◆闇騎士◆(ナイトメシア)~兎王子と人形姫の不思議な鏡迷宮~

卯月美羽(うさぎ・みゅう)

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【神アカシ篇】(1項目)

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――悪霊。 若頭は写真を睨んでそう言った。

「この金髪少年が悪霊なの?」

僕は聞き返す。

「やだ、こわ~い。 やめてよ、あたしそういうの苦手なんだからぁ~;;」

お嬢が怖がってギュっと腕にしがみ付いてくる。
そんなにくっつかれると、その……ムネがあたる。

「この少年が喰らおうとしている苺! 悪霊に取り憑かれているゾヨ!!」

若頭はビシッと指をさす。
その指の先を見る。
少年が掴んで口に運ぼうとしている苺に、小さな不気味な顔のようなものがあった。

「今すぐ止めぬと大変なことになるゾヨ! 即刻、退治しに行くゾヨ!」

窓を開け放ち、そこから飛び降りようとする。

「きっともう無理だよ。この苺は少年の腹の中だよ」

呆れながら僕は止める。

「では吐き出させて除霊する」
「もう消化吸収されちゃってると思うけど」
「では腹を引き裂いて――」

「もうその先は言わなくていいよ……」

でもこれでやっと核心に迫れそうだ。

「実は数日間、報道部の連中に張り込みさせて調べさせたんだけど……この少年は夜にしか現れないんだ」

そう、これが夜の魔術師と呼ばれる原因だ。
僕が真剣な瞳を向けると、皆は空気を張り詰めさせた。

「ほう、そんなことをしておったのか、大棟梁の名も伊達ではなさそうだな」

「まあね」

僕は続ける。

「少年が姿を現す時間帯は深夜零時から夜明け前までだ。
だから若頭、夜の学園に張り込んで捕まえるのに手を貸して欲しい」

「……手を貸して欲しいだと? 自分独りで出来ぬのか?もしかして怖いのか?」

「そうかもね」

その言葉に皆が少し驚いて一瞬動きを止めた。

「うん、夜の学園ってお化け出そうで怖いんだぁ。
だからさ、一緒に付いてきてよ。 頼むよ若頭」

僕は顔の前で手を合わせて戯けてみせた。

若頭は少しビックリして頬を赤く染めながら、咳き込むような手振りをした。

「仕方が無い、付いて行ってやってもよいゾ。 余はこの学園の副棟梁でもあるしな」

「ありがとう」

「まったく、幽霊ごときに脅えるとは役に立たぬ大棟梁ゾヨ。 余が必ず捕まえてみせるゾヨー!」

「へえ、棟梁にも怖いものあったのね。 お化け怖いの、あたしと同じね」

僕の腕にしがみ付いたままのお嬢は優しく微笑みを向けてくれる。

お化けが怖いというのは言い訳だった。
夜の魔術師は何か危険な、嫌な気配を感じる。もしかすると自分独りでは歯が立たないかもしれない。

若頭はお寺の仕事も修行中ではあるが、ある程度の霊能力がある。

僕にも少し形は違うけれど、似たような能力が備わっている。
――と、これはまだ秘密だけど。

「それで、お嬢様には学園長に夜の学園潜入許可を取って頂きたいのですが、宜しいですか?」

お嬢の手を取り、姿勢を低くして敬礼してみせる。

「わかったわ♪ まかせといて!」

お嬢はうっとりとして満足そうに、もう片方の手を自分の頬に添えた。

「あのう、ぼくは何をすれば……」

アルが瞳を輝かせながら命令を待ち侘びていた。
……正直、存在自体を忘れていた。

「アルは……」 僕は考える。
「アルは……」 更に考える。

「足手まといだから要らない」

「ぶぎゃーーん!?」

盛大に泣かれてしまった。
冗談だよ、と頭を撫でてなだめる。

「アルは、学園内に教職員や生徒が残っていないように配慮して」

「わかりましたれす! 頼まれましたれす!」

アルは額に手を添えて軍人のようにビシッと敬礼した。

……本当に、夜の魔術師とは何者なのだろう。
これで苺の事件を解決することが出来るのだろうか。
不安はあるけれど、でも……。

窓の外を見て、もうすぐ満月が近いなと思った。

もう一度、皆のほうへ真っ直ぐに向き直す。

「決戦は今夜行う! 生徒会最高指揮官部、始動開始だ!」
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