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【星ワタリ篇】~第1章~(題1部)
夢二夜
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――12月24日、感謝祭前日。
街では聖歌が流され大勢の人で賑わい、広場には色とりどりのイルミネーションで飾られた大きなツリー。
商店街もクリスマスカラーに染まり、所々で赤いサンタ服を着た店員がセールの看板を掲げて経営を争い合っている。
ツリーのすぐ傍にある小さな時計台の下で、ナイトとミュウは待ち合わせの相手を探していた。
「まったく、時間にルーズな男ですねぇ」
ナイトに話し掛けられても、ミュウは浮かない表情のまま返事をしなかった。
「……もしかして、さっきのことを気にしているのですか?」
とっさに、ミザリィ・ロンドでの戦争孤児の会話を思い出した。
「あっ。ううん、そうじゃないの……」
ミュウは少しだけ寂しそうに、続けた。
「ミュウね、ナイトとメアリたちに出逢う前のこと、よく憶えてないの。
えと、昔のこととか、おとうさんとおかあさんのこととか……」
――記憶喪失?
そんな言葉が不意にナイトの脳裏を過ぎった。
「きっとミュウ、すこしおかしいのかも……」
ミュウの瞳が不安に揺らめく。
「大丈夫ですよ、ミュウ様。
あの頃は幼かったですし、きっとまだ戦争のショックが抜けていないからかもしれません」
ナイトは安心させるようにミュウの肩に手を添えて、優しく微笑む。
するとミュウも微笑み返した。
……何か符に落ちない。
そんな思いを噛み締めて、心の奥底へしまい込んだ……。
「……ねえ、ナイト。 今日が何の日か憶えてる?」
「ハイ、今日はクリスマス・イヴですね。
……あれからもう何年も経つのですね」
「うん、今日はナイトの誕生日。
ナイトがはじめてお家に来た日だよ!」
「……で、俺は荷物持ちなわけかw」
前が見えなくなるほどの大量の箱や紙袋を抱えて、街道を歩きながら文句を漏らす男性。
全身黒で統一した服装にシルクハットを被った紫色の髪の毛、長身でかなりの美形なためやたらと目立っている。
前を歩いていたナイトとミュウが振り返る。
「ワタクシはこの通り、脚が不自由で成りません。
ミュウ様に持たせる訳にはいきませんし、こういう雑用は我が下僕であるメアリ、貴方の仕事なのデス!」
彼の名前は、【メアリード・ハイヴェルダルク・ウォン・ヴァレンシュタインⅠⅣ世】。
居候兼、ふたりの保護者役でもある。
ナイトは意地悪く口元をニヤつかせ、左手に装着している杖をブンブンとメアリに向かって振り回した。
隣りで日傘を差している小さなミュウが、さらに小さく縮こまり体を震わせている。
「おい、俺がいつお前の下僕になった?
ナイトお前、どう見ても実は歩けるだろ!? その杖、絶対必要無いだろ!?」
「NOn!!煙草臭い上に酒くさっ……貴方、また昼間からカジノで遊んでましたね。
……ワタクシ達が汗水流して稼いだ銭をくだらない賭け事に使うなどと、なんて卑劣な……」
「その湿気た金を増やしてやってるのは、何処の誰だと思ってるんだ、あ?」
そんな皮肉なことを言いながらも、メアリは実のところカジノでディーラーとして働いているだけである。
煙草は吸うが、酒はマナーのなっていない客に無理やり飲まされてしまったのだ。
ミュウはささっとナイトの背中にしがみ付いて隠れた。
恐る恐る、ひょっこりと瞳だけを覗かせる。
「メアリ、こわいよぅ……」
男の人の香りと煙草と、知らないお酒の香り。
それは全てミュウにとって未知の世界で、それがとても怖いのだ。
「うっ……」
引きつるメアリ。
それを見てニヤリッとするナイト。
「メアリ、ごめんなさい……」
頬を赤くして、ぷるぷる震えるミュウ。
水晶玉のように丸い大きな瞳から、じんわりと真珠のような涙がこぼれそうになる。
……。
メアリは「はぁ……」とため息をついて、ミュウの頭にポンポンと手を置いた。
「で、後は何を買い物するんだ?」
一瞬だけビクッとして、ミュウは指折りして数えながら言った。
「えと、デコレーションケーキとチキンとビスケットも買ったし、後はお家に帰ってツリーに明かりを付けるの」
「イチゴジャムとストロベリーキャンディーとイチゴミルクティーも大量に買い占めましたし、これでパーティーの準備は万端デスね☆」
お前には聞いていない。
そう思うメアリだったが、嬉しそうにはしゃぐふたりを見守るように歩調を合わせながら、
3人は家路へと続く道を進んで行った――。
街では聖歌が流され大勢の人で賑わい、広場には色とりどりのイルミネーションで飾られた大きなツリー。
商店街もクリスマスカラーに染まり、所々で赤いサンタ服を着た店員がセールの看板を掲げて経営を争い合っている。
ツリーのすぐ傍にある小さな時計台の下で、ナイトとミュウは待ち合わせの相手を探していた。
「まったく、時間にルーズな男ですねぇ」
ナイトに話し掛けられても、ミュウは浮かない表情のまま返事をしなかった。
「……もしかして、さっきのことを気にしているのですか?」
とっさに、ミザリィ・ロンドでの戦争孤児の会話を思い出した。
「あっ。ううん、そうじゃないの……」
ミュウは少しだけ寂しそうに、続けた。
「ミュウね、ナイトとメアリたちに出逢う前のこと、よく憶えてないの。
えと、昔のこととか、おとうさんとおかあさんのこととか……」
――記憶喪失?
そんな言葉が不意にナイトの脳裏を過ぎった。
「きっとミュウ、すこしおかしいのかも……」
ミュウの瞳が不安に揺らめく。
「大丈夫ですよ、ミュウ様。
あの頃は幼かったですし、きっとまだ戦争のショックが抜けていないからかもしれません」
ナイトは安心させるようにミュウの肩に手を添えて、優しく微笑む。
するとミュウも微笑み返した。
……何か符に落ちない。
そんな思いを噛み締めて、心の奥底へしまい込んだ……。
「……ねえ、ナイト。 今日が何の日か憶えてる?」
「ハイ、今日はクリスマス・イヴですね。
……あれからもう何年も経つのですね」
「うん、今日はナイトの誕生日。
ナイトがはじめてお家に来た日だよ!」
「……で、俺は荷物持ちなわけかw」
前が見えなくなるほどの大量の箱や紙袋を抱えて、街道を歩きながら文句を漏らす男性。
全身黒で統一した服装にシルクハットを被った紫色の髪の毛、長身でかなりの美形なためやたらと目立っている。
前を歩いていたナイトとミュウが振り返る。
「ワタクシはこの通り、脚が不自由で成りません。
ミュウ様に持たせる訳にはいきませんし、こういう雑用は我が下僕であるメアリ、貴方の仕事なのデス!」
彼の名前は、【メアリード・ハイヴェルダルク・ウォン・ヴァレンシュタインⅠⅣ世】。
居候兼、ふたりの保護者役でもある。
ナイトは意地悪く口元をニヤつかせ、左手に装着している杖をブンブンとメアリに向かって振り回した。
隣りで日傘を差している小さなミュウが、さらに小さく縮こまり体を震わせている。
「おい、俺がいつお前の下僕になった?
ナイトお前、どう見ても実は歩けるだろ!? その杖、絶対必要無いだろ!?」
「NOn!!煙草臭い上に酒くさっ……貴方、また昼間からカジノで遊んでましたね。
……ワタクシ達が汗水流して稼いだ銭をくだらない賭け事に使うなどと、なんて卑劣な……」
「その湿気た金を増やしてやってるのは、何処の誰だと思ってるんだ、あ?」
そんな皮肉なことを言いながらも、メアリは実のところカジノでディーラーとして働いているだけである。
煙草は吸うが、酒はマナーのなっていない客に無理やり飲まされてしまったのだ。
ミュウはささっとナイトの背中にしがみ付いて隠れた。
恐る恐る、ひょっこりと瞳だけを覗かせる。
「メアリ、こわいよぅ……」
男の人の香りと煙草と、知らないお酒の香り。
それは全てミュウにとって未知の世界で、それがとても怖いのだ。
「うっ……」
引きつるメアリ。
それを見てニヤリッとするナイト。
「メアリ、ごめんなさい……」
頬を赤くして、ぷるぷる震えるミュウ。
水晶玉のように丸い大きな瞳から、じんわりと真珠のような涙がこぼれそうになる。
……。
メアリは「はぁ……」とため息をついて、ミュウの頭にポンポンと手を置いた。
「で、後は何を買い物するんだ?」
一瞬だけビクッとして、ミュウは指折りして数えながら言った。
「えと、デコレーションケーキとチキンとビスケットも買ったし、後はお家に帰ってツリーに明かりを付けるの」
「イチゴジャムとストロベリーキャンディーとイチゴミルクティーも大量に買い占めましたし、これでパーティーの準備は万端デスね☆」
お前には聞いていない。
そう思うメアリだったが、嬉しそうにはしゃぐふたりを見守るように歩調を合わせながら、
3人は家路へと続く道を進んで行った――。
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