オネエ勇者、魔王に嫁入りする

夢野ぴり

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 生まれつき、変わった痣があった。剣の形に見えるそれは、『勇者の力を継承している証』とされ、勇者の生まれ変わりとして城の中で育てられた。

「魔王を討った暁には、お前が望む褒美をいくらでも与えよう。これが契約書だ」
「頑張ります」

 幼少期、目先の『褒美』という言葉に釣られてそんな契約を交わした。それ以来、毎日厳しい鍛錬を課されながら育てられてきた。
 とはいえ、本来ただの庶民でしかなかっただけの人間が、『変わった痣を持っている』というだけで一家纏めて王城の中に住まわせてもらい不自由のない生活をさせてもらえているのだから何も文句は言えないのだが。今こうして自分の部屋を設けて貰えているのも、間違いなくその痣のおかげだ。

(でもやっぱり、普通が良かった……)

 ドレッサーの鏡を見てはぁと溜息をつく。
 アンドレアの身体を一言で称するなら筋骨隆々。顔は男前で、女性陣からは「野性的な容姿で素敵」と「男性的過ぎて怖い」などと称されることもある。それが何よりのアンドレアのコンプレックスだった。

(せめてもっと小さくて可愛い容姿に生まれたかったわ)

 身長はゆうに190センチを超し、城内でもかなり大きい部類だ。

「アンドレア! 遊びに来たよ」
「……アレク。ノックをしてと言ってるだろ?」

 丁度部屋にやって来たのは、年齢も近い第二王子のアレクサンドラ。171センチと平均身長に近く、ぱっちりとした大きな瞳を持つ青年だ。青少年、という言葉がしっくりくる。童顔だが子供過ぎず、愛らしいがカッコよさもある。

「公務はどうしたんだ?」
「後にした。だって読んでサインしてばっかりだし、今すぐに片付けなきゃいけない物もなかったから」
「大事な書類だろ?」
「本当に大事な書類は俺の所には来ないもん。父さんか兄さんのトコに行くよ」

 かつての英雄の生まれ変わり、なんていう嘘か真かもわからないぽっと出の存在を真っ先に受け入れてくれた存在で、アンドレアにとってはかなり重要な存在だ。
 とはいえ、心の女性の部分を彼に出すことはできていなかった。

(好きだけれど、息苦しい……)

 一緒に居て楽しい存在ではあるが、彼特有の愛らしさは時にアンドレアを苦しめる。
 彼の愛らしい部分というのも勿論好きなところではある。が、愛らしさがあるが故に多少の後回し癖があっても許されたり、周りからも甘やかされたりしていたりしている様を見ていると「可愛いってズルい」という気持ちが湧いてきてしまうのだ。

(もう21にもなったのに)

 その感情は、自分の身体がゴツくなる度に膨れ上がっていく。

「で、何するんだ?」
「ん~? あんまり考えてなかったけど……。一緒にトレーニングしたいかな。俺もかっこよくなりたいと思って」
「かっこよく?」
「アンドレアは俺にとっての理想の男なんだよ。強くてカッコいい。そういう男に俺もなりたいから、一緒にトレーニングするのが一番良いかなって」

 にぱっと明るい笑顔を向けられると悪い気はしないものの、なんだか心臓は痛む。

「わかった。一緒にしよう」
「頼んだ!」
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