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所有者証明

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 一人と一匹との別れが惜しくなった流児は、端末を取り出してツーショットを求めた。  

「──本登録の撮影要請を確認。了解しました」
「……!!」
   
 シエラはそれを了承。ガザミはノリノリだ。

「……じゃあ──っ、はい撮るよー」

 端末を起動した時に現れる、過去の憧れとのツーショット。
 それを見て一瞬、顔をしかめる流児だったが、時間が勿体無いと切り捨ててカメラアプリを起動する。

「──ポーズはこれで構いませんか?」
「V!!V」

 画面に収まるよう、肩を寄せ合う流児とシエラ。
 その二人の重ねられた掌にガザミが乗り、端末に向けてポーズを取る。

「はい、チーズ」

 そして、撮影ボタンに触れて写真を撮る。  
 流児は二人と一匹との写真を待ち受けに設定すると、それを二人に見せる。

「……よし、よく撮れてる。ほら」
「──所有者の登録証明を確認」
「……!」

 すると、シエラは端末を手に取り写真をよく見て固まってしまった。
 しかし、流児は別れの悲しみを思い出して俯いているため、シエラの様子に気付かなかった。

「──登録を完了しました。続いて音声登録をお願いします」
「……それじゃあ、今までありがと──あれ、シエラ……目が……」
「……?」

 顔を上げた流児を、マリンブルーの瞳が見詰めている。

 その瞳の持ち主はシエラだった。

 シエラは、今までの何処か他人行儀だった微笑みから、身内に向ける様な柔らかな微笑みを浮かべていた。

「その目……」

 シエラに向けて手を伸ばした──その時だった。

 非常通路へと続く、ひと一人分だけ開いた巨大な扉──その両扉が、轟音を立てて開いたのだ。

「っ!  なんだ!?」
「──!」
「……!?」

「■■■■……」

 薄暗い非常通路に浮かぶ、怖気の走る不気味な影。
 船と汽笛の様な、低く轟く音に、鯨の歌のような、繊細な響きの混じる声らしき音。
 そして、暗闇に浮かぶ三対六つの満月の様な瞳。

 異形の存在──ヴォズマーが、終に流児達に追い付いたのだ。

「ッ逃げろ!」

 気が付くと、流児はシエラを庇うように前に立っていた。

(何で俺はこいつに立ち向かってるんだ!?  勝てるわけないのにッ!)

 シエラを庇いながら、ヴォズマーを睨み付け牙を剥く。

「──■■■■ーーーー!」

 それが気に食わなかったのか、ヴォズマーは流児を睨み付け、咆哮を放つ。

「ガアッ!?」

 音の波が衝撃と成って流児を襲う。
 身を裂くような衝撃に飛ばされて壁に叩き付けられる。

「──流児!」

 流児に駆け寄ろうとするシエラだったが、それを遮るように伸びたヴォズマーの手によって捕らわれてしまう。

「……シエラを……離せッ……!」

 傷付き震える体で立ち上がり、ヴォズマーに吠える流児。
 しかしそれも虚しく、シエラはヴォズマーに飲み込まれてしまった。

『──保護対象に損害が発生……流児……!』

 異形の存在の喉袋の中、シエラが助けを求めるように手を伸ばしている。
 目的を達成したのか、ヴォズマーは扉から出ていった。
 それを、流児は呆然と見送ることしか出来なかった。



 異形の存在が──ヴォズマーがシエラを拐って離れて行く。

「は、ははは──ハハハハハハッ……うああああ~~ッ!!!」

 異形の存在であるヴォズマーへの恐怖。
 それが居なくなった安心感と、自身の無力感。
 そしてシエラとの別れの悲しみにより、流児の心が乱れ狂う。

(怖かった。良かった。哀しい。虚しい。──寂しい。別れたくない……でも、ここはヴォズマーアイツの所有物で、あの娘シエラはアイツの持ち物で……だから、仕方無い……仕方無いんだッ!!)

 膝をつき、側に落ちていた端末を手に取る。
 その端末は、さっきまでシエラが持っていた物だ。
 それを思いだし、流児は悔しさに端末を握り締めた。すると、指が偶然にも起動ボタンが押し、スリープモードが解除される。
 そして端末に点った光が、俯く流児の顔を照らし出した。

「……これ……さっきの……」

 端末の待ち受け画面には、先程シエラやガザミ達と撮った写真が表示されていた。

 ハサミを向けてダブルピースをするガザミに、カメラ目線のシエラと、シエラの肩を抱く照れ顔の自分。

 それを見た流児の頭の中で、これまでの思い出が駆け巡った。

「ッ……これでお別れなんてイヤだッ……!  シエラを……助け出すッ!」

 覚悟を決めた流児はシエラを助け出すため、ヴォズマーを追い掛けた。
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