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歩行評価試験開始。
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「まさか、本物のロボをコイツで動かすのか・・・」
寝住大尉は手にするゲームパッドの感触に違和感を覚えた。
コクピット内は非常に狭く、ディスプレー画面を設置する余裕など無いため外の状況はARゴーグルを通して見る事となる。
ARつまりAugmented Reality(拡張現実)を導入する事により、外の画面に環境データ(温度や湿度・目標との距離などの数値データの表示。暗視画像の表示など)を加えて表示する。
パイロットの頭部の動きに連動してロック・キャリバーの頭部も動くので操作はストレス無く容易だ。が。
あくまでも外の画像を取り込むだけなので、コクピット内や手元を目視する事はできない。
非常に不便に思われるが、ディスレー画面を設置出来ない程に余裕の無いコクピットには、そもそも照明すら設置されておらず、操作機器の設置は誤作動にも備えて最小限に抑えられている。
そして、最も効率が良いものとして採用されたのが一見してゲームパッドとさほど差異が認められないコントローラーであった。
齢29歳になっても未だ捨てきれなかった憧れのロボのパイロットになれたというのに・・・。
「これなら、まだ子供部屋おじさんの方が未来感を出しているぞ」
「何か言いましたか?寝住大尉」
キンキンとうるさい声を遠ざけようと首を傾けるも、頭部に固定されたヘッドフォンで・湊・楓研究員の甲高い声は遠ざけられない。
(この女・・・一々声が高ぇんだよなぁ・・・)
まさに拷問だ。
独り言すら許されないこの状況、寝住大尉に掛かるストレスはそれはそれは凄まじいものだった。
ロック・キャリバーの横転や転倒によるパイロットへの直接被害を抑えるべく、コクピット内は味気ないくらいに何も無い。
操作パッドが手元にあるのと、ショックを吸収するための緩衝パッドがあちこちに設けられているくらいで、足下にはフットペダルすら無い。
そもそもパイロットの脚はロック・キャリバーの腹部に突き出た2つのブロック部分に収まるように個別に入れている。と、いうか入っている。
フットペダルが無い代わりに、足先で操作するのが腰部の操作機器である。
足先で新聞を手繰り寄せる昭和のオヤジ感満載な操作方法ではあるが、無駄を省く事を突き詰めれば、自然とこうなってしまった。
デッキアップの声を号令と共に、整備員らがロック・キャリバーを取り囲んでいた搭乗用のタラップ兼整備用デッキ、通称ケージを引いた。
格納庫の中、拘束を解かれ静かに佇むロック・キャリバー。
いよいよ実戦起動が始まる。
すでに起動シュミレーションはケージ内で行われていたので、いよいよ実機を動かす評価試験へと移行。まずは歩行からだ。
歩行評価試験スタート!!
サイレンが鳴り、3機のロック・キャリバーの評価試験が開始された。
「寝住大尉。それでは白線に沿って前進歩行して下さい」
シリンダーも無ければギアすら無いロック・キャリバーの歩行は、予想以上に静かなものだった。
だが。
「ストップです!ストップ!」
2歩ほど前進したところで楓が制止を求めたため、即座に停止した。
「なぁ湊女史。もう少し声を落としてもらえませんか?貴方の声は二日酔いの時に聞くようで頭に響くんですよ」
苦情を申し立てた。ところが。
「それはこっちの台詞です!もう!鼓膜が破れるかと思いましたよッ!」
画像に映る楓は両手で耳を塞いでいる。
「どうしました?湊女史。どうして耳を塞いでいるのです?」
状況が掴めないので、取り敢えず楓に訊ねた。
「装甲が擦れる音が殺人的に耳に痛いんですよッ!聞こえなかったのですか!?」
その殺人的に甲高い声に、コチラも現在進行形で苦しんでいますよ。と苦情を入れたい。
が、今は任務中。
グチを並べている場合では無い。
原因を探る。
外の音は頭部に設置されている集音マイクで拾っているはずなのに、まったく聞こえなかった。
しかし、楓は耐えられないと、停止を命じてきた。
そんなに凄まじい高音なら聞こえたはずだよな?
うーん。
目を閉じて考え込む。
岳の妹の峰理が以前、京都へ旅行に行った時に、鈴虫寺に来ているからと鈴虫の声を聞かせてやると言っておきながらスマホの向こうから何も聞こえて来なかった事を思い出した。
あれか!
集音マイクが拾い切れない高音が外で鳴っていたのではないか?
そもそもこのロック・キャリバーは爆音が鳴り響く戦場での運用を前提としている。
ならば、必要としない周波数の音を、あえて拾わないようにしているのではないか?
「湊女史、原因が解った。装甲擦れの音は周波数の違いでコチラでは拾えていない。干渉の見直しと共に一旦試験を中止しましょう」
寝住大尉の申し出に楓は頷き評価試験は中止された。
「おかしいなぁ・・・装甲同士は干渉していないのに・・・」
楓が首をひねる。
「自分の体重が加わったからではないでしょうか?」
岳は自らの見解を述べた。
「イヤですねぇ、寝住大尉ぃ。戦車砲を運ぶこの子が大尉程度の体重が増えたところで機体が沈むはずありませんよぉ」
とても優秀な研究員と聞いていたが、この湊・楓という女、所々日本語がおかしい場面がある。
ここは"大尉の体重が増えた程度”が正解じゃないのか?
まぁ、それはさておき原因を究明しなくては。
楓がしゃがみ込んで装甲と装甲の隙間を定規で測っている。
砂利が挟まった程度では人間が耳を塞ぎたくなるような高音は発生しない。
明らかに装甲と装甲が直接擦れ合って生じている音だ。
なのに、現在どの箇所も規定の隙間をキープしている。
しかも平地だぞ。機体が傾くとは考えられない。
一体、どういう事だ?
直立で再びケージに収まる人型のロック・キャリバーを見上げながら考えを巡らせる。
もしかして、コイツが人型だからか?
研究員でさえ見落とす原因に気づいた。
寝住大尉は手にするゲームパッドの感触に違和感を覚えた。
コクピット内は非常に狭く、ディスプレー画面を設置する余裕など無いため外の状況はARゴーグルを通して見る事となる。
ARつまりAugmented Reality(拡張現実)を導入する事により、外の画面に環境データ(温度や湿度・目標との距離などの数値データの表示。暗視画像の表示など)を加えて表示する。
パイロットの頭部の動きに連動してロック・キャリバーの頭部も動くので操作はストレス無く容易だ。が。
あくまでも外の画像を取り込むだけなので、コクピット内や手元を目視する事はできない。
非常に不便に思われるが、ディスレー画面を設置出来ない程に余裕の無いコクピットには、そもそも照明すら設置されておらず、操作機器の設置は誤作動にも備えて最小限に抑えられている。
そして、最も効率が良いものとして採用されたのが一見してゲームパッドとさほど差異が認められないコントローラーであった。
齢29歳になっても未だ捨てきれなかった憧れのロボのパイロットになれたというのに・・・。
「これなら、まだ子供部屋おじさんの方が未来感を出しているぞ」
「何か言いましたか?寝住大尉」
キンキンとうるさい声を遠ざけようと首を傾けるも、頭部に固定されたヘッドフォンで・湊・楓研究員の甲高い声は遠ざけられない。
(この女・・・一々声が高ぇんだよなぁ・・・)
まさに拷問だ。
独り言すら許されないこの状況、寝住大尉に掛かるストレスはそれはそれは凄まじいものだった。
ロック・キャリバーの横転や転倒によるパイロットへの直接被害を抑えるべく、コクピット内は味気ないくらいに何も無い。
操作パッドが手元にあるのと、ショックを吸収するための緩衝パッドがあちこちに設けられているくらいで、足下にはフットペダルすら無い。
そもそもパイロットの脚はロック・キャリバーの腹部に突き出た2つのブロック部分に収まるように個別に入れている。と、いうか入っている。
フットペダルが無い代わりに、足先で操作するのが腰部の操作機器である。
足先で新聞を手繰り寄せる昭和のオヤジ感満載な操作方法ではあるが、無駄を省く事を突き詰めれば、自然とこうなってしまった。
デッキアップの声を号令と共に、整備員らがロック・キャリバーを取り囲んでいた搭乗用のタラップ兼整備用デッキ、通称ケージを引いた。
格納庫の中、拘束を解かれ静かに佇むロック・キャリバー。
いよいよ実戦起動が始まる。
すでに起動シュミレーションはケージ内で行われていたので、いよいよ実機を動かす評価試験へと移行。まずは歩行からだ。
歩行評価試験スタート!!
サイレンが鳴り、3機のロック・キャリバーの評価試験が開始された。
「寝住大尉。それでは白線に沿って前進歩行して下さい」
シリンダーも無ければギアすら無いロック・キャリバーの歩行は、予想以上に静かなものだった。
だが。
「ストップです!ストップ!」
2歩ほど前進したところで楓が制止を求めたため、即座に停止した。
「なぁ湊女史。もう少し声を落としてもらえませんか?貴方の声は二日酔いの時に聞くようで頭に響くんですよ」
苦情を申し立てた。ところが。
「それはこっちの台詞です!もう!鼓膜が破れるかと思いましたよッ!」
画像に映る楓は両手で耳を塞いでいる。
「どうしました?湊女史。どうして耳を塞いでいるのです?」
状況が掴めないので、取り敢えず楓に訊ねた。
「装甲が擦れる音が殺人的に耳に痛いんですよッ!聞こえなかったのですか!?」
その殺人的に甲高い声に、コチラも現在進行形で苦しんでいますよ。と苦情を入れたい。
が、今は任務中。
グチを並べている場合では無い。
原因を探る。
外の音は頭部に設置されている集音マイクで拾っているはずなのに、まったく聞こえなかった。
しかし、楓は耐えられないと、停止を命じてきた。
そんなに凄まじい高音なら聞こえたはずだよな?
うーん。
目を閉じて考え込む。
岳の妹の峰理が以前、京都へ旅行に行った時に、鈴虫寺に来ているからと鈴虫の声を聞かせてやると言っておきながらスマホの向こうから何も聞こえて来なかった事を思い出した。
あれか!
集音マイクが拾い切れない高音が外で鳴っていたのではないか?
そもそもこのロック・キャリバーは爆音が鳴り響く戦場での運用を前提としている。
ならば、必要としない周波数の音を、あえて拾わないようにしているのではないか?
「湊女史、原因が解った。装甲擦れの音は周波数の違いでコチラでは拾えていない。干渉の見直しと共に一旦試験を中止しましょう」
寝住大尉の申し出に楓は頷き評価試験は中止された。
「おかしいなぁ・・・装甲同士は干渉していないのに・・・」
楓が首をひねる。
「自分の体重が加わったからではないでしょうか?」
岳は自らの見解を述べた。
「イヤですねぇ、寝住大尉ぃ。戦車砲を運ぶこの子が大尉程度の体重が増えたところで機体が沈むはずありませんよぉ」
とても優秀な研究員と聞いていたが、この湊・楓という女、所々日本語がおかしい場面がある。
ここは"大尉の体重が増えた程度”が正解じゃないのか?
まぁ、それはさておき原因を究明しなくては。
楓がしゃがみ込んで装甲と装甲の隙間を定規で測っている。
砂利が挟まった程度では人間が耳を塞ぎたくなるような高音は発生しない。
明らかに装甲と装甲が直接擦れ合って生じている音だ。
なのに、現在どの箇所も規定の隙間をキープしている。
しかも平地だぞ。機体が傾くとは考えられない。
一体、どういう事だ?
直立で再びケージに収まる人型のロック・キャリバーを見上げながら考えを巡らせる。
もしかして、コイツが人型だからか?
研究員でさえ見落とす原因に気づいた。
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