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第13話 凱旋
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城下町の住民たちが集まり、歓声を上げている。手を振る者、紙吹雪を撒く者、拍手をする者——それぞれが喜びを表現する。魔王の恐怖から解放されたのだから無理もない。
「ボッカさまぁあ!」
「ありがとう!!」
「心より感謝しておりますー!」
住民たちの視線の先には、魔王を討伐した勇者であるボッカがいる。メインストリートを通る屋根のない四輪馬車に乗り、その勇姿を見物客たちに見せていた。
馬車には、クレアもライオネスも乗車している。大勢に熱烈な歓迎を受けるのは全員とも初めての経験で緊張した面持ち。ベルはいつも通りにボッカのフードに隠れ、このお祭り騒ぎを興味深げに見ていた。
*
ボッカたちは魔王を倒した後、速やかに魔王城から近い同盟国へ戻り、目的を成し遂げたことを報告した。同盟国からアトラルへ情報の通達がされ、魔王から切り取った髪の一房は、専門の医療魔法班により分析された。その結果、魔獣とは比べもにならないほどの高濃度の魔力が検出、魔王のものであることが証明されたのだ。
アトラルは魔王を倒したことを大々的に告示。国内外は喜びに溢れ返った。
ボッカたちがアトラルの市街地に辿り着くと、近衛兵団が迎えにきていた。国王が唯一配下に置く軍隊で、国王の守護から緊急時は主戦力にもなる精鋭部隊。平常時ではありえない光景だ。
立派な髭を生やした貫禄のある中年男性が前へ出ると、ライオネスがすぐに片膝をついた。その行為で軍のお偉方だということが分かる。
「ハルベルト上等兵、楽にしなさい」と軍の指揮官らしき人物はそう言ってから、「ボッカ殿、よくぞ成し遂げられた。陛下から城までお連れするように命じられております」とボッカに敬礼を捧げた。
「えっ、は、はあ……ありがとうございま、す」
自分より遥かに年上の人物からの丁重な扱いに、ボッカは目を白黒させた。
*
それからボッカたちは近衛兵団に指示されるがままに凱旋の準備をして今に至る。城までの道のりがパレード状態だ。馬車に乗った全員が緊張して顔を強張らせている。いつも冷静なライオネスさえも。
「いつまで続くんだろう……」
ボッカは困った顔をして小さな声で口にした。民衆の騒ぎに紛れ、仲間たち以外に声は届かない。
「……民衆たちに魔王を討伐したことを知らしめているんです。今までのガス抜きに意味もあります。国王の采配で世界に平和が訪れたと見せているのでしょう。そうしなければ、民衆たちが王室に不満を持ちかねません。あくまでボッカ殿は王命により魔王を討伐したのです」
ライオネスは口を大きく動かさず、器用に説明をする。
「これはアトラルの兵士ではなく、共に戦った仲間としての意見ですが、これから我々は王室の支持率を上げるために利用されるでしょう。悪い意味ではありません。権力者が威厳を示すことは当然のことですから。それに今の国王は名君と知られています。私たちを貶めるようなことはないでしょう。ただ、己を捨ててまで言いなりになる必要はありません」
ボッカは民衆に手を振りながら瞬きをして、「む、難しいんだな……」と唇を引きつらせた。世界を救った勇者といえ、田舎の村で育った世間知らずの少年なのだ。
近衛兵団により先導される馬車はゆっくりと城へ向かっていった。
*****
城へ辿り着いたボッカたちは謁見の間に呼ばれ、勲章授与式が行われた。さらにボッカに与えられたのは、伯爵の地位。平民にはあり得ない特例だ。世界を救ったのだから、当然なのかもしれない。
ライオネスには男爵、クレアには司祭——それぞれ栄誉を受けた。ベルは妖精のため、城内で扱いに困っているらしく、過去に凡例がないか調べているらしい。目下のところ、高価な宝石のブローチを渡された。
祝賀会や民衆への挨拶など様々な計画が立てられているため、三人は当分の間は城の来賓室で寝泊まりすることになった。ベルはボッカに用意された広い部屋の一部で生活することを選んだ。室内はリビングルームやベッドルーム、ドレッシングルームなどに別れており、同室という印象はない。
——高級ホテルのスイートルームってこんな感じ?
ベルはメイドに小さなバスケットを用意してもらい、柔らかいタオルを敷き詰めてベッド代わりにした。
*
魔王との戦いで衰えた国力を回復すべく打ち合わせが行われ、最大の功労者であるボッカたちの予定が綿密に組まれた。大きな行事だけでなく、記者の取材や肖像画の制作という細かいものまであった。この先、数ヶ月は城から出られないらしい。
ボッカはここにきてやっとライオネスが凱旋パレードの際に話していた内容を理解した。現在、王室は国民へ国家権力をアピールしているのだ。統治とは、このようなもの。目が回るような忙しさになるだろうが、ボッカが拒否をするような内容ではない。国民が安心できる世の中になるのなら、いくらでも使われても構わないとさえ思っていた。
しばらく、ボッカたちは城内を右往左往する日々が続いた。その間、人間の常識から外れた存在である妖精のベルは、草花が咲き誇る中庭で休憩したり、バスケットの中で眠ったり、静かに過ごしていた。人間が大勢いる場所は、やはり体調が悪くなる。時折、こほこほと乾いた咳をしながら、ボッカの帰りを待った。
ボッカはほとんど部屋にいることがなく、帰ってきても疲れ切っていて、ベッドに倒れ込む状態だった。ゆっくりと話す暇もなく、ベルは同じ部屋にいるというのにずっと一人ぼっちだった。所詮は主役のおまけでしかなかったのだ。
「ボッカさまぁあ!」
「ありがとう!!」
「心より感謝しておりますー!」
住民たちの視線の先には、魔王を討伐した勇者であるボッカがいる。メインストリートを通る屋根のない四輪馬車に乗り、その勇姿を見物客たちに見せていた。
馬車には、クレアもライオネスも乗車している。大勢に熱烈な歓迎を受けるのは全員とも初めての経験で緊張した面持ち。ベルはいつも通りにボッカのフードに隠れ、このお祭り騒ぎを興味深げに見ていた。
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ボッカたちは魔王を倒した後、速やかに魔王城から近い同盟国へ戻り、目的を成し遂げたことを報告した。同盟国からアトラルへ情報の通達がされ、魔王から切り取った髪の一房は、専門の医療魔法班により分析された。その結果、魔獣とは比べもにならないほどの高濃度の魔力が検出、魔王のものであることが証明されたのだ。
アトラルは魔王を倒したことを大々的に告示。国内外は喜びに溢れ返った。
ボッカたちがアトラルの市街地に辿り着くと、近衛兵団が迎えにきていた。国王が唯一配下に置く軍隊で、国王の守護から緊急時は主戦力にもなる精鋭部隊。平常時ではありえない光景だ。
立派な髭を生やした貫禄のある中年男性が前へ出ると、ライオネスがすぐに片膝をついた。その行為で軍のお偉方だということが分かる。
「ハルベルト上等兵、楽にしなさい」と軍の指揮官らしき人物はそう言ってから、「ボッカ殿、よくぞ成し遂げられた。陛下から城までお連れするように命じられております」とボッカに敬礼を捧げた。
「えっ、は、はあ……ありがとうございま、す」
自分より遥かに年上の人物からの丁重な扱いに、ボッカは目を白黒させた。
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それからボッカたちは近衛兵団に指示されるがままに凱旋の準備をして今に至る。城までの道のりがパレード状態だ。馬車に乗った全員が緊張して顔を強張らせている。いつも冷静なライオネスさえも。
「いつまで続くんだろう……」
ボッカは困った顔をして小さな声で口にした。民衆の騒ぎに紛れ、仲間たち以外に声は届かない。
「……民衆たちに魔王を討伐したことを知らしめているんです。今までのガス抜きに意味もあります。国王の采配で世界に平和が訪れたと見せているのでしょう。そうしなければ、民衆たちが王室に不満を持ちかねません。あくまでボッカ殿は王命により魔王を討伐したのです」
ライオネスは口を大きく動かさず、器用に説明をする。
「これはアトラルの兵士ではなく、共に戦った仲間としての意見ですが、これから我々は王室の支持率を上げるために利用されるでしょう。悪い意味ではありません。権力者が威厳を示すことは当然のことですから。それに今の国王は名君と知られています。私たちを貶めるようなことはないでしょう。ただ、己を捨ててまで言いなりになる必要はありません」
ボッカは民衆に手を振りながら瞬きをして、「む、難しいんだな……」と唇を引きつらせた。世界を救った勇者といえ、田舎の村で育った世間知らずの少年なのだ。
近衛兵団により先導される馬車はゆっくりと城へ向かっていった。
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城へ辿り着いたボッカたちは謁見の間に呼ばれ、勲章授与式が行われた。さらにボッカに与えられたのは、伯爵の地位。平民にはあり得ない特例だ。世界を救ったのだから、当然なのかもしれない。
ライオネスには男爵、クレアには司祭——それぞれ栄誉を受けた。ベルは妖精のため、城内で扱いに困っているらしく、過去に凡例がないか調べているらしい。目下のところ、高価な宝石のブローチを渡された。
祝賀会や民衆への挨拶など様々な計画が立てられているため、三人は当分の間は城の来賓室で寝泊まりすることになった。ベルはボッカに用意された広い部屋の一部で生活することを選んだ。室内はリビングルームやベッドルーム、ドレッシングルームなどに別れており、同室という印象はない。
——高級ホテルのスイートルームってこんな感じ?
ベルはメイドに小さなバスケットを用意してもらい、柔らかいタオルを敷き詰めてベッド代わりにした。
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魔王との戦いで衰えた国力を回復すべく打ち合わせが行われ、最大の功労者であるボッカたちの予定が綿密に組まれた。大きな行事だけでなく、記者の取材や肖像画の制作という細かいものまであった。この先、数ヶ月は城から出られないらしい。
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ボッカはほとんど部屋にいることがなく、帰ってきても疲れ切っていて、ベッドに倒れ込む状態だった。ゆっくりと話す暇もなく、ベルは同じ部屋にいるというのにずっと一人ぼっちだった。所詮は主役のおまけでしかなかったのだ。
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