◆闇騎士◆(ナイトメシア)~兎王子と人形姫の不思議な鏡迷宮~

卯月美羽(うさぎ・みゅう)

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【神アカシ篇】(1項目)

ページ11

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夜の魔術師である少年は、結界の中で明らかに弱っていた。 仮面の下から焦りの表情が窺える。

「もう逃げ道は無いゾ。 観念するゾヨ!」

迫り寄る若頭に、鋭い敵意の形相を向ける。
少年は背中に蝙蝠のような翼を広げると、目にも留まらぬスピードでこちらに向かって飛び掛ってきた。

――瞬間、若頭の首筋から血が噴き出した。

「若頭っ!?」

若頭は前を見据えたまま首を押さえる。

「……ゴッドファーザーよ、気をつけるゾヨ。 ヤツは血を吸うゾ」

「ううっ……血が……血が足りないぃ……」

少年は小さく呻きながら、地面にへたり込んだ。

「血を吸うって……もしかして、吸血鬼とか!?」

「吸血鬼……いや、鬼ではないなアレは」

けど、あの少年が異形の者であることは確かだろう。

「ねえ……」

恐ろしくなって僕は尋ねた。

「小説とかだとさ、吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼になっちゃうんじゃあ……」

「ならぬゾヨ」

それは根拠の無い返答だった。 でも――。

「なるのは弱い者だけゾヨ。 余は強い、よって絶対にならぬ」

満月を背景に後光が射しているかのように見え、どこか頼もしく思えた。

「大体、除霊中に相手に噛まれるなんゾ、日常茶飯事ゾヨ!」

そんな日常は嫌すぎる……。

若頭は意も介さず、少年のほうへ歩み寄っていく。
どうするのかと思っていると、少年の左腕を掴んだ。そのまま上へ引き上げる。

「――何をするのデス! 放しなさい! この……無礼者めっ!」

宙に放り出された状態で、暴れて抵抗する。

……が、少年の悲鳴が上がった。

蔑むべき者でも扱うように、少年の服を所々引き裂いていく。
体中を取り調べるかのように見ていく。

破れた服から、首元や腕の関節があらわになっていた。
……それはまるで人形の身体のようだった……。

「等身大ビスクドール、といったところか、西洋の……。
極めて気色が悪いゾヨ! こんなものを造る者の気が知れぬ!」

少年があまりに暴れるせいか、肩の関節がミシミシと音を立てて腕がちぎれた。

身体が地面に激しく叩きつけられる。
同時に肩に乗っていたウサギも転げ落ちてしまう。

「痛いっ……腕が! ワタクシの腕があっ! 痛いぃっ!!」

紅い液体が流れ出す。

「擬似体液、か。 痛みまで感じるのか……。 あわれゾヨな」

若頭はそれを冷たい瞳で見下ろしていた。

「ううっ……ヴァニラ……っ」

這いつくばった状態でウサギのほうへ右手を伸ばす。が、届かない。

それを若頭がすくい上げる。
ウサギの身体が力無く、だらりと垂れ下がる。

「ああ、駄目ゾヨな、これは。 死んだ」

「ヴァニ……っ」

少年は絶望の表情と共に、地面に頭をつけた。

……それは、とても嫌悪感のする光景だった……。

悪霊だ人形だのと言われても、はたから見ればただの少年への残虐的な暴力シーンだ。

若頭が僕のほうへ向き直る。
そして、衝撃の言葉を放った。

「ゴッドファーザーよ、こいつは主が除霊しろ」

――僕は言葉を失ってしまった。

「和のカラクリであるなら余が除霊してもよいゾヨが、余はこういった洋モノが大嫌いでの」

あの少年はもう、ほとんど悪魔の類に近い。

「どうした? まさか出来ぬ、という訳ではないのであろう?
神父の元で世話になっておきながら」

……そっと、自分の胸元に付けている十字架に指で触れる。

人に害を及ぼすようなら、こちらも消滅させるつもりで相対しなければならない。
暫しの沈黙の後、ため息をついて答えた。

「……わかったよ、若頭」
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