◆闇騎士◆(ナイトメシア)~兎王子と人形姫の不思議な鏡迷宮~

卯月美羽(うさぎ・みゅう)

文字の大きさ
上 下
54 / 59
【神アカシ篇】(1項目)

ページ8

しおりを挟む
深夜零時過ぎ。学園正門昇降口前――。

「アル……」

僕は横目で睨む。

「はひっ?」

「生徒会以外の生徒は学園内から払っておいてって、言ったよね?」

「はひぃ……」

「だったら、どうしてアリスが来てるの?」

アリスが目の前で仁王立ちしていた。かなり不機嫌そうに、むくれていた。
その隣りにお嬢もいる。

「風紀委員としてこの学園のために来たの!
だってトキワちゃん、ボクが見張ってないと何するか分からないんだからっ!」

……僕はケダモノか何かか?

「お嬢、大丈夫? こういうの苦手なんじゃないの?待っててくれてよかったのに」

アリスを無視すると、その顔がさらにムッとした。

「ヘーきへーき、全然大丈夫! 例の金髪美少年を絶対にこの目で確かめないとねっ♪」

お嬢はVサインをするが、スカートの下の脚がガタガタ震えている。
……何だか全然駄目そうだ。

「大体アル、良い子はもうオヤスミの時間なんじゃないの?
足手まといだから来なくてよかったのに」

「ぶわーんっ!! びえーんっ!?」

また泣かせてしまった。

僕の隣りに立っている若頭は、仏頂面のまま聞く耳を持たなかった。



時計台を見るともう深夜一時を回っていた。

「全く何も起きる気配がしないゾヨ、本当に現れるのか?」

若頭が段々痺れを切らせてきていた。

学園内に張り込ませている報道部の者にも、スマホで連絡を取るが、全く動きが無い。

ここが一番出没率が高いとはいえ、やはりグラウンド場を見張っているだけじゃ駄目か、とため息をつく。

「そろそろ校舎内も視まわってみようか」

「ムム……余も今それを考えていたところゾヨ、そうと決まればとっとと行くゾヨ!」

例に寄って嫌な言い訳をしているが、僕は気付かないフリをする。

後ろからアリス、お嬢、アルが順番に連れ立って来ていた。

「まさか、校舎の中までついて来る気?」

「うん、風紀委員として!」
「だってぇ、金髪美少年がぁ……」

アルにいたっては眠気で薄っすら目を開けているのが精一杯のようだ。

「いいけど、足手まといにだけはならないでね……」



シンとする廊下に、足音が響いていく。 夜の学園はどこか不気味だ。

「ね、ねえ、白鐘さん?」

お嬢がアリスに声をかける。

「アリスでいいよ」
「じゃあ、アリスちゃん……」
「なーに?」

「手、繋いでもいい? あたし怖くって……」

「いいよ」

お嬢はアリスの手をそっと握る。

「アリスちゃん……は、怖くないの?」

「うん、全然平気だよ。
小さい頃、お祭りの肝試しとかで、逆にお化け役の人驚かせてたくらいだから」

アリスは前を歩いているはずの幼馴染に笑顔を向けた。

「ねえ、トキワちゃん。小さい頃はよくふたりでお祭りに出かけたよねっ♪」

けれど暗闇が続いているだけで、いつの間にか人ひとり見当たらなかった。

「あれっ!? トキワちゃん!?」

「いやっ! アリスちゃん、あたしから離れないでぇっ!こわいぃっ!」

両腕でおもいきりムギュッと、お嬢に抱きつかれる。

「えうぅ……ぼく、もう眠くて怖くて……オヤスミなさひ……」

アルは気絶するように、ヨレヨレとその場に倒れ込んだ。

「いやーー!! トキワちゃーーんっ!!」

アリスの叫び声が、虚しく廊下に轟いた。



「……若頭っ! ……若頭ってば!!」

「ゾヨ?」

僕の呼びかけに、やっと振り向く。

「速く歩きすぎだよ! 逸れちゃうじゃないか!」

若頭はそのまま後ろを見つめて静止した。
僕も後ろを振り返る。すでに誰もいない。

「もう! 若頭が急ぐから、本当に逸れちゃったじゃないか!」

「――いや、ゴッドファーザーよ、それは少し違うようゾヨ」

若頭は瞳を鋭くして、虚空を眺めて呟いた。

「余らは、夜の魔術師とやらの術中に嵌められたのかもしれぬ……」

「え……」

窓の開いていない廊下で、ザワザワと嫌な風が吹いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...