13 / 17
13
しおりを挟む
「第一王子を送り込んできたのもおかしいとは思っていたし、きっとワケありなんだろうというのもその時には勘付いていた。だが……、何もわからない子供相手に子を為せというのは酷だ」
誰であっても許されるべきではない、とアルフォンスは言う。それはそう、としか返せないが、それと同時に王族としての役割は『次の王族へバトンを繋ぐこと』だと再三伝えられてきたアリレザにとっては必要な行為だったという考えだ。
この価値観の違いを埋めるのは、今はきっと無理だ。どんな言葉をかければことを大きくせずに済むかと考えるも、なかなか難しい。
「妊娠しない可能性が0とは言い切れない年頃のαをたった1人で送り込むのだって、おかしいだろう」
「……俺は、他の兄弟たちが平和に自国で暮らせるならそれでいい。俺なんかが役に立てることなんてそう多くないから」
頭にポンと手を置いて、力任せにぐりぐりと頭を撫でる。するとぽろぽろと涙が降ってくる。
腕を伸ばして背中に手を伸ばし抱き寄せてやる。横抱きの時はそんなにだったがこれだと大分重たく感じる。
「俺の為に怒ってくれるのは嬉しいよ。でもね、俺は大丈夫だから。王族として生まれた以上、しょうがないことだってわかってるんだ」
んん、とくぐもった何とも言えない返事が返ってくる。
「寝よう、アルフォンス。いい加減」
釈然としない表情のままだったが、アルフォンスは上から退いておずおずと横になる。
「おやすみ」
そう声を掛けるも、何も返ってこない。その代わりに背を向けて丸くなった。
(……色々違うんだな)
国が違うから当然と言えば当然だろう。
とはいえ、許嫁もいなければ、男性が好きと打ち明けても許容されている当たり、フィダナハースとデモンテはかなり違うようだ。フィダナハースでもし打ち明けたらきっと「知るか」で一蹴されて結婚しかないだろう。
(羨ましい)
結局家庭教師に好意は伝えられなかった。
第二次性の事についてはまだよく理解していなかった時期だが『男女が普通』というのは知っていて、自分が異質であるということだけは分かっていた。
『アリレザは男と結婚する他ないのか? 気持ちの悪い事この上ない』
『男が妊娠なんておぞましい。それでも、子を残す為にはそうするしかないのね……』
そんな言葉が両親から飛び出たのは未だに記憶の奥底にこびりついていて、未だに思い出す。
(駄目だな……)
もうすっかり慣れたと思っていたのに、少量の涙が頬を伝う。それでも、自分の境遇について怒りを覚えてくれる人というのがいるだけで少しだけ救われるような気持ちもある。
割り切ろうと努めていても、完全に割り切るというのは不可能だ。
(話過ぎたかな、色々)
この行為は自分の気持ちを軽くしたいから、というのも半分あったのかもしれない。
明日謝ろうと腹に決めて目を伏せた。
誰であっても許されるべきではない、とアルフォンスは言う。それはそう、としか返せないが、それと同時に王族としての役割は『次の王族へバトンを繋ぐこと』だと再三伝えられてきたアリレザにとっては必要な行為だったという考えだ。
この価値観の違いを埋めるのは、今はきっと無理だ。どんな言葉をかければことを大きくせずに済むかと考えるも、なかなか難しい。
「妊娠しない可能性が0とは言い切れない年頃のαをたった1人で送り込むのだって、おかしいだろう」
「……俺は、他の兄弟たちが平和に自国で暮らせるならそれでいい。俺なんかが役に立てることなんてそう多くないから」
頭にポンと手を置いて、力任せにぐりぐりと頭を撫でる。するとぽろぽろと涙が降ってくる。
腕を伸ばして背中に手を伸ばし抱き寄せてやる。横抱きの時はそんなにだったがこれだと大分重たく感じる。
「俺の為に怒ってくれるのは嬉しいよ。でもね、俺は大丈夫だから。王族として生まれた以上、しょうがないことだってわかってるんだ」
んん、とくぐもった何とも言えない返事が返ってくる。
「寝よう、アルフォンス。いい加減」
釈然としない表情のままだったが、アルフォンスは上から退いておずおずと横になる。
「おやすみ」
そう声を掛けるも、何も返ってこない。その代わりに背を向けて丸くなった。
(……色々違うんだな)
国が違うから当然と言えば当然だろう。
とはいえ、許嫁もいなければ、男性が好きと打ち明けても許容されている当たり、フィダナハースとデモンテはかなり違うようだ。フィダナハースでもし打ち明けたらきっと「知るか」で一蹴されて結婚しかないだろう。
(羨ましい)
結局家庭教師に好意は伝えられなかった。
第二次性の事についてはまだよく理解していなかった時期だが『男女が普通』というのは知っていて、自分が異質であるということだけは分かっていた。
『アリレザは男と結婚する他ないのか? 気持ちの悪い事この上ない』
『男が妊娠なんておぞましい。それでも、子を残す為にはそうするしかないのね……』
そんな言葉が両親から飛び出たのは未だに記憶の奥底にこびりついていて、未だに思い出す。
(駄目だな……)
もうすっかり慣れたと思っていたのに、少量の涙が頬を伝う。それでも、自分の境遇について怒りを覚えてくれる人というのがいるだけで少しだけ救われるような気持ちもある。
割り切ろうと努めていても、完全に割り切るというのは不可能だ。
(話過ぎたかな、色々)
この行為は自分の気持ちを軽くしたいから、というのも半分あったのかもしれない。
明日謝ろうと腹に決めて目を伏せた。
1
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説
傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします
槿 資紀
BL
傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。
自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。
そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。
しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。
さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。
リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。
それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。
リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。
愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。
今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。
いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。
推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。
不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。
【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中
夕日(夕日凪)
BL
レイラ・ハーネスは、しがないうさぎ獣人のオメガである。
ある日レイラが経営している花屋に気高き狼獣人の侯爵、そしてアルファであるリオネルが現れて……。
「毎日、花を届けて欲しいのだが」
そんな一言からはじまる、溺愛に満ちた恋のお話。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる