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【星ワタリ篇】~第1章~(題2部)
夢現十二時
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メアリは紅い本を手に、座ったまま俯いてしまった。
紅い風に包まれて、何かの手品のように
再び、死神・ファントムがメアリの前に姿を現した。
そのままメアリは重い口を開く。
「一日に一度だけだったんじゃないのか?
あんたが姿を現すのは」
「今回は特別だよ。キミが大事なことを思い出したみたいだったからね」
ファントムは今までになく、真面目な口調で話した。
「忘れたことすらも、忘れてしまった記憶を」
「……」
「悲しいのかな?」
――悲しい?
虚ろな瞳のまま、メアリは考える。
俺の願いは、この夢の国のような街で、ナイトとミュウと三人でずっと一緒に仲良く暮らすことだ。
けれどそれはもう叶うことはない。永遠に。
なぜなら全てが作り物だから。
元居たあの平和だった街は仮初の夢だったのだ。
街の住人は人形にされてしまった訳ではなく、最初から人形だったのだ――。
ふとナイトが言っていた言葉を思い出して、口元を笑ませた。
このモノクロームの世界こそが真実の世界、か…。
確かにそうだ。
けれど違う。
夢だというなら、この世界もきっと同じだ。
黙り込んだままのメアリを見兼ねて、ファントムは話し始める。
「ボクはミュウの魂を、どうしても奪わなければならない。
ミュウの命を救うために。
だけどボク自身はこの世界に危害を加えることはできない。
だから――」
「だから、この死のゲームの力を借りたのか」
「え?」
「この世界の全ての真実を浮き彫りにして、
ミュウにこの世界に居たくないと強く思わせること……。
それがミュウを、”ナイト”から救う最善の手段だ」
「ほお。 そんなことまで解っているなんて。
まさか記憶が全部――」
「まだ完全じゃあない。 だがな、
魔女に呪いをかけられて、黒いうさぎの縫いぐるみにされている悪魔だとか
思い込んでいるよりはずっとマシだろ」
メアリはいつものようにニッと笑顔を見せて、親指を立ててポーズを決めた。
「元気出たみたいだネェ。 ヨカッタヨカッタ♪」
「は? 別に誰も落ち込んだりなんてしてないぞ!」
ほんの少しだけ頬を赤く染めるメアリ。
「ボクは傍観者のまま、この先もミュウを見守ることしかできないけれど――」
言いかけたファントムの言葉をメアリが遮る。
「あんた、ナイトメア・メイズをこの世界に送り込んだのは失敗だったかもしれないぜ?」
「どうしてかな?」
「あれは元々はナイトが作り出したゲームだろ。
本人のほうが仕組みを理解してる分、攻略するにも有利だと思うが?」
「…それはある程度、考慮しているさ。
でもアレじゃなきゃどうしても駄目なんだ」
「そうか、でも俺はあんたに協力するつもりはないぜ。
俺は俺でやらせてもらう」
「好きにするがいいさ」
――メアリは創造する。
ラストシーンはもう決まっている。
最後は全員笑ってハッピーエンドだ。
「俺は、ナイトとミュウの幸せを守る」
この先何が起こったとしても。
それが俺にとっての幸せなのだから。
メアリが瞳を閉じて力を籠めると、辺りに黒い羽根が舞い散る。
その背中から黒い翼が生えていた。
「御武運を」
死神・ファントムはマントを翻すと、紅い風に包まれて姿を消した。
「あんたもな」
メアリは前を見据えたまま、翼を広げて空高く羽ばたいて行った。
紅い風に包まれて、何かの手品のように
再び、死神・ファントムがメアリの前に姿を現した。
そのままメアリは重い口を開く。
「一日に一度だけだったんじゃないのか?
あんたが姿を現すのは」
「今回は特別だよ。キミが大事なことを思い出したみたいだったからね」
ファントムは今までになく、真面目な口調で話した。
「忘れたことすらも、忘れてしまった記憶を」
「……」
「悲しいのかな?」
――悲しい?
虚ろな瞳のまま、メアリは考える。
俺の願いは、この夢の国のような街で、ナイトとミュウと三人でずっと一緒に仲良く暮らすことだ。
けれどそれはもう叶うことはない。永遠に。
なぜなら全てが作り物だから。
元居たあの平和だった街は仮初の夢だったのだ。
街の住人は人形にされてしまった訳ではなく、最初から人形だったのだ――。
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このモノクロームの世界こそが真実の世界、か…。
確かにそうだ。
けれど違う。
夢だというなら、この世界もきっと同じだ。
黙り込んだままのメアリを見兼ねて、ファントムは話し始める。
「ボクはミュウの魂を、どうしても奪わなければならない。
ミュウの命を救うために。
だけどボク自身はこの世界に危害を加えることはできない。
だから――」
「だから、この死のゲームの力を借りたのか」
「え?」
「この世界の全ての真実を浮き彫りにして、
ミュウにこの世界に居たくないと強く思わせること……。
それがミュウを、”ナイト”から救う最善の手段だ」
「ほお。 そんなことまで解っているなんて。
まさか記憶が全部――」
「まだ完全じゃあない。 だがな、
魔女に呪いをかけられて、黒いうさぎの縫いぐるみにされている悪魔だとか
思い込んでいるよりはずっとマシだろ」
メアリはいつものようにニッと笑顔を見せて、親指を立ててポーズを決めた。
「元気出たみたいだネェ。 ヨカッタヨカッタ♪」
「は? 別に誰も落ち込んだりなんてしてないぞ!」
ほんの少しだけ頬を赤く染めるメアリ。
「ボクは傍観者のまま、この先もミュウを見守ることしかできないけれど――」
言いかけたファントムの言葉をメアリが遮る。
「あんた、ナイトメア・メイズをこの世界に送り込んだのは失敗だったかもしれないぜ?」
「どうしてかな?」
「あれは元々はナイトが作り出したゲームだろ。
本人のほうが仕組みを理解してる分、攻略するにも有利だと思うが?」
「…それはある程度、考慮しているさ。
でもアレじゃなきゃどうしても駄目なんだ」
「そうか、でも俺はあんたに協力するつもりはないぜ。
俺は俺でやらせてもらう」
「好きにするがいいさ」
――メアリは創造する。
ラストシーンはもう決まっている。
最後は全員笑ってハッピーエンドだ。
「俺は、ナイトとミュウの幸せを守る」
この先何が起こったとしても。
それが俺にとっての幸せなのだから。
メアリが瞳を閉じて力を籠めると、辺りに黒い羽根が舞い散る。
その背中から黒い翼が生えていた。
「御武運を」
死神・ファントムはマントを翻すと、紅い風に包まれて姿を消した。
「あんたもな」
メアリは前を見据えたまま、翼を広げて空高く羽ばたいて行った。
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