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【星ワタリ篇】~第1章~(題2部)
夢現五時
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商店街の屋根の上を跳び、駆け周るメアリ。
人形の腕が伸び、辺りの建物がどんどん破壊されていく。
このままでは拉致が明かない、か。
「!?」
と、走って攻撃を避けているうちに、一体だけ周りの人形たちとは異なる者が目に入った。
額の所に紅いキラキラ輝く宝石のような物が埋め込まれている。
もしかすると……。
崩れた瓦礫の破片を掴み、人形の額を目掛けて投げつけてみる。
すると、
「――ギシャアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
耳を覆いたくなるほどの人形の低く高い音のような奇声が轟き上がった。
その瞬間、それを合図にするように周りに居た人形たちが次々に砕け散って砂粒のように消えていく。
そして残りは額に紅い宝石のある人形一体だけとなった。
「……お前が本体というわけか」
「ウウウ……」
人形の呻き声が、聴こえる――。
不可思議に思った。
何故だか切なく胸を打つ。何処だか違和感がある。
何度も何度も幾度となく、声が聴こえる。 耳から離れない――。
……真実の声……。
「……!?」
メアリはソレに気が付いた。
――たすけて!! 苦しい!!
――暗い。 ――冷たい。
ここはどこ!? 誰か助けて!! 誰か。誰カ……。 ダレカ……。
「タスケテ……」
いつの間にか、表情の無い人形の瞳から涙が流れていた。
それはこの街、ネオ・ネヴァーランドに住む人々の嘆きの声だった。
そう、気が付いた……。
いつも値段を安くしてくれる八百屋さんのおじさん。
いつも優しく接してくれる酒屋のおばさん。
恥ずかしそうに笑う可愛いお花屋さんのお姉さん。
道をはしゃぎながら駆けていく子供たち。
そんないつも当たり前にあったはずの情景が浮かび上がる。
気が付いてしまった……。解ってしまった……。
――温かかった街の人々は、こんな人形の塊へと姿を変えられてしまったのだ――。
「そう……それがお前の【悪夢】か……」
言うとメアリはシルクハットの鍔の部分を摘まんで外す。
頭の天辺に生えている髪の毛が二本、ぴょこんと触角のようにハネた。
涙を流しながら、人形はメアリに腕を伸ばしてくる。
「随分と久しいな、お前を使うのは」
シルクハットの中に手を突っ込み、ぼやく。
二の腕や肩の辺りまで押し込み、まさぐる。
中は巨大な異空間となっている。
探っていると、苺のキャンディーやミュウの写真やトランプといった玩具が出てきた。
「くそっ、ナイトだな。 俺の帽子を玩具箱にしやがってっ」
自然と頭の中にナイトの嘲笑う顔が浮かんだ。
再びシルクハットの中に手を入れる。
「来るか、来ないか……いや、必ず来る!!――」
掌に確かな手ごたえを感じた。
足下を人形の腕が突き刺す。 メアリは高く上へ跳びはねた。
「主、メアリードが命ず……」
スーッと刃先の煌くような音が聴こえた気がした。
それは突如、異次元から現れた。
「――舞い響け、妖刀・【白夜】!!」
風の音も止まるほど、凛とした静寂が辺りを凍らせる。
それは人形の動きさえも止めた。
やや三日月形にカーブを描き細く刃先の鋭く尖った、妖艶な芸術品のような和様の刀……。
侍の如く手にして叫ぶと、そのまま一直線に下へと急降下する。
狙いは額の宝石ただひとつ――。
――――。
宝石を突き刺すと、人形の体は粉々に激しく砕け飛び散った。
メアリは地面に降り立つ。
後から沢山の欠片がメアリの頭上を降り注ぐ。
まるで桜色の美しい粉雪のように。
魅せられて、ぼんやりと見惚れる。
掌を出すとひらりと欠片が上に乗り、すぐにシュンと熔けるように消えて無くなった。
――助けてくれて、ありがとう。
声が聴こえた気がした。
メアリは優しい微笑みを浮かべた。
「おやすみ。 マイ・リトル・ラブリードール」
……どこか遠くで、鐘の音が鳴っている……。
街外れにある教会。
そこでナイトとミュウは身を隠していた。
「わあ、見てナイト!」
窓をのぞき込んで指をさすミュウ。
「ほら、あそこ。 空がピンク色でとってもキレイだね」
「メアリですね、やってくれましたか……」
ナイトは安堵の表情を浮かべた。
そこに、コツコツと誰かが歩いてくる靴の音が聞こえた。
ハッとして振り返る。
濃いピンク色のウエーブのかかった長い髪。背の高い女性かと見間違うような外見。
「アンジェラさん!?」
バイト先の喫茶店ミザリィ・ロンドのマスター、アンジェラが立っていた。
「アンジェラさん、無事だったですか!? よかったですっ!」
ミュウが喜んで駆け寄る。
「アンジェラさん、あのぅ、他の人たちは……」
アンジェラは言葉無く、無表情のまま立ち尽くしている。
ナイトは何かがおかしいと疑惑の目を向ける。
すぐに嫌な気配に感付いた。
「――いけません! ミュウ様!今すぐ離れてください!」
「え?」
マスター・アンジェラがニヤリと顔を歪める。
その身体から無数の人形のような腕が生えだし、長く伸びる。
ミュウはナイトのほうへ体勢を崩した。
「大丈夫ですか!? ミュウ様!」
触れるとミュウの体から血が滴り落ちていた。
「……だいじょうぶ。 ちょっと、かすっただけだよ」
「ミュウ……様……」
「血……血ィ……」
アンジェラは指に付いたミュウの血を舐め取っていた。
ナイトはアンジェラを睨むと、ギリリッと歯軋りを立てた。
人形の腕が伸び、辺りの建物がどんどん破壊されていく。
このままでは拉致が明かない、か。
「!?」
と、走って攻撃を避けているうちに、一体だけ周りの人形たちとは異なる者が目に入った。
額の所に紅いキラキラ輝く宝石のような物が埋め込まれている。
もしかすると……。
崩れた瓦礫の破片を掴み、人形の額を目掛けて投げつけてみる。
すると、
「――ギシャアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
耳を覆いたくなるほどの人形の低く高い音のような奇声が轟き上がった。
その瞬間、それを合図にするように周りに居た人形たちが次々に砕け散って砂粒のように消えていく。
そして残りは額に紅い宝石のある人形一体だけとなった。
「……お前が本体というわけか」
「ウウウ……」
人形の呻き声が、聴こえる――。
不可思議に思った。
何故だか切なく胸を打つ。何処だか違和感がある。
何度も何度も幾度となく、声が聴こえる。 耳から離れない――。
……真実の声……。
「……!?」
メアリはソレに気が付いた。
――たすけて!! 苦しい!!
――暗い。 ――冷たい。
ここはどこ!? 誰か助けて!! 誰か。誰カ……。 ダレカ……。
「タスケテ……」
いつの間にか、表情の無い人形の瞳から涙が流れていた。
それはこの街、ネオ・ネヴァーランドに住む人々の嘆きの声だった。
そう、気が付いた……。
いつも値段を安くしてくれる八百屋さんのおじさん。
いつも優しく接してくれる酒屋のおばさん。
恥ずかしそうに笑う可愛いお花屋さんのお姉さん。
道をはしゃぎながら駆けていく子供たち。
そんないつも当たり前にあったはずの情景が浮かび上がる。
気が付いてしまった……。解ってしまった……。
――温かかった街の人々は、こんな人形の塊へと姿を変えられてしまったのだ――。
「そう……それがお前の【悪夢】か……」
言うとメアリはシルクハットの鍔の部分を摘まんで外す。
頭の天辺に生えている髪の毛が二本、ぴょこんと触角のようにハネた。
涙を流しながら、人形はメアリに腕を伸ばしてくる。
「随分と久しいな、お前を使うのは」
シルクハットの中に手を突っ込み、ぼやく。
二の腕や肩の辺りまで押し込み、まさぐる。
中は巨大な異空間となっている。
探っていると、苺のキャンディーやミュウの写真やトランプといった玩具が出てきた。
「くそっ、ナイトだな。 俺の帽子を玩具箱にしやがってっ」
自然と頭の中にナイトの嘲笑う顔が浮かんだ。
再びシルクハットの中に手を入れる。
「来るか、来ないか……いや、必ず来る!!――」
掌に確かな手ごたえを感じた。
足下を人形の腕が突き刺す。 メアリは高く上へ跳びはねた。
「主、メアリードが命ず……」
スーッと刃先の煌くような音が聴こえた気がした。
それは突如、異次元から現れた。
「――舞い響け、妖刀・【白夜】!!」
風の音も止まるほど、凛とした静寂が辺りを凍らせる。
それは人形の動きさえも止めた。
やや三日月形にカーブを描き細く刃先の鋭く尖った、妖艶な芸術品のような和様の刀……。
侍の如く手にして叫ぶと、そのまま一直線に下へと急降下する。
狙いは額の宝石ただひとつ――。
――――。
宝石を突き刺すと、人形の体は粉々に激しく砕け飛び散った。
メアリは地面に降り立つ。
後から沢山の欠片がメアリの頭上を降り注ぐ。
まるで桜色の美しい粉雪のように。
魅せられて、ぼんやりと見惚れる。
掌を出すとひらりと欠片が上に乗り、すぐにシュンと熔けるように消えて無くなった。
――助けてくれて、ありがとう。
声が聴こえた気がした。
メアリは優しい微笑みを浮かべた。
「おやすみ。 マイ・リトル・ラブリードール」
……どこか遠くで、鐘の音が鳴っている……。
街外れにある教会。
そこでナイトとミュウは身を隠していた。
「わあ、見てナイト!」
窓をのぞき込んで指をさすミュウ。
「ほら、あそこ。 空がピンク色でとってもキレイだね」
「メアリですね、やってくれましたか……」
ナイトは安堵の表情を浮かべた。
そこに、コツコツと誰かが歩いてくる靴の音が聞こえた。
ハッとして振り返る。
濃いピンク色のウエーブのかかった長い髪。背の高い女性かと見間違うような外見。
「アンジェラさん!?」
バイト先の喫茶店ミザリィ・ロンドのマスター、アンジェラが立っていた。
「アンジェラさん、無事だったですか!? よかったですっ!」
ミュウが喜んで駆け寄る。
「アンジェラさん、あのぅ、他の人たちは……」
アンジェラは言葉無く、無表情のまま立ち尽くしている。
ナイトは何かがおかしいと疑惑の目を向ける。
すぐに嫌な気配に感付いた。
「――いけません! ミュウ様!今すぐ離れてください!」
「え?」
マスター・アンジェラがニヤリと顔を歪める。
その身体から無数の人形のような腕が生えだし、長く伸びる。
ミュウはナイトのほうへ体勢を崩した。
「大丈夫ですか!? ミュウ様!」
触れるとミュウの体から血が滴り落ちていた。
「……だいじょうぶ。 ちょっと、かすっただけだよ」
「ミュウ……様……」
「血……血ィ……」
アンジェラは指に付いたミュウの血を舐め取っていた。
ナイトはアンジェラを睨むと、ギリリッと歯軋りを立てた。
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