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【神アカシ篇】(2項目)
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聖ローゼ・ヴァビロニアン学園に隣接している、修道院ムーンチャイルド。
夜も更け込み、大きな月が照らしている。
授業が終わって生徒会にも顔を出し、
その後バイトで忙しくしていたら、こんな時間になってしまった。
僕は礼拝堂の扉を開ける。
と、そこにいた子供たちが振り向き、笑顔で駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、おにいちゃん!」
「ただいま~」
僕は一人一人優しく頭を撫でていく。
「みんなまだ起きてたの?
駄目でしょ、早く寝ないと」
「だって、おにいちゃんが帰ってこないと怖くて眠れないんだもんっ」
「じゃあ、もうおにいちゃんが帰ってきたから、安心して眠りなさい」
「はぁ~い」
子供たちは無邪気な天使のようにキャッキャッと走りながら、
それぞれの自室へと入っていった。
この院にいる子供たちは皆、僕の大切な弟と妹たちだ。
僕は階段を昇っていく、
少し奥に図書室がある。
この時間なら起きている頃かな……。
けれど、そこには特別な弟と妹がいる。
僕が図書室の扉を開けると、勢いよく風が吹いてきた。
窓が開けられて、星の綺麗な夜空が見えていた。
「あっ、お兄ちゃん」
ピンクのパジャマを着た、こげ茶色のロングヘアーの小柄な女の子が振り返る。
「こら、ミュウ。何やってるの?
窓開けっ放しにして。冷えるでしょ」
「ごめんなさいぃ~。 あのね、ナイトが……」
見るとナイトは本棚の一番上。
そこに腰掛け窓の外を眺めている。
白い肌に白いパジャマの、表情に乏しい少年。
真っ白な髪の毛が風でふわりと揺れた。
「ふえぇ……。
高い所に登ったほうが、お星さまがよく見えるって……」
ミュウが涙目になりながら、僕の袖を掴む。
「こらー。ナイト! 降りてきなさい」
ナイトは僕のことを意にも介さず、窓の外を眺めている。
ため息をつきながら、暫くナイトを観察していると、
あきらかに顔が引きつってきていた。
……なんだ、そういうことか。
僕は痺れを切らせて、本棚に手と足を掛けてナイトの所まで登っていく。
「ほら、お兄ちゃんが迎えに来たから。降りなさい」
ナイトは唇をへの字に曲げて、しぶしぶとトキワの背中につかまった。
「も~。
自分で降りられないような所に登ってはいけませんっ」
地面にたどり着いてから軽くお説教をした。
ナイトを車椅子に乗せる。
「っていうか、そんな体でどうやって登ってるの?」
ナイトは幼い頃から脚が不自由で車椅子だ。
「気合いです」
ナイトの瞳がキラリと光った。
「それじゃあ、おやすみなさい。
ナイト。 お兄ちゃん」
手を振るとミュウは自室へと入っていった。
ナイトの乗る車椅子を押して、地下へと続く少しだけ長い道を歩く。
「ミュウさんと、もう少し遊びたかったです」
「しかたがないよ。ミュウはもう眠いってさ」
ナイトにとっては夜になってから、これからが朝なのだ。
何故ならナイトは、陽の光を浴びると悪くなってしまう病気だからだ。
ナイトの部屋も、光が一切遮断された地下室にある。
部屋に着いてから気がついた。
「あれっ、靴下はどうしたの?」
「ワタシの足に履かれているのは苦痛だと逃げていきました」
「も~。またそんな屁理屈言って……。
なくしたんでしょ」
僕はタンスから靴下を取り出し、ナイトに履かせる。
もしかするとナイトはもう自分で靴下を履くことができないのではないだろうか。
そのことに気がついて、僕は少し俯いた。
本棚の上には登れるのに?
「ねえ、ナイト」
「なんですか? トキワ」
「キミはもう僕のことを、お兄ちゃんって呼んでくれないのかなぁ?」
自分で言っていて悲しくなってきた。
「昔はあんなに呼んでくれたのにな……」
認めたくないけれど、ナイトの体はどんどん弱ってきている。
もうあまり長くは生きられないかもしれない。
だからもう一度だけ、お兄ちゃんと呼んでほしい。
僕のただのエゴだ。
「もう寝ます。 おやすみなさい」
そう言って部屋を強制的に追い出された。
けれど、もうあまり起きていることすらできないのではないか。
と不安にもなった。
ナイト。
僕はキミになにをしてあげられるのかな……。
ふと、窓を閉め忘れていたことに気がついて、僕は再び図書室の扉を開ける。
窓の向こうに薄暗く森が見える。
そこから誰かがこちらを見ているかのような視線を感じた。
そんなわけないか……。
この修道院には何重にも結界が張ってある。
それに何かあっても僕が許さない。
誰であろうと僕の大切な弟と妹たちを傷つけさせない。
絶対に守ってみせる。
――その時、ナイトは独りで呟いていた。
「……お兄ちゃんなどと呼べるわけがない」
その瞳が涙で揺れていた。
「我は本当の弟などではない。
ナイトなどではないのだから――」
夜も更け込み、大きな月が照らしている。
授業が終わって生徒会にも顔を出し、
その後バイトで忙しくしていたら、こんな時間になってしまった。
僕は礼拝堂の扉を開ける。
と、そこにいた子供たちが振り向き、笑顔で駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、おにいちゃん!」
「ただいま~」
僕は一人一人優しく頭を撫でていく。
「みんなまだ起きてたの?
駄目でしょ、早く寝ないと」
「だって、おにいちゃんが帰ってこないと怖くて眠れないんだもんっ」
「じゃあ、もうおにいちゃんが帰ってきたから、安心して眠りなさい」
「はぁ~い」
子供たちは無邪気な天使のようにキャッキャッと走りながら、
それぞれの自室へと入っていった。
この院にいる子供たちは皆、僕の大切な弟と妹たちだ。
僕は階段を昇っていく、
少し奥に図書室がある。
この時間なら起きている頃かな……。
けれど、そこには特別な弟と妹がいる。
僕が図書室の扉を開けると、勢いよく風が吹いてきた。
窓が開けられて、星の綺麗な夜空が見えていた。
「あっ、お兄ちゃん」
ピンクのパジャマを着た、こげ茶色のロングヘアーの小柄な女の子が振り返る。
「こら、ミュウ。何やってるの?
窓開けっ放しにして。冷えるでしょ」
「ごめんなさいぃ~。 あのね、ナイトが……」
見るとナイトは本棚の一番上。
そこに腰掛け窓の外を眺めている。
白い肌に白いパジャマの、表情に乏しい少年。
真っ白な髪の毛が風でふわりと揺れた。
「ふえぇ……。
高い所に登ったほうが、お星さまがよく見えるって……」
ミュウが涙目になりながら、僕の袖を掴む。
「こらー。ナイト! 降りてきなさい」
ナイトは僕のことを意にも介さず、窓の外を眺めている。
ため息をつきながら、暫くナイトを観察していると、
あきらかに顔が引きつってきていた。
……なんだ、そういうことか。
僕は痺れを切らせて、本棚に手と足を掛けてナイトの所まで登っていく。
「ほら、お兄ちゃんが迎えに来たから。降りなさい」
ナイトは唇をへの字に曲げて、しぶしぶとトキワの背中につかまった。
「も~。
自分で降りられないような所に登ってはいけませんっ」
地面にたどり着いてから軽くお説教をした。
ナイトを車椅子に乗せる。
「っていうか、そんな体でどうやって登ってるの?」
ナイトは幼い頃から脚が不自由で車椅子だ。
「気合いです」
ナイトの瞳がキラリと光った。
「それじゃあ、おやすみなさい。
ナイト。 お兄ちゃん」
手を振るとミュウは自室へと入っていった。
ナイトの乗る車椅子を押して、地下へと続く少しだけ長い道を歩く。
「ミュウさんと、もう少し遊びたかったです」
「しかたがないよ。ミュウはもう眠いってさ」
ナイトにとっては夜になってから、これからが朝なのだ。
何故ならナイトは、陽の光を浴びると悪くなってしまう病気だからだ。
ナイトの部屋も、光が一切遮断された地下室にある。
部屋に着いてから気がついた。
「あれっ、靴下はどうしたの?」
「ワタシの足に履かれているのは苦痛だと逃げていきました」
「も~。またそんな屁理屈言って……。
なくしたんでしょ」
僕はタンスから靴下を取り出し、ナイトに履かせる。
もしかするとナイトはもう自分で靴下を履くことができないのではないだろうか。
そのことに気がついて、僕は少し俯いた。
本棚の上には登れるのに?
「ねえ、ナイト」
「なんですか? トキワ」
「キミはもう僕のことを、お兄ちゃんって呼んでくれないのかなぁ?」
自分で言っていて悲しくなってきた。
「昔はあんなに呼んでくれたのにな……」
認めたくないけれど、ナイトの体はどんどん弱ってきている。
もうあまり長くは生きられないかもしれない。
だからもう一度だけ、お兄ちゃんと呼んでほしい。
僕のただのエゴだ。
「もう寝ます。 おやすみなさい」
そう言って部屋を強制的に追い出された。
けれど、もうあまり起きていることすらできないのではないか。
と不安にもなった。
ナイト。
僕はキミになにをしてあげられるのかな……。
ふと、窓を閉め忘れていたことに気がついて、僕は再び図書室の扉を開ける。
窓の向こうに薄暗く森が見える。
そこから誰かがこちらを見ているかのような視線を感じた。
そんなわけないか……。
この修道院には何重にも結界が張ってある。
それに何かあっても僕が許さない。
誰であろうと僕の大切な弟と妹たちを傷つけさせない。
絶対に守ってみせる。
――その時、ナイトは独りで呟いていた。
「……お兄ちゃんなどと呼べるわけがない」
その瞳が涙で揺れていた。
「我は本当の弟などではない。
ナイトなどではないのだから――」
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