◆闇騎士◆(ナイトメシア)~兎王子と人形姫の不思議な鏡迷宮~

卯月美羽(うさぎ・みゅう)

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【神アカシ篇】(1項目)

ページ4

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昼休み。

「トキワちゃん、ちゃんと考えてる?」

隣りの席でお弁当を食べているアリスに睨まれた。

「考えてるよ」

購買のチョココロネパンを食べながら
眼鏡を指で直して、生徒会日誌に目を向けたままそう答えた。

「あの苺、全然数が減らないし……」

ため息まじりに僕は続ける。

「毎日、撤去作業してるのに、むしろ増えてる気がするし……このままだと学園崩壊沈没するかも」

学園がたった一晩で苺まみれになってしまってから、もう一週間。

窓からは徐々に教室にまでもツタが浸入してきてしまっている。
その隙間から遥か遠い地上の、苺畑に埋もれたグラウンド場が見える。

苺なんて、と思って気にも止めていなかったから罰が当たってしまったのだろうか。

「だいたい、僕の仕事は生徒会費の赤字を立て直すことで、苺事件を解決することじゃない」

と言っても、事件を解決させないと赤字は解消されないし……。

あれから色々と調べてはいるけれど、まったくといって収穫が無い。

とりあえず、学園を苺まみれにした犯人とおぼしき人物、夜の魔術師と言われている者を捕まえなければならないのだけど。

疑わしい人物も、犯人を見かけたという者すらもどこにもいない。
本当に夜の魔術師なんているのだろうか?



昼食を終え。
僕は久しぶりに、地上のグラウンド場へと降りて来てみた。

コンクリートの地面は柔らかい土へと変えられ、むせかえるような苺の香りと、空からは桜の花びらが舞い降りてくる。

僕が着ている制服は生徒会専用で、ブレザーの丈が膝下まである。おまけにズボンから上下共に色は白だ。
歩く度に土が跳ね返り、白いズボンが汚れていく。
ブレザーコートも裾が汚れないように両手でつまみ上げるが、時すでに遅し。

クリーニング代、大丈夫かな。これ……。

「生徒会長。 ご苦労様です」

制服姿が目立つからだろう。近くにいた美化委員の男子生徒に話しかけられた。
僕はにっこりと挨拶を返す。

「この苺の撤去作業をしてるのはキミたちだけ?」

「僕ら美化委員と用務員の先生たちとしています。 なかなか人手がみつからなくて」

人手、ね……。
風紀委員は手伝いもしないのか。
まったく。美化委員にだけ面倒を押し付けて。何考えてるんだか。

いつの間にか隣りに付いてきている、風紀委員に所属しているアリスに思わず目が行った。

「な、なんだよぅ。トキワちゃん」

「なんでもないよ」

それを言ったら生徒会も人のこと言えないか。

目を逸らす。
と、突然上の方から声が聞こえてきた。

「ああわわ、あわわわ、危ないどすえ~! そこの人、避けておくれやす~!」

声のした方へ向き直るけれど、間に合わない。
何かに強くぶつかって、地面に仰向けに倒れ込んでしまう。

気がつくと僕の体の上に、美化委員の女の子が馬乗りになっていた。

「あ~れ~!? ごめんなさいどす~!」

むにっと顔に何か柔らかい感触。
目の前に、水色の横縞模様のパンツ……つまりお尻が飛び込んできた。

瞬間、アリスのビンタが僕の頬目掛けて飛んできた。

「誰かと思ったらチョビじゃない。気を付けないと駄目なんだからねっ!」

「はいぃ~。かんにんな。
窓の苺のツタを刈っとったら、急に命綱がちぎれたみたいで~」

彼女の名前は【黒咲蝶璃】(くろさき・ちより)。通称チョビ。
少し古風で変わった喋り方をする。アリスの親友だ。

ていうか、なぜ僕が殴られるのか。今のは不可抗力じゃあないのか。

「チョビちゃん、怪我してない? 大丈夫だった?」

「はい。輝神はんがクッションになってくれたおかげで、なんとも~」

なぜだかアリスが睨んでいるけど僕は気づかないフリをする。

「チョビちゃん、いくらなんでも危ないよ。ああいう所は他の人に任せたら……」

「せやけど、人手不足どすし。 刈っても刈っても次の日には再生してはるようどすし~」

「え? 再生?」



美化委員の子たちの話しによると、撤去しても次の日に同じ場所に来て見ると、また新しく苺が生えているのだという。

だから苺は減ることはない。むしろどんどん増えていく。
苺は甘くて可愛らしいけれど、ここまでくるとさすがに不気味だ。

と、そこにヘリコプターの音が聞こえてきた。
すると天空からビラがばら撒かれた。地上へと沢山降ってくる。

「号外ー!号外~!」

報道部からの号外ニュースだった。

それを一枚つかんで見てみる。
そこには苺畑とそれを生やしている犯人だという人物の姿が写っていた……。

――それは、合成やCGとはとても思えない代物だった。

こんなものを信じてしまっていいのだろうか……。
迷う、けれどもう頼みの綱はこれしかない。

僕は校舎へと向かって走り出していた。
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