28 / 48
所有者証明
しおりを挟む
一人と一匹との別れが惜しくなった流児は、端末を取り出してツーショットを求めた。
「──本登録の撮影要請を確認。了解しました」
「……!!」
シエラはそれを了承。ガザミはノリノリだ。
「……じゃあ──っ、はい撮るよー」
端末を起動した時に現れる、過去の憧れとのツーショット。
それを見て一瞬、顔をしかめる流児だったが、時間が勿体無いと切り捨ててカメラアプリを起動する。
「──ポーズはこれで構いませんか?」
「V!!V」
画面に収まるよう、肩を寄せ合う流児とシエラ。
その二人の重ねられた掌にガザミが乗り、端末に向けてポーズを取る。
「はい、チーズ」
そして、撮影ボタンに触れて写真を撮る。
流児は二人と一匹との写真を待ち受けに設定すると、それを二人に見せる。
「……よし、よく撮れてる。ほら」
「──所有者の登録証明を確認」
「……!」
すると、シエラは端末を手に取り写真をよく見て固まってしまった。
しかし、流児は別れの悲しみを思い出して俯いているため、シエラの様子に気付かなかった。
「──登録を完了しました。続いて音声登録をお願いします」
「……それじゃあ、今までありがと──あれ、シエラ……目が……」
「……?」
顔を上げた流児を、マリンブルーの瞳が見詰めている。
その瞳の持ち主はシエラだった。
シエラは、今までの何処か他人行儀だった微笑みから、身内に向ける様な柔らかな微笑みを浮かべていた。
「その目……」
シエラに向けて手を伸ばした──その時だった。
非常通路へと続く、ひと一人分だけ開いた巨大な扉──その両扉が、轟音を立てて開いたのだ。
「っ! なんだ!?」
「──!」
「……!?」
「■■■■……」
薄暗い非常通路に浮かぶ、怖気の走る不気味な影。
船と汽笛の様な、低く轟く音に、鯨の歌のような、繊細な響きの混じる声らしき音。
そして、暗闇に浮かぶ三対六つの満月の様な瞳。
異形の存在──ヴォズマーが、終に流児達に追い付いたのだ。
「ッ逃げろ!」
気が付くと、流児はシエラを庇うように前に立っていた。
(何で俺はこいつに立ち向かってるんだ!? 勝てるわけないのにッ!)
シエラを庇いながら、ヴォズマーを睨み付け牙を剥く。
「──■■■■ーーーー!」
それが気に食わなかったのか、ヴォズマーは流児を睨み付け、咆哮を放つ。
「ガアッ!?」
音の波が衝撃と成って流児を襲う。
身を裂くような衝撃に飛ばされて壁に叩き付けられる。
「──流児!」
流児に駆け寄ろうとするシエラだったが、それを遮るように伸びたヴォズマーの手によって捕らわれてしまう。
「……シエラを……離せッ……!」
傷付き震える体で立ち上がり、ヴォズマーに吠える流児。
しかしそれも虚しく、シエラはヴォズマーに飲み込まれてしまった。
『──保護対象に損害が発生……流児……!』
異形の存在の喉袋の中、シエラが助けを求めるように手を伸ばしている。
目的を達成したのか、ヴォズマーは扉から出ていった。
それを、流児は呆然と見送ることしか出来なかった。
異形の存在が──ヴォズマーがシエラを拐って離れて行く。
「は、ははは──ハハハハハハッ……うああああ~~ッ!!!」
異形の存在であるヴォズマーへの恐怖。
それが居なくなった安心感と、自身の無力感。
そしてシエラとの別れの悲しみにより、流児の心が乱れ狂う。
(怖かった。良かった。哀しい。虚しい。──寂しい。別れたくない……でも、ここはヴォズマーの所有物で、あの娘はアイツの持ち物で……だから、仕方無い……仕方無いんだッ!!)
膝をつき、側に落ちていた端末を手に取る。
その端末は、さっきまでシエラが持っていた物だ。
それを思いだし、流児は悔しさに端末を握り締めた。すると、指が偶然にも起動ボタンが押し、スリープモードが解除される。
そして端末に点った光が、俯く流児の顔を照らし出した。
「……これ……さっきの……」
端末の待ち受け画面には、先程シエラやガザミ達と撮った写真が表示されていた。
ハサミを向けてダブルピースをするガザミに、カメラ目線のシエラと、シエラの肩を抱く照れ顔の自分。
それを見た流児の頭の中で、これまでの思い出が駆け巡った。
「ッ……これでお別れなんてイヤだッ……! シエラを……助け出すッ!」
覚悟を決めた流児はシエラを助け出すため、ヴォズマーを追い掛けた。
「──本登録の撮影要請を確認。了解しました」
「……!!」
シエラはそれを了承。ガザミはノリノリだ。
「……じゃあ──っ、はい撮るよー」
端末を起動した時に現れる、過去の憧れとのツーショット。
それを見て一瞬、顔をしかめる流児だったが、時間が勿体無いと切り捨ててカメラアプリを起動する。
「──ポーズはこれで構いませんか?」
「V!!V」
画面に収まるよう、肩を寄せ合う流児とシエラ。
その二人の重ねられた掌にガザミが乗り、端末に向けてポーズを取る。
「はい、チーズ」
そして、撮影ボタンに触れて写真を撮る。
流児は二人と一匹との写真を待ち受けに設定すると、それを二人に見せる。
「……よし、よく撮れてる。ほら」
「──所有者の登録証明を確認」
「……!」
すると、シエラは端末を手に取り写真をよく見て固まってしまった。
しかし、流児は別れの悲しみを思い出して俯いているため、シエラの様子に気付かなかった。
「──登録を完了しました。続いて音声登録をお願いします」
「……それじゃあ、今までありがと──あれ、シエラ……目が……」
「……?」
顔を上げた流児を、マリンブルーの瞳が見詰めている。
その瞳の持ち主はシエラだった。
シエラは、今までの何処か他人行儀だった微笑みから、身内に向ける様な柔らかな微笑みを浮かべていた。
「その目……」
シエラに向けて手を伸ばした──その時だった。
非常通路へと続く、ひと一人分だけ開いた巨大な扉──その両扉が、轟音を立てて開いたのだ。
「っ! なんだ!?」
「──!」
「……!?」
「■■■■……」
薄暗い非常通路に浮かぶ、怖気の走る不気味な影。
船と汽笛の様な、低く轟く音に、鯨の歌のような、繊細な響きの混じる声らしき音。
そして、暗闇に浮かぶ三対六つの満月の様な瞳。
異形の存在──ヴォズマーが、終に流児達に追い付いたのだ。
「ッ逃げろ!」
気が付くと、流児はシエラを庇うように前に立っていた。
(何で俺はこいつに立ち向かってるんだ!? 勝てるわけないのにッ!)
シエラを庇いながら、ヴォズマーを睨み付け牙を剥く。
「──■■■■ーーーー!」
それが気に食わなかったのか、ヴォズマーは流児を睨み付け、咆哮を放つ。
「ガアッ!?」
音の波が衝撃と成って流児を襲う。
身を裂くような衝撃に飛ばされて壁に叩き付けられる。
「──流児!」
流児に駆け寄ろうとするシエラだったが、それを遮るように伸びたヴォズマーの手によって捕らわれてしまう。
「……シエラを……離せッ……!」
傷付き震える体で立ち上がり、ヴォズマーに吠える流児。
しかしそれも虚しく、シエラはヴォズマーに飲み込まれてしまった。
『──保護対象に損害が発生……流児……!』
異形の存在の喉袋の中、シエラが助けを求めるように手を伸ばしている。
目的を達成したのか、ヴォズマーは扉から出ていった。
それを、流児は呆然と見送ることしか出来なかった。
異形の存在が──ヴォズマーがシエラを拐って離れて行く。
「は、ははは──ハハハハハハッ……うああああ~~ッ!!!」
異形の存在であるヴォズマーへの恐怖。
それが居なくなった安心感と、自身の無力感。
そしてシエラとの別れの悲しみにより、流児の心が乱れ狂う。
(怖かった。良かった。哀しい。虚しい。──寂しい。別れたくない……でも、ここはヴォズマーの所有物で、あの娘はアイツの持ち物で……だから、仕方無い……仕方無いんだッ!!)
膝をつき、側に落ちていた端末を手に取る。
その端末は、さっきまでシエラが持っていた物だ。
それを思いだし、流児は悔しさに端末を握り締めた。すると、指が偶然にも起動ボタンが押し、スリープモードが解除される。
そして端末に点った光が、俯く流児の顔を照らし出した。
「……これ……さっきの……」
端末の待ち受け画面には、先程シエラやガザミ達と撮った写真が表示されていた。
ハサミを向けてダブルピースをするガザミに、カメラ目線のシエラと、シエラの肩を抱く照れ顔の自分。
それを見た流児の頭の中で、これまでの思い出が駆け巡った。
「ッ……これでお別れなんてイヤだッ……! シエラを……助け出すッ!」
覚悟を決めた流児はシエラを助け出すため、ヴォズマーを追い掛けた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜
柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。
ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。
「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」
これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。
時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。
遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。
〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる