31 / 59
【星ワタリ篇】~第1章~(題2部)
夢現二時
しおりを挟む
空は絶望的に暗く灰色にくすんでいた。
それはまるで色の無い、モノクロームの世界のようだった……。
紅い本の放った淡い光りもゆっくりと消えていった。
メアリは恐る恐るページに目を落とす。
「……真っ暗ですね。
ですが、夜とは少し違いますね」
いつの間にか隣りにナイトとミュウが連れ立って、辺りを眺めていた。
胸元に提げているファントムからの贈り物、懐中時計を手にする。
「これ、一応動いてはいますけど、正確な時刻かは怪しげデスね」
針は丁度、十二時を回った所を指している。
ミュウもそれを覗き込む。
「もし、この時刻が正しいのであれば、今までの状況から計算すると……」
もう今日は12月25日の、
「もしかして、今はお昼の十二時??」
「……そういうことになりますね」
「ナイト、これを見てみろ」
メアリは紅い本を差し出す。
「これってさっきも見たトラベラーズ・ダイアリーじゃないデスか。
こんな白紙の本を何度も見てどうするのデスか」
「ここだ、この一番最初のページ……」
唇をとがらせて、むくれるナイトに強制的に本を持たせる。
そのページを見た瞬間、ナイトは表情を一変させた。
「――文字が、浮かび上がっている?」
白紙だったはずのページに、紅黒く殴り書きされたかのような文章が綴られていた……。
「……始マリハ終ワリ、終ワリハ始マリ」
ナイトはぼんやりとした瞳で無心に文字を読み始める。
「死神ノ始マリノ合図ト共ニ夢ノ城ガ崩レ去リ、兎タチハ楽シイ夢カラ覚メタ……。
ソレハ【真実ノ世界】」
最後の言葉に少しの恐怖を感じる。
「全テノ終ワリヲ迎エルタメノ物語リガ今、始マルノダ……」
空間が真っ暗に歪んだように感じた。
三人は嫌な予感に言葉を無くした。
今置かれている自分たちの状況を言われた気がしていた。
「子供騙しな……おふざけもいいところデスねぇ~」
それでもナイトは気にもかけず、いつものように悪戯に笑う。
拍子抜けしてしまう。
が、それがナイトの良い所でもあるのかもしれない。
きょろきょろと辺りを見渡してから、
「とりあえず、街の様子を詮索してみましょうかね?
このままでは埒が明きませんし」
杖を器用に操りながら軽やかに跳び駆けていくナイト。
「まったく……」
ため息のメアリ。
その後ろに続いて静かにミュウも歩き始めた。
「何か見つけたか?」
「いいえ、人一人見当たりません。 蛻の殻、デスね」
いつもの商店街を歩く三人。
けれど、昨日とは明らかに一変してしまっている。
毎日がカーニバルのような楽しげな街で、
さらに昨日はクリスマスイヴということでとても盛り上がっていたのに、
今はまるで冷たい廃墟と化した死霊都市……。
「みんな、どこにいっちゃったのかなぁ……?」
ミュウが呟く。
「これはゲームの世界じゃないのか?
どう考えてもおかしいだろ、一晩で誰も居なくなるなんて」
メアリが吐き捨てる。
「ではこれは死神の造り出した架空の世界で、現実ではない、と?」
ナイトが言う。
住人は一人も見当たらないものの、街並みはいつもと何ら変わりはない。
「そうとしか考えられないだろ。そうじゃなかったらなんなんだ、ここは」
「……もし、この世界こそが現実であったとしたら?」
「え……」
急に冷たい瞳を向けられて、言葉に詰まるメアリ。
「元居たあの世界が現実であると、言い切れるのデスか? 何を根拠に?」
モノクロの世界に、白いイビツな亀裂が入ったかのように、
――万華鏡の世界……。
硝子の欠片を転がせて引き寄せあい、鏡と鏡が裏返ったような気がした。
視界が真っ暗になった。
「……うっ……」
突然の目まいに、メアリは頭を押さえた。
フッと笑い、
「冗談デスよ」
クスクスと、舌を見せるナイト。
振り向いて、ふわりふわりと舞うような足取りで歩きだす。
蒼いマントが風に煽られて捲れ上がった。
リリリ……リリリン。
音……?何の音だ?
メアリはナイトの姿を目で追った。
ナイトの影が右へ左へ、四方八方へと揺れる。
それと同時にその音も後から付いて行く。
リン……チリン……。
鈴の音……?
ナイトの体から聞こえている……?
すると、何かが顔の辺りにひらりと当たり、目の前が白く霞んだ。
そっと指先で触れて手に取る。
「花びら……?」
淡く薄いピンク色の小さな花びら。
辺りは、枯れ木に枯れ草。 一輪の花すら咲いていない。
それはメアリが知らない世界の、知らない時代の花……。
桜の花びらだった。
……隣りでミュウが物悲しげな瞳でナイトを見つめていることに、その時メアリは気が付かなかった……。
それはまるで色の無い、モノクロームの世界のようだった……。
紅い本の放った淡い光りもゆっくりと消えていった。
メアリは恐る恐るページに目を落とす。
「……真っ暗ですね。
ですが、夜とは少し違いますね」
いつの間にか隣りにナイトとミュウが連れ立って、辺りを眺めていた。
胸元に提げているファントムからの贈り物、懐中時計を手にする。
「これ、一応動いてはいますけど、正確な時刻かは怪しげデスね」
針は丁度、十二時を回った所を指している。
ミュウもそれを覗き込む。
「もし、この時刻が正しいのであれば、今までの状況から計算すると……」
もう今日は12月25日の、
「もしかして、今はお昼の十二時??」
「……そういうことになりますね」
「ナイト、これを見てみろ」
メアリは紅い本を差し出す。
「これってさっきも見たトラベラーズ・ダイアリーじゃないデスか。
こんな白紙の本を何度も見てどうするのデスか」
「ここだ、この一番最初のページ……」
唇をとがらせて、むくれるナイトに強制的に本を持たせる。
そのページを見た瞬間、ナイトは表情を一変させた。
「――文字が、浮かび上がっている?」
白紙だったはずのページに、紅黒く殴り書きされたかのような文章が綴られていた……。
「……始マリハ終ワリ、終ワリハ始マリ」
ナイトはぼんやりとした瞳で無心に文字を読み始める。
「死神ノ始マリノ合図ト共ニ夢ノ城ガ崩レ去リ、兎タチハ楽シイ夢カラ覚メタ……。
ソレハ【真実ノ世界】」
最後の言葉に少しの恐怖を感じる。
「全テノ終ワリヲ迎エルタメノ物語リガ今、始マルノダ……」
空間が真っ暗に歪んだように感じた。
三人は嫌な予感に言葉を無くした。
今置かれている自分たちの状況を言われた気がしていた。
「子供騙しな……おふざけもいいところデスねぇ~」
それでもナイトは気にもかけず、いつものように悪戯に笑う。
拍子抜けしてしまう。
が、それがナイトの良い所でもあるのかもしれない。
きょろきょろと辺りを見渡してから、
「とりあえず、街の様子を詮索してみましょうかね?
このままでは埒が明きませんし」
杖を器用に操りながら軽やかに跳び駆けていくナイト。
「まったく……」
ため息のメアリ。
その後ろに続いて静かにミュウも歩き始めた。
「何か見つけたか?」
「いいえ、人一人見当たりません。 蛻の殻、デスね」
いつもの商店街を歩く三人。
けれど、昨日とは明らかに一変してしまっている。
毎日がカーニバルのような楽しげな街で、
さらに昨日はクリスマスイヴということでとても盛り上がっていたのに、
今はまるで冷たい廃墟と化した死霊都市……。
「みんな、どこにいっちゃったのかなぁ……?」
ミュウが呟く。
「これはゲームの世界じゃないのか?
どう考えてもおかしいだろ、一晩で誰も居なくなるなんて」
メアリが吐き捨てる。
「ではこれは死神の造り出した架空の世界で、現実ではない、と?」
ナイトが言う。
住人は一人も見当たらないものの、街並みはいつもと何ら変わりはない。
「そうとしか考えられないだろ。そうじゃなかったらなんなんだ、ここは」
「……もし、この世界こそが現実であったとしたら?」
「え……」
急に冷たい瞳を向けられて、言葉に詰まるメアリ。
「元居たあの世界が現実であると、言い切れるのデスか? 何を根拠に?」
モノクロの世界に、白いイビツな亀裂が入ったかのように、
――万華鏡の世界……。
硝子の欠片を転がせて引き寄せあい、鏡と鏡が裏返ったような気がした。
視界が真っ暗になった。
「……うっ……」
突然の目まいに、メアリは頭を押さえた。
フッと笑い、
「冗談デスよ」
クスクスと、舌を見せるナイト。
振り向いて、ふわりふわりと舞うような足取りで歩きだす。
蒼いマントが風に煽られて捲れ上がった。
リリリ……リリリン。
音……?何の音だ?
メアリはナイトの姿を目で追った。
ナイトの影が右へ左へ、四方八方へと揺れる。
それと同時にその音も後から付いて行く。
リン……チリン……。
鈴の音……?
ナイトの体から聞こえている……?
すると、何かが顔の辺りにひらりと当たり、目の前が白く霞んだ。
そっと指先で触れて手に取る。
「花びら……?」
淡く薄いピンク色の小さな花びら。
辺りは、枯れ木に枯れ草。 一輪の花すら咲いていない。
それはメアリが知らない世界の、知らない時代の花……。
桜の花びらだった。
……隣りでミュウが物悲しげな瞳でナイトを見つめていることに、その時メアリは気が付かなかった……。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる