ツミタテ短編集

黒木箱 末宝

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■浦我島 港太郎〜灰色の空と緑の海とカラフルな砂浜〜

灰黒い海

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「むかしむかしあるところに……なんてな……」

 釣竿を手に海岸を歩く男が、童話の始まりを自嘲的に呟きました。

 男の名は、浦我島うらがしま 港太郎こうたろう。日本童話に名を連ねる、かの釣りびとに似た名前をもつ存在です。

 両親は既に亡くなっており、親友とは勤務地の違いから疎遠。白髪の増えた隈の消えない草臥れた顔の港太郎は、幼少期から弄られ続けてきた大嫌いな名前に、人生で何度目かもわからない舌打ちをしました。

「にしても、相変わらず汚ねぇなぁこの海岸は……」

 溜め息を吐き、港太郎は海岸の汚さに辟易へきえきしています。しかし、港太郎はそのゴミを自分で片付けようと考えることは一度としてありませんでした。

「……貝殻、吸殻、空き缶、ビニール袋。ルアー、魚や蟹の死骸……外国産のペットボトル……」

 足元のゴミを踏まないよう避け、時に足で転がして物の確認をしながら、港とは灰色の空と黒緑の海を眺めながら、お気に入りの釣りスポットまで歩いて行きます。

 港太郎は、自分以外の一人っ子一人居ない海岸に、何処か不気味な雰囲気を感じていました。

「まあ、こんな時のほうが面白いのが釣れるんだよな……」

 そう独り言を呟いて、前は空き缶を釣ったんだと思いだし笑いする港太郎。

 そのまま目的地へと歩いていると、何やら大きなゴミが流れ着いているのを見付けました。

「ん、海亀の甲羅か?」

 思わぬイベントに、早歩きで向かう港太郎。
 しかし、それはゴミでも、甲羅だけ死骸でもありませんでした。

「……海亀だ……」

 それは、大きな海亀。
 海亀はヒレに釣糸が絡まっており、身動きが取れないようです。

「……はぁ……しょうがないな……」

 港太郎は周囲を見回し、自分以外の誰かを探します。しかし、この海岸には港太郎しか見当たりませんでした。
 致し方なく、港太郎は海亀のヒレに絡まっている釣糸を切り取ってあげることにしました。

「……糸がクソ多いな……針まで刺さってやがる……クソッたれめ……」

 マナー違反に対する怒りか、それともトラブルを持ってきた海亀に対する怒りか。港太郎は文句を吐きながら、海亀に刺さる釣り針を抜き、糸を全て切り取ってあげました。

「……よし、もうないな……ほら、もう大丈夫だから、海に帰りな」

 海亀に付いていた全ての釣り針と釣糸を取った港太郎。
 海亀に海に帰るよう言うと、置いていた釣竿とクーラーボックスを手に取り、膝に付いた砂を払いながら立ち上がると、本来の目的地に向かって足を進めようとしました。

「……へへへっ、いやぁ世話に成りましたなぁ」

 そんな港太郎に、しわがれた声の何かが話しかけてきました。

「ッ!?  ……お前か?」

 港太郎が声の聞こえた方向を向くと、そこには此方を見て微笑んでいる海亀がいました。

「ええ、助けていただき感謝しますよ、お若いの」
「お若いの……そんな歳でもないさ……」
「へへぇ~、そんなもんですかい?」

 海亀は飄々ひょうひょうとした態度で言いました。

「さて、助けていただいたなら礼をしなければ執政の役が泣きますな。どうでしょう、良い店を知ってるんです。一緒にいかがです?」

 海亀の言葉に、港は呆れた様に失笑を漏らすと、その御礼を受け取ることにしました。

「……ハハッまんまじゃねぇか。有り難く受け取るぜ」
「へへへ、それでは早速行きましょう。■■■■」

 海亀が不思議な言葉おとを出すと、港太郎の身体がうっすらと青く光はじめました。

「なっ!?  何だこれは!?」
「おや?  地上では珍しかったですかい?  魔法ですよ
「ま、魔法……」

 港太郎がおうむ返しに言うと、海亀はゆっくりと姿勢を海に向けながら、困惑する港太郎に魔法の説明をしました。

「ええ、魔法。今掛け魔法は……え~まあ、水の中でも地上と同じ感じにいられるやつです」
「…………成る程?」
「御理解いただけましたな。では、私の背に乗ってください。行きますよ」
「あ、ああ……」

 こうして、港太郎は助けた海亀の背に乗って、海の中へと入っていきました。
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