蒼白のリヴァイアサン

黒木箱 末宝

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鯨かくれんぼ

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「……ふぅ……あ、アイツは──ヴォズマーは何処に……?」
「──任務……帰投……?」
「ッ……大丈夫、大丈夫だから……」

 子鯨の口の中にかくまわれた流児は、ヴォズマーの視線が外れたからか落ち着きを取り戻した。
 そして流児は、同じく恐怖から何かを呟き身を凍らせているであろうシエラを抱き締め、安心させるように──自身も安心するために──その背を何度もポンポンと優しく叩く。

「──最優先事項を更新」
「よし、落ち着いた?」
「──はい、ありがとうございます」
「大丈夫そうだね。……アイツは、まだいるのか?」

 マッコウクジラの髭の隙間から外を覗けば、此方を探すためギョロギョロ動くヴォズマーの目と目が合ったた。

「っ……まだ探してるのか……いったい何を探してるん──」

 ヴォズマーの行動によって浮かび上がった疑問を考えようとした、その時だった。

「■■■■ーーーー~~~~!!!」
  
 身の毛がよだつ、悍ましい雄叫びが轟いたのだ。

「ッ~~~~!!!?」

 船の汽笛とも鯨の悲鳴とも付かない、海の引き裂かれるような雄叫び。

 鯨達が怯んだその瞬間に、ヴォズマーが腕の様な器官を伸ばし、鯨達の守りを抉じ開けようとする。

 それに対抗するかのように、鯨達も威嚇の声を上げ、ヴォズマーに体当りしたり噛みついたりする。
 しかし効果がないようで、その抵抗は虚しく終わる。

 マッコウクジラの口の中、流児はシエラを抱き締め、ヴォズマーが何処かへ行く事を祈りながら震える。

 しかし、その祈りは届かない。

「■■■■ーーーー!!!」

 ヴォズマーによって、鯨達が一匹、また一匹と殴られ引っ掻かれて離れて行く。

 流児達を匿う子鯨へとヴォズマーの手が伸びた。その時だった。

「カチカチカチ」
「■■ー?  ────!?!?」

 マッコウクジラからクリック音が放たれる。それにヴォズマーが気を取られた一瞬の隙に子鯨が離れた。その直後、マッコウクジラの超音波ビームがヴォズマーの脳を貫いた。

「────■■■■…………!」

 しかし、既で直撃を避けたのかヴォズマーは即座に意識を取り戻す。だがその間に、流児達はヴォズマーから距離を取ることが出来た。

「■■■■ーーーー!!!」

 攻撃を受けても尚、ヴォズマーは流児達を探そうと鯨達を睨み付け吠えている。このままでは逃げられない。

(どうしよう……いや、やるしかないッ!)

 覚悟を決めた流児は、今ある情報をまとめる。鯨達の泳ぐ速度。鯨達の外敵や捕食時の行動。その生態。
 そして、ヴォズマーへの対抗手段を考えている時、流児の頭にある考えが浮かんだ。

(クリック音が聞こえた後の一瞬だけど、ヴォズマーの鳴き声が不自然に止まった。つまり、ヴォズマーに超音波ビームが有効!)

 とは言え、ヴォズマーも一撃を食らって警戒しているだろう。そう安易に当たってはくれないだろう。
 考えが詰まったので、流児は自身の考えをシエラとガザミに小声で伝える。するとシエラは暫しの思考の後、流児の考えに修正案を出した。



「……!」

 子鯨の頭に乗ったガザミが、鯨達に指示を出す。鯨達は指示に従い、ヴォズマーへの妨害を始めた。ザトウクジラはヴォズマーに体当たりをして、マッコウクジラはヴォズマーへと噛み付いたのだ。

「■■■■ッ!?」

 突然の自身への攻撃にヴォズマーは驚いている。しかし直ぐに冷静さを取り戻し、マッコウクジラを殴り飛ばし、ザトウクジラを跳ね除ける。
 攻撃は対して通用していない。だが本来の狙いは別にある。ヴォズマーは自身を狙い周囲を泳ぐ鯨達に気を取られ、自身の真下へと泳ぐザトウクジラ達を見過ごしてしまった。

「■■■■ッ~~~~!?」

 自身を盛大に邪魔した前兆である泡粒の壁に包まれたヴォズマーは、二度とやられまいと真下を警戒する。その隙を、流児達は待っていたのだ。

「「「カチカチカチ!」」」
「■■ッ!?」

 泡粒の壁の向こう側。マッコウクジラ達がヴォズマーに向けて超音波ビームを放つ。

「■──────…………」

 三方向から同時に放たれた超音波は、ヴォズマーの体内でぶつかり合う。その衝撃に穿うがたれて、ヴォズマーは海底へと沈んでいった。
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