24 / 48
関門
しおりを挟む
施設に着くと、シエラが扉らしき場所に向かって光の粒子を流し込む。
すると、施設の光が一層強く点滅し、大きな門が不気味なほど静かに開いた。
「──行きましょう」
「……!」
「……あ、ああ。行こう」
まるで自身を誘う罠の様な深く暗い門の先。恐怖心を喉をならして飲み込むと、シエラとより強く手を繋ぎ、中へと進む。
二人と一匹が門を越えると、出入口が静かに閉まる。
そして通路や壁そのものが光り、一様に周囲を照らし出だした。
大人のクジラが余裕を持ってすれ違える程に広い、隙間の見えない、磨き上げられた白い石の様な素材で組み上げられた通路。
その通路の両側面には、厳格な雰囲気の漂う壁画が描かれていた。
「……壁画か。上でみたやつとは違う……」
「──妨害意思の接近を確認。迷子案内を最優先、急ぎます」
「……!?」
「え、あっちょっと!?」
照らし出された壁画を見ようとするも、シエラが手を引っ張る所為でゆっくりと見ることができない。
ずり落ちたガザミを押さえながら、仕方ないので流児は泳ぎながら壁画を見ることにした。
とは言え、壁に画かれているのは異形の存在と、その下ある爪跡と波紋を組み合わせて文字らしきもの。
それと、何かの出来事のあらましだろう。物語を思わせる壁画が、進む順番に画かれている。
ヴォズマーに似た異形達が戦争をしている様子。そこに白い鰭のある龍──海龍が次元の間らしき渦から現れ、全てを薙ぎ倒して争いを平定した様子。
海龍を畏れ奉る様子。帰郷の念を語る様に、青い星を思い浮かべる海龍の様子。
そんな海龍が故郷に帰れるよう願う異形達が画かれた様子。
(……よく分からん……)
そうして壁画を流し見していると、流児の目に見過ごせない壁画が入ってきた。
それは、少女と少年が目を瞑り、異形の存在に飲み込まれる様子を描いた壁画だった。
他にも少女や少年、魚や何かの道具を指し示す画に、大きく爪跡が交差するように画かれている、どこか咎める様な意思を感じる壁画だ。
「これは……ねぇ、あれ……シエラ達は大丈夫なの?」
「……」
震える指でそれを差し、シエラに問う。
すると、ガザミもその壁画を見て大人しくなってしまった。
「──問題はありません」
そうして返ってきたのは、今までで一度も見たこともない、シエラの悲しそうな苦笑だった。
流児達は壁画に付いて深く考えている。
もし、あの咎める様な壁画が意味する内容が、シエラや自身に害をもたらすようなものだった場合、自身はどうするべきか。
(いや、もう答えは決まってる。護るんだ、シエラを!)
覚悟を決め、シエラと繋がれていない方の拳を握る。
すると周囲の雰囲気が変わっていることに漸く気づいた流児。
シエラが静かに、目的地を指し示していた。
「あれは……」
それは、荘厳な雰囲気の漂う、何かの紋章が画かれた白い門だった。
門の上にある、鰭のある龍──海龍の彫刻があり、目に嵌め込まれた、静かな輝きを放つ蒼い宝石の瞳が、流児の覚悟を問うように見下ろしてくる。
流児は拳を握り締め、静かに呟く。
「……出来てるよ、覚悟」
シエラはそんな流児を静かに見つめていた。
これまでのように、光を出して門を開けようとしないシエラ。
「……どうしたの?」
「──案内はここまでです。出口はその門の先にあります。扉を開いて進んでください」
流児が問うと、シエラは門に取り付けられた紋章と一体化している大きな取っ手を指差して言った。
「……わかった」
何もかもが今までと違う。
流児は近付いてきた終わりを感じながら、巨大な門の取っ手に手を置く。
(下を見た感じ、引き摺られた跡がない……なら、これは引戸じゃないし、取っ手が嵌まるような溝も無いから、変化球で上や下へのスライドドアでも無い……なら──!)
「フンッ──オオオオッ!!」
精一杯の力を込めて、取っ手を押し込んだ。
すると、施設の光が一層強く点滅し、大きな門が不気味なほど静かに開いた。
「──行きましょう」
「……!」
「……あ、ああ。行こう」
まるで自身を誘う罠の様な深く暗い門の先。恐怖心を喉をならして飲み込むと、シエラとより強く手を繋ぎ、中へと進む。
二人と一匹が門を越えると、出入口が静かに閉まる。
そして通路や壁そのものが光り、一様に周囲を照らし出だした。
大人のクジラが余裕を持ってすれ違える程に広い、隙間の見えない、磨き上げられた白い石の様な素材で組み上げられた通路。
その通路の両側面には、厳格な雰囲気の漂う壁画が描かれていた。
「……壁画か。上でみたやつとは違う……」
「──妨害意思の接近を確認。迷子案内を最優先、急ぎます」
「……!?」
「え、あっちょっと!?」
照らし出された壁画を見ようとするも、シエラが手を引っ張る所為でゆっくりと見ることができない。
ずり落ちたガザミを押さえながら、仕方ないので流児は泳ぎながら壁画を見ることにした。
とは言え、壁に画かれているのは異形の存在と、その下ある爪跡と波紋を組み合わせて文字らしきもの。
それと、何かの出来事のあらましだろう。物語を思わせる壁画が、進む順番に画かれている。
ヴォズマーに似た異形達が戦争をしている様子。そこに白い鰭のある龍──海龍が次元の間らしき渦から現れ、全てを薙ぎ倒して争いを平定した様子。
海龍を畏れ奉る様子。帰郷の念を語る様に、青い星を思い浮かべる海龍の様子。
そんな海龍が故郷に帰れるよう願う異形達が画かれた様子。
(……よく分からん……)
そうして壁画を流し見していると、流児の目に見過ごせない壁画が入ってきた。
それは、少女と少年が目を瞑り、異形の存在に飲み込まれる様子を描いた壁画だった。
他にも少女や少年、魚や何かの道具を指し示す画に、大きく爪跡が交差するように画かれている、どこか咎める様な意思を感じる壁画だ。
「これは……ねぇ、あれ……シエラ達は大丈夫なの?」
「……」
震える指でそれを差し、シエラに問う。
すると、ガザミもその壁画を見て大人しくなってしまった。
「──問題はありません」
そうして返ってきたのは、今までで一度も見たこともない、シエラの悲しそうな苦笑だった。
流児達は壁画に付いて深く考えている。
もし、あの咎める様な壁画が意味する内容が、シエラや自身に害をもたらすようなものだった場合、自身はどうするべきか。
(いや、もう答えは決まってる。護るんだ、シエラを!)
覚悟を決め、シエラと繋がれていない方の拳を握る。
すると周囲の雰囲気が変わっていることに漸く気づいた流児。
シエラが静かに、目的地を指し示していた。
「あれは……」
それは、荘厳な雰囲気の漂う、何かの紋章が画かれた白い門だった。
門の上にある、鰭のある龍──海龍の彫刻があり、目に嵌め込まれた、静かな輝きを放つ蒼い宝石の瞳が、流児の覚悟を問うように見下ろしてくる。
流児は拳を握り締め、静かに呟く。
「……出来てるよ、覚悟」
シエラはそんな流児を静かに見つめていた。
これまでのように、光を出して門を開けようとしないシエラ。
「……どうしたの?」
「──案内はここまでです。出口はその門の先にあります。扉を開いて進んでください」
流児が問うと、シエラは門に取り付けられた紋章と一体化している大きな取っ手を指差して言った。
「……わかった」
何もかもが今までと違う。
流児は近付いてきた終わりを感じながら、巨大な門の取っ手に手を置く。
(下を見た感じ、引き摺られた跡がない……なら、これは引戸じゃないし、取っ手が嵌まるような溝も無いから、変化球で上や下へのスライドドアでも無い……なら──!)
「フンッ──オオオオッ!!」
精一杯の力を込めて、取っ手を押し込んだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる