「ありがとうございます」軽く会釈を返す。
岳の隣に座り込んだ楓が技師たちを見やった。
「いま、取り込んだ動作をPCを通じてスパコンに送っているんです」
その取り込んだ動作をAIに学習させてゆく訳だ。
「現在私たちが取り込んだ動作が51項目。それらが機体の関節に適した動作なのか、装甲に干渉しない動作であるかを計算して最適化もしくは見送る作業を行っているんです」
見送るとは要は破棄するという事。だが、無駄とした動作も参考の一つとなるので決してゴミという訳でもない。
何事に於いても”ムダ”は生じてくるものだし、そぎ落としてゆくものだ。
「色々と大変なんですね」
ITの事など微塵も理解できそうにないと思う岳は社交辞令的な答えを返した。
「ええ。この1時間で私たちが得た成果はブラッシュアップを経ると、基本動作と照らし合わして、ほぼ削られてしまうかもしれませんね」
関節、装甲に加えて基本動作という関門まで設けられてしまった。
"生み”には苦しみが付き物とは言うけれど、ほぼ削られてしまうといわれてしまえば、やはり虚無感にとらわれてしまう。
様々なシチュエーションを想定しなけらばならないのは理解している。
それでも。
一気に疲れが出てきてしまった。
「はぁ・・・」
思わずため息が漏れる。
「これならロック・キャリバーの着ぐるみを着てモーションキャプチャの取り込み作業を行った方が、作業がはかどるのではないでしょうか?」
文句の一つも言いたくもなる。
「何言っているんですか、寝住さん。ロボットの関節と人間の関節はまるで別物で一緒にしてはいけませんよォ。それにモーションキャプチャというのは骨格の動作を取り込む作業なので着ぐるみを着てしまっては意味がありません」
いや、そこは真面目に答えてくれなくてもいいんだけど。
だけど、彼女の、そんな冗談が通じないくらいの真面目さを見ていると、やはり彼女も技師の一人なんだなと感じずにはいられない。
多くのムダを絶対にムダにしない。何が何でも一粒でも成果を実らせようとするその心意気に、少しだけ疲労感が薄れたような気がした。
「さあ、続きを始めましょう」
誰よりも早く岳は立ち上がった。
そんな作業も5日目にして・・・。
やはりモーションキャプチャの取り込み作業が続いていた。
「ジャーン!!」
楓が手にするのは放水器。しかし、何故か放水器は岳の右腕に固定されてしまった。
「湊女史、これで何を始めるのです?」
質問する最中でさえ楓は作業の手を止める事無く、放水器にホースを装着した。「あ、これから砲撃モーションの取り込み作業に入ります」
実にあっさりと答えてくれた。
「ほ、砲撃ィ!!」
待ってましたと言わんばかりに岳は興奮を抑える事無くオウム返し。
どんなポーズを取って射撃するのだろう。期待に胸を膨らませる。
「砲撃時の反動を再現するために、実際に水が噴き出しますから気をつけて下さいね」
言いつつ、楓が手を挙げると。
ブシュゥワァァァッ!勢いよく放水器の先から水が飛び出したかと思えば。
反動に押されて岳はひっくり返り尻餅をついてしまった。
「み、湊女史!急に始めないで下さいよ」
痛む尻をさすりながら立ち上がった。
「これが砲撃というものです。いいですか?寝住さん。ロック・キャリバーは砲撃時の反動を2本の脚で支えなければならないため、どうにかして反動を体全体で相殺する必要があるんです。これから、その方法を私たちで模索していきます」
当初の目的が最難関であった。
最初は腰を抜かすほど驚いたが、始まってしまうと「えっ?こんな事まで一つの動作に入れちゃうの?」と思えるような動作までもがメニューに組み込まれていた。
例えば。
首を捻って後方を確認。さらに腰を捻って視界を確保。・・・これは解る。
でも。
う○こを踏みそうになったので足を浮かした体勢で止まる。なんて項目は、すでに演劇の稽古ではないのかい?
作業を停止する事無く、次々とお題をクリアしてゆく。
こんなのでいいのかな・・・?
思った以上に簡単な作業なので、つい会話を挟みたくなる。
「湊女史」
楓の名を呼びながら彼女の方へと顔を向ける。
「あーッ!!余計な動作を入れないで下さいよォッ!寝住さん!!」
怒られてしまった。
モーションキャプチャでのデータ収集は簡単な作業ではあるけれど、繊細さを求められる作業でもあるのだ。
思わず癖が出ようものなら。
「リテイク!!日向大尉」
隣のブースでは、やり直しが続いているせいか、もはや単語を並べるだけと味気ない。
(俺もミスが続いたら湊女史に単語だけで叱られるのかな・・・?)
人間扱いすらしてもらえないシビアさに天を仰ぎたくなる。
岳たち2号機班は、1時間で約50の動作の取り込みを終えた。
「休憩に入りましょう」
技師たちが休憩に入ったので、岳たちも休憩に入った。
休憩といっても・・・。
白いマーカーを体のあちこちに付けた全身黒のタイツスーツ姿では外の空気を吸いに行く気にもなれない。
それは岳だけに止まらず、3機全てのパイロットが現場で休憩をしていた。
恥ずかしさも当然あるけれど、マーカーが取れてしまわないかの心配もある。
「お疲れ様です」
そんな動きに制限を設けられた岳を気遣って、楓が彼にコーヒーを入れてくれた。「ありがとうございます」軽く会釈を返す。
岳の隣に座り込んだ楓が技師たちを見やった。
「いま、取り込んだ動作をPCを通じてスパコンに送っているんです」
その取り込んだ動作をAIに学習させてゆく訳だ。
「現在私たちが取り込んだ動作が51項目。それらが機体の関節に適した動作なのか、装甲に干渉しない動作であるかを計算して最適化もしくは見送る作業を行っているんです」
見送るとは要は破棄するという事。だが、無駄とした動作も参考の一つとなるので決してゴミという訳でもない。
何事に於いても”ムダ”は生じてくるものだし、そぎ落としてゆくものだ。
「色々と大変なんですね」
ITの事など微塵も理解できそうにないと思う岳は社交辞令的な答えを返した。
「ええ。この1時間で私たちが得た成果はブラッシュアップを経ると、基本動作と照らし合わして、ほぼ削られてしまうかもしれませんね」
関節、装甲に加えて基本動作という関門まで設けられてしまった。
"生み”には苦しみが付き物とは言うけれど、ほぼ削られてしまうといわれてしまえば、やはり虚無感にとらわれてしまう。
様々なシチュエーションを想定しなけらばならないのは理解している。
それでも。
一気に疲れが出てきてしまった。
「はぁ・・・」
思わずため息が漏れる。
「これならロック・キャリバーの着ぐるみを着てモーションキャプチャの取り込み作業を行った方が、作業がはかどるのではないでしょうか?」
文句の一つも言いたくもなる。
「何言っているんですか、寝住さん。ロボットの関節と人間の関節はまるで別物で一緒にしてはいけませんよォ。それにモーションキャプチャというのは骨格の動作を取り込む作業なので着ぐるみを着てしまっては意味がありません」
いや、そこは真面目に答えてくれなくてもいいんだけど。
だけど、彼女の、そんな冗談が通じないくらいの真面目さを見ていると、やはり彼女も技師の一人なんだなと感じずにはいられない。
多くのムダを絶対にムダにしない。何が何でも一粒でも成果を実らせようとするその心意気に、少しだけ疲労感が薄れたような気がした。
「さあ、続きを始めましょう」
誰よりも早く岳は立ち上がった。
そんな作業も5日目にして・・・。
やはりモーションキャプチャの取り込み作業が続いていた。
「ジャーン!!」
楓が手にするのは放水器。しかし、何故か放水器は岳の右腕に固定されてしまった。
「湊女史、これで何を始めるのです?」
質問する最中でさえ楓は作業の手を止める事無く、放水器にホースを装着した。「あ、これから砲撃モーションの取り込み作業に入ります」
実にあっさりと答えてくれた。
「ほ、砲撃ィ!!」
待ってましたと言わんばかりに岳は興奮を抑える事無くオウム返し。
どんなポーズを取って射撃するのだろう。期待に胸を膨らませる。
「砲撃時の反動を再現するために、実際に水が噴き出しますから気をつけて下さいね」
言いつつ、楓が手を挙げると。
ブシュゥワァァァッ!勢いよく放水器の先から水が飛び出したかと思えば。
反動に押されて岳はひっくり返り尻餅をついてしまった。
「み、湊女史!急に始めないで下さいよ」
痛む尻をさすりながら立ち上がった。
「これが砲撃というものです。いいですか?寝住さん。ロック・キャリバーは砲撃時の反動を2本の脚で支えなければならないため、どうにかして反動を体全体で相殺する必要があるんです。これから、その方法を私たちで模索していきます」
当初の目的が最難関であった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる