26 / 48
海龍教会
しおりを挟む
門は開かれた。
人の通れる幅どころか、全開に開いた巨大な門。
それに合わせたかのように、流児の体に力を与えていた蒼い光が収まっていく。
乱れる息を落ち着けるため、流児は休憩を兼ねて門の先を観察することにした。
「はぁ……はぁ……ここは、教会?」
門の先は、静粛な雰囲気の漂う教会の様な施設だった。
高く広い、不思議な白い石材を組み上げて造られた様な円状の部屋には、中央の通路らしき箇所を除き、均等に青色の螺旋を画く巨大な台座が並んでいる。
施設の場所から察するに、あれがヴォズマー達の種族が使う椅子の様な物なのだろう。
その奥は段々と高くなっており、壁際には海龍を象った純白の石像が鎮座しており、その後ろには、天井まである巨大なステンドグラスが輝いている。
ステンドグラスには、太陽光に照らされた白い体に蒼い鰭を持つ海龍が、海面に向かって魚達と泳ぐ姿が画かれている。
「綺麗だ……あれ、シエラ? ガザミ?」
ステンドグラスを良く見ようと先へと進もうとした流児だったが、ふと隣にシエラ達が居ないなことに気付く。
探すと、門の外に設置された棚らしき場所で、ガザミを抱えた状態でシエラが座っていた。
「どうかしたの?」
「──待機しています」
「……」
「……もしかして、一緒に行けないの?」
「──はい。どうぞ、気を付けて」
一緒に行こうと手を伸ばすも、シエラは首を横に振り、ガザミもハサミを交差して✕印を掲げている。
どうしようかと悩んでいると、シエラは門の中を指差して流児へ先へと進むよう促してくる。
「……うーん……」
シエラの指差した先を見ると、海の花──ティア・マリアのあった海で見た非常口へ導く明かりが、部屋の奥、その隅に見えた。
「……もしかして、この中に一緒に入れない?」
「──はい」
「……」
「……そうか、うーん……」
「──方法はあります」
流児がそう聞くと、シエラは暫し何かを考えて“致し方なし”といた様子で立ち上がった。
「行けるのか? よかった、ありがとう」
「……!」
「ああ、お前もありがとう」
流児は自身の我が儘のため、何かしらの無理を通してくれたシエラとガザミに礼を言う。
そして、慣れたようにシエラと手を繋ぎ、ガザミを頭に乗せて泳ぎだす。
「──待ってください」
「どうしたの?」
「──必ず、あの光の元まで進んで下さい」
門を越える出前で、シエラが流児を引っ張って止める。
何かあったかと流児が問えば、シエラは仕切りに非常口の明かりを指差して念押しする。
「……分かった、あの光まで行けば良いんだね?」
「──はい」
同じ様に非常口の黄色い明かりを指差せば、シエラは何時ものように微笑みを浮かべて頷いた。
見慣れた微笑みに安心していると、シエラが流児の後ろに回り込み、その背に乗ってきたのだ。
「──え、なにをっ!?」
「──このまま進んで下さい」
「……わかった」
鼻腔を擽る爽やかな甘い香り、背中に伝わる柔らかさ。
驚きシエラを見ると、真剣な眼差しで先を指差している。
流児はその目に何かあると感じ、シエラを背負い直すと、ゆっくりと泳ぎだした。
「──持ち込み禁止区域。強制スリープモード……」
「……」
「え、どうし──うわっ!?」
そして門を潜ったその瞬間、背中のシエラと頭上のガザミが、まるで電源の切れたロボットの様に、その全体重を流児にかけた。
思わず床まで沈む流児。
着底すると、無事を確認するためにシエラとガザミを下ろす。
「どうしたシエラ、ガザミ! ……寝てるのか?」
見ると、シエラの胸は呼吸の度に上下しており、ガザミも口元が少し動いたりしている。
どうやら一人と一匹は眠っているだけの様子。
「……やっぱり、そうなのか……」
シエラが念を押した理由を理解した。
この一人と一匹は──この二機は、自分のために、その身を無防備に晒し、次に起動できるかも分からない状況に身を挺する程に頑張ってくれているということを。
流児はシエラを背負い直し、ガザミを片手で抱えると、非常口に向かってゆっくりと泳ぎ始めた。
その様子を、海龍を模した石像が静かに見つめていた。
人の通れる幅どころか、全開に開いた巨大な門。
それに合わせたかのように、流児の体に力を与えていた蒼い光が収まっていく。
乱れる息を落ち着けるため、流児は休憩を兼ねて門の先を観察することにした。
「はぁ……はぁ……ここは、教会?」
門の先は、静粛な雰囲気の漂う教会の様な施設だった。
高く広い、不思議な白い石材を組み上げて造られた様な円状の部屋には、中央の通路らしき箇所を除き、均等に青色の螺旋を画く巨大な台座が並んでいる。
施設の場所から察するに、あれがヴォズマー達の種族が使う椅子の様な物なのだろう。
その奥は段々と高くなっており、壁際には海龍を象った純白の石像が鎮座しており、その後ろには、天井まである巨大なステンドグラスが輝いている。
ステンドグラスには、太陽光に照らされた白い体に蒼い鰭を持つ海龍が、海面に向かって魚達と泳ぐ姿が画かれている。
「綺麗だ……あれ、シエラ? ガザミ?」
ステンドグラスを良く見ようと先へと進もうとした流児だったが、ふと隣にシエラ達が居ないなことに気付く。
探すと、門の外に設置された棚らしき場所で、ガザミを抱えた状態でシエラが座っていた。
「どうかしたの?」
「──待機しています」
「……」
「……もしかして、一緒に行けないの?」
「──はい。どうぞ、気を付けて」
一緒に行こうと手を伸ばすも、シエラは首を横に振り、ガザミもハサミを交差して✕印を掲げている。
どうしようかと悩んでいると、シエラは門の中を指差して流児へ先へと進むよう促してくる。
「……うーん……」
シエラの指差した先を見ると、海の花──ティア・マリアのあった海で見た非常口へ導く明かりが、部屋の奥、その隅に見えた。
「……もしかして、この中に一緒に入れない?」
「──はい」
「……」
「……そうか、うーん……」
「──方法はあります」
流児がそう聞くと、シエラは暫し何かを考えて“致し方なし”といた様子で立ち上がった。
「行けるのか? よかった、ありがとう」
「……!」
「ああ、お前もありがとう」
流児は自身の我が儘のため、何かしらの無理を通してくれたシエラとガザミに礼を言う。
そして、慣れたようにシエラと手を繋ぎ、ガザミを頭に乗せて泳ぎだす。
「──待ってください」
「どうしたの?」
「──必ず、あの光の元まで進んで下さい」
門を越える出前で、シエラが流児を引っ張って止める。
何かあったかと流児が問えば、シエラは仕切りに非常口の明かりを指差して念押しする。
「……分かった、あの光まで行けば良いんだね?」
「──はい」
同じ様に非常口の黄色い明かりを指差せば、シエラは何時ものように微笑みを浮かべて頷いた。
見慣れた微笑みに安心していると、シエラが流児の後ろに回り込み、その背に乗ってきたのだ。
「──え、なにをっ!?」
「──このまま進んで下さい」
「……わかった」
鼻腔を擽る爽やかな甘い香り、背中に伝わる柔らかさ。
驚きシエラを見ると、真剣な眼差しで先を指差している。
流児はその目に何かあると感じ、シエラを背負い直すと、ゆっくりと泳ぎだした。
「──持ち込み禁止区域。強制スリープモード……」
「……」
「え、どうし──うわっ!?」
そして門を潜ったその瞬間、背中のシエラと頭上のガザミが、まるで電源の切れたロボットの様に、その全体重を流児にかけた。
思わず床まで沈む流児。
着底すると、無事を確認するためにシエラとガザミを下ろす。
「どうしたシエラ、ガザミ! ……寝てるのか?」
見ると、シエラの胸は呼吸の度に上下しており、ガザミも口元が少し動いたりしている。
どうやら一人と一匹は眠っているだけの様子。
「……やっぱり、そうなのか……」
シエラが念を押した理由を理解した。
この一人と一匹は──この二機は、自分のために、その身を無防備に晒し、次に起動できるかも分からない状況に身を挺する程に頑張ってくれているということを。
流児はシエラを背負い直し、ガザミを片手で抱えると、非常口に向かってゆっくりと泳ぎ始めた。
その様子を、海龍を模した石像が静かに見つめていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜
柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。
ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。
「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」
これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。
時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。
遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。
〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる