ツミタテ短編集

黒木箱 末宝

文字の大きさ
上 下
3 / 5
■浦我島 港太郎〜灰色の空と緑の海とカラフルな砂浜〜

先の見えない海中

しおりを挟む
 海亀の背に乗って進む海中は──何とも言い難いものでした。

「……緑だな」
「緑……?  ああ、海がですかい?  雨でも降ったのでしょうねぇ」

 海亀の掛けてくれた魔法によって、人の目で見る以上に海を視ることが出来るようになった港太郎。ですが、視界限界の景色や、周囲の光の加減で視界が緑がかっています。

「雨……ああ、確かに」
「ああ、そうでしたな。陸の者にとって海は未知でしたな。どれ、店まではまだかかりますし、海の話でもしましょうか」

 そう言うと、海亀は海について語りはじめた。

「貴方の様子を見る限り、この海の様子は良く見えていないのでしょう。しかし、この緑は……汚れも混じってはいますが、小さき者達の餌でもあるのです」
「……プランクトンか」
「──おお、ご存じでしたか。そうですか、地上ではそう呼ぶのですねぇ」

 海亀は語りました。
 海は小さき者達によって成り立っていると。植物性プランクトンに始まり、動物性プランクトン、それらがより大きな者に食われ、その存在を更に大きな存在が食らう。
 そして、その植物性プランクトンや、その食事となる栄養素は陸より流れ出ると。

「つまり、陸無くして海は無く、海無くして陸は無いと言うことです」
「……ああ、地上──陸でもそう教わっているよ」
「ホホッ!  それは良いですな。賢者達も報われるでしょう」
「賢者?  それは──」
「おや、ちょいと失礼を」

 海亀の言葉に何かを言おうとしたその時でした。海中を漂う白い浮遊物に向かって進路を変えた海亀は、それを吸い込もうと口を開け──

「まった!」
「おっと、どうされたので?」
「それはクラゲじゃない。ビニール袋だ」
「ええ?  ……おや、危ないところでしたな……ツマリクラゲとは……」

 それを寸でのところで港太郎が止めました。

「いやはや、まいりましたなぁ。私も危うく友と同じ死に様を晒す所でした」
「……友?」
「ええ、私の知る中で一番大きく、一番食い意地の張った奴でした」
「……」

 海亀は過去を思い出す様にして語りました。
 村一番の大食漢で、村一番の大きさを誇る鮫にも負けない親友は、ある日を境に苦しみ続けて死んでしまったと。

「それで、掃除屋に頼んで友の腹を調べてもらったんです。そしたら──」
「……これが、腹に詰まってたんだな……」
「ええ、それはもう腹一杯に。いくらなんでも食い過ぎだと笑っちまいました」
「……その、すまんな……」

 冗談めかして言う、少し沈んだ様子の海亀に、湧いてきた罪悪感から港太郎は謝罪の言葉を吐きました。

「……これ等全てが、貴方のしでかした事なんですかい……?」

 港太郎の肌を悪寒が走りました。見ると、海亀は少し苛立ちを隠せない様子で港太郎に目を向けています。
 その目と目が合った港太郎は、思わず保身の言葉を喋りました。しかし、その内容に嘘はありませんでした。

「っ、いや……俺が覚えている限りでは、ゴミを海や川に捨てたことはない……はずだ……」
「……なら、その謝罪は不要ですよ。気持ちは受け取っておきますがね」
「……少し、ゴミを拾って行きたくなったな……」
「おお、それは良い。では、その箱に詰めて行きますかな?」
「ああ、それで」

 そう港太郎が答えると、海亀が魔法を使い、道すがら周囲のゴミを集め、港太郎の持つクーラーボックスへと詰めて行きました。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜

黒木箱 末宝
ファンタジー
これは、はみ出し者の物語。 現代の地球のとある県のある市に、社会に適合できず、その力と才能を腐らせた男が居た。 彼の名は山城 大器(やましろ たいき)。 今年でニート四年目の、見てくれだけは立派な二七歳の男である。 そんな社会からはみ出た大器が、現代に突如出現した上位存在の侵略施設である迷宮回廊──ダンジョンで自身の存在意義を見出だし、荒ぶり、溺れて染まるまでの物語。 【ハーメル】にも投稿しています。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

一人用声劇台本

ふゎ
恋愛
一人用声劇台本です。 男性向け女性用シチュエーションです。 私自身声の仕事をしており、 自分の好きな台本を書いてみようという気持ちで書いたものなので自己満のものになります。 ご使用したい方がいましたらお気軽にどうぞ

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...