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軌跡~【メアリ・ロード】~黒兎
第一羽
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……自分が何時この世に生まれたのかなんて、もう憶えていない。
きっとそれほど大昔のことなのだ―――。
「はぁ……。
我ながら情けない姿になったもんだ……」
街角のショーウィンドウに映る自分の姿を、まじまじと見つめながら、俺は途方に暮れていた。
とりあえず、今俺の目の前に映っていることをありのままに話す。
俺は黒っぽい、うさぎのぬいぐるみのような姿をしている。
……もちろん、ふざけているわけでもなく、俺自身が元々うさぎのぬいぐるみ、というわけでもない。
俺の正体は悪魔戦士である。
魔界で暮らしていたのだ。
それが何故こんなことになったのかと言うと、
早い話が、
俺を好きだとかいう、しつこく迫る魔女の誘いを断ったら、呪いをかけられ人間界に堕とされてしまったのだ。
しかも、やっかいなのがこの呪い、【人間の女にキスしてもらわないと解けない】という条件つき……。
って、オイ。
「この姿じゃどう考えても無理だろ……」
本日2回目のため息が毀れる。
それにしても……。
俺はビルとビルの間に身を潜めてから、辺りを見渡した。
今日はハロウィンとかいう人間界のお祭りがあるらしい。
道行く奴らは皆、イカれた格好をしてやがる。
ドラキュラだの、ミイラ男だの、カボチャのお化けだの……。
中には魔女の仮装をした奴もいる。
「うげえぇ……」
正直吐き気がする。
これが噂のコスプレってやつか?
しばらく様子を窺っていると、やたら目を引くゴッチャリとしたフリフリの、いかにも可愛らしい洋服を着た女が歩いてきた。
「なんじゃアレは……」
うさみみ付けて、長いツインテールを揺らしながら、腕には白いうさぎのぬいぐるみを抱えている。
……なんとなくだが、その白いうさぎと目が合った。
……気がした。
そんなことはない。
ただのぬいぐるみだ。
しかも、なんか今の俺の姿と少し似てるしっ!!
めちゃくちゃ嫌な気分だ。
早々にこの場を立ち去ろう。
それがいい、そうしよう。
そう思った矢先……、
急に俺の足元が暗くなった。
「……なんだ?」
俺の体全部を覆うほどの巨大な影だ。
したっしたっ……と背後から迫ってくる足音が聞こえる。
「ニャァ~~ゴォ~~」
その声に、背筋がゾッとして体が凍りついた。
汗が全身をほとばしる。
まさか……。
冗談じゃねぇぞ、オイ。
正体はなんとなく察しが付いた。
恐る恐る振り向くと、
影の主は巨大な、異常にデブった野良猫だった。
ああ……。
やっぱりそうなんかい……。
うれしそうに俺を見てマウントポジションをとる。
どう見ても俺に跳びかかる寸前だッ!!
獲物を見る眼だッ!!
マジで喰われる5秒前ってやつか!?
ていうか俺はネズミか!?
やられる前に逃げろッ!!
俺は無我夢中で走り出した。
……走り出した、のは良かったのだが、
勢い余って、さっきまで俺が眺めていた大通りのほうへ走り込んでしまった。
まずい!
さっきの変な女とうさぎが!
方向を転換しようとした。
……だが、
ごいんっっ!!
……街路樹に激突した。
野良猫の嘲笑う鳴き声が聞こえた気がした。
……ああ。
俺はもう駄目だぁ~~……。
意識が遠退くのを感じた。
きっとそれほど大昔のことなのだ―――。
「はぁ……。
我ながら情けない姿になったもんだ……」
街角のショーウィンドウに映る自分の姿を、まじまじと見つめながら、俺は途方に暮れていた。
とりあえず、今俺の目の前に映っていることをありのままに話す。
俺は黒っぽい、うさぎのぬいぐるみのような姿をしている。
……もちろん、ふざけているわけでもなく、俺自身が元々うさぎのぬいぐるみ、というわけでもない。
俺の正体は悪魔戦士である。
魔界で暮らしていたのだ。
それが何故こんなことになったのかと言うと、
早い話が、
俺を好きだとかいう、しつこく迫る魔女の誘いを断ったら、呪いをかけられ人間界に堕とされてしまったのだ。
しかも、やっかいなのがこの呪い、【人間の女にキスしてもらわないと解けない】という条件つき……。
って、オイ。
「この姿じゃどう考えても無理だろ……」
本日2回目のため息が毀れる。
それにしても……。
俺はビルとビルの間に身を潜めてから、辺りを見渡した。
今日はハロウィンとかいう人間界のお祭りがあるらしい。
道行く奴らは皆、イカれた格好をしてやがる。
ドラキュラだの、ミイラ男だの、カボチャのお化けだの……。
中には魔女の仮装をした奴もいる。
「うげえぇ……」
正直吐き気がする。
これが噂のコスプレってやつか?
しばらく様子を窺っていると、やたら目を引くゴッチャリとしたフリフリの、いかにも可愛らしい洋服を着た女が歩いてきた。
「なんじゃアレは……」
うさみみ付けて、長いツインテールを揺らしながら、腕には白いうさぎのぬいぐるみを抱えている。
……なんとなくだが、その白いうさぎと目が合った。
……気がした。
そんなことはない。
ただのぬいぐるみだ。
しかも、なんか今の俺の姿と少し似てるしっ!!
めちゃくちゃ嫌な気分だ。
早々にこの場を立ち去ろう。
それがいい、そうしよう。
そう思った矢先……、
急に俺の足元が暗くなった。
「……なんだ?」
俺の体全部を覆うほどの巨大な影だ。
したっしたっ……と背後から迫ってくる足音が聞こえる。
「ニャァ~~ゴォ~~」
その声に、背筋がゾッとして体が凍りついた。
汗が全身をほとばしる。
まさか……。
冗談じゃねぇぞ、オイ。
正体はなんとなく察しが付いた。
恐る恐る振り向くと、
影の主は巨大な、異常にデブった野良猫だった。
ああ……。
やっぱりそうなんかい……。
うれしそうに俺を見てマウントポジションをとる。
どう見ても俺に跳びかかる寸前だッ!!
獲物を見る眼だッ!!
マジで喰われる5秒前ってやつか!?
ていうか俺はネズミか!?
やられる前に逃げろッ!!
俺は無我夢中で走り出した。
……走り出した、のは良かったのだが、
勢い余って、さっきまで俺が眺めていた大通りのほうへ走り込んでしまった。
まずい!
さっきの変な女とうさぎが!
方向を転換しようとした。
……だが、
ごいんっっ!!
……街路樹に激突した。
野良猫の嘲笑う鳴き声が聞こえた気がした。
……ああ。
俺はもう駄目だぁ~~……。
意識が遠退くのを感じた。
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