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食物連鎖の調停
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近くを泳ぐイッカクの群れと、雪のように舞うオキアミ。それを食べている魚達の中を泳ぎ進む二人と一匹。
滅多に見られない氷海の食物連鎖の一片を表すような光景を、流児は時折よって来た魚や一角に餌をやりながら至近距離で楽しんでいた。
ある程度進んだだった。オキアミが段々とも少なくなり、側にくる魚がハゼ等の海底に住む種類に変わってきたのだ。
「ん、海底が近い……陸が近いのか?」
周囲を見回す流児。すると、どんどん陸が近付いていることに気付いた。
進行方向に目を向ければ、分厚い氷に覆われた薄暗い浅瀬が見える。
静かにその光景を眺めていると、シエラが手を引き先へと促してくる。
「わかった。それじゃあお別れだな。そら!」
最後にイッカク達にもエサをあげて別れ、海底に足を下ろして歩き出す。
「この辺には……おお、クリオネだ。それに、ハゼと、タラバガニだ」
「……!」
「タラバガニは蟹じゃないよ。ヤドカリの方だ」
「……!?!?」
クリオネや極海のハゼ、タラバガニにもエサを与えながらを眺めていると、海底に氷が張っていることに気付く。それを目で追うと、氷の柱が上から延びていることに気付いた。
「これは……ああ、これが『死のつらら』か……」
海面の氷から降り注ぐ、死の氷柱。
流児は、それによって凍りつくヒトデを見付けた。
「……すげぇ……」
「……?」
始めて目にする、恐ろしく美しさを感じる光景に、端末を取り出して写真を取り始めた。
そうしてしばらくすると、横合いから何かが泳いできた。
「うおっ!? なんだ……て、ペンギンか!」
「……?!」
それは様々な種類のペンギン、その群れだった。
近くの小魚を食べに来たのか、ペンギン達は物珍しげに主人公の周りを泳いだりしている。
「はは、水中でペンギンの餌やり……初めてだな。やっていい?」
「──ええ、どうぞ」
「何度もごめん。それとありがとう。……そら!」
何度も足を止めることをシエラに謝る。
そして許可を得たので、流児はペンギン達にエサを与えたり、自撮りモードで側に泳いで来たペンギンとツーショットを取ったりして楽しんだ。
「はははっ、いいね! あ、そうだ。ねえ、一緒に写真を──うわっ!?」
「……!?」
「──大型生物接近」
その流れでシエラともツーショットを取ろうと声をかけようとしたその時だった。
ペンギンの群れが何かに襲われ、蜘蛛の子散らす様に泳ぎ出したのだ。
「なんだ!? ──あ~~っ、ヒョウアザラシ……!」
見ると、ヒョウアザラシ達がペンギンを追いかけていたのだ。そして、そのヒョウアザラシやペンギンを狙ってか、シャチも現れた。
「うおおおおおっ、マジか!? ペンギンが、ヒョウアザラシも──どうしようっ?!」
その時、流児はペンギン達を助けようとした。
しかし、自身の勝手で生態系的に手を出すのはどうなのかとも考えた。
だが、目の前でさっきまで戯れていたペンギン達が、ヒョウアザラシやシャチに引き裂かれるのを見たくはない。そう思った流児は行動に出た。
「ええい、止まれーー!!」
覚悟を決めたのか餌袋に手を突っ込み、大きな餌団子を取り出した。
それに気付いたのか、シャチもヒョウアザラシもペンギンを追いかけるのをやめ、皆して餌を食べながら主人公の元にゆっくりと泳いで近付いてきた。
「良かった……のか? ……まぁいいや。本当は良くないけどね」
そんなことを呟きながら、流児は餌団子を放る。
すると、ヒョウアザラシはそれを食べようとして──シャチにどつかれて餌を奪われてしまった。
「こら、そんな事しなくても餌はあるぞ。ほら」
「キュイィ!」
シャチを嗜めつつ餌をやり、側で悄気ているヒョウアザラシにも餌をやる。
そして、恐る恐る戻ってきたペンギン達にも、餌を与えた。
「今だけは平穏に頼むよ……」
願うように餌を撒く。すると、餌を食べた各々が嬉しそうに泳ぎ出す。もう互いを襲い襲われることは今はないだろう。
「キュイィー!」
「……よし、平和だ! お、ははっよしよし」
近くにシャチ達がよってきたので、それぞれを撫でたり抱き締めたりする流児。それぞれの体の不思議な感触に驚きつつも喜んだのであった。
滅多に見られない氷海の食物連鎖の一片を表すような光景を、流児は時折よって来た魚や一角に餌をやりながら至近距離で楽しんでいた。
ある程度進んだだった。オキアミが段々とも少なくなり、側にくる魚がハゼ等の海底に住む種類に変わってきたのだ。
「ん、海底が近い……陸が近いのか?」
周囲を見回す流児。すると、どんどん陸が近付いていることに気付いた。
進行方向に目を向ければ、分厚い氷に覆われた薄暗い浅瀬が見える。
静かにその光景を眺めていると、シエラが手を引き先へと促してくる。
「わかった。それじゃあお別れだな。そら!」
最後にイッカク達にもエサをあげて別れ、海底に足を下ろして歩き出す。
「この辺には……おお、クリオネだ。それに、ハゼと、タラバガニだ」
「……!」
「タラバガニは蟹じゃないよ。ヤドカリの方だ」
「……!?!?」
クリオネや極海のハゼ、タラバガニにもエサを与えながらを眺めていると、海底に氷が張っていることに気付く。それを目で追うと、氷の柱が上から延びていることに気付いた。
「これは……ああ、これが『死のつらら』か……」
海面の氷から降り注ぐ、死の氷柱。
流児は、それによって凍りつくヒトデを見付けた。
「……すげぇ……」
「……?」
始めて目にする、恐ろしく美しさを感じる光景に、端末を取り出して写真を取り始めた。
そうしてしばらくすると、横合いから何かが泳いできた。
「うおっ!? なんだ……て、ペンギンか!」
「……?!」
それは様々な種類のペンギン、その群れだった。
近くの小魚を食べに来たのか、ペンギン達は物珍しげに主人公の周りを泳いだりしている。
「はは、水中でペンギンの餌やり……初めてだな。やっていい?」
「──ええ、どうぞ」
「何度もごめん。それとありがとう。……そら!」
何度も足を止めることをシエラに謝る。
そして許可を得たので、流児はペンギン達にエサを与えたり、自撮りモードで側に泳いで来たペンギンとツーショットを取ったりして楽しんだ。
「はははっ、いいね! あ、そうだ。ねえ、一緒に写真を──うわっ!?」
「……!?」
「──大型生物接近」
その流れでシエラともツーショットを取ろうと声をかけようとしたその時だった。
ペンギンの群れが何かに襲われ、蜘蛛の子散らす様に泳ぎ出したのだ。
「なんだ!? ──あ~~っ、ヒョウアザラシ……!」
見ると、ヒョウアザラシ達がペンギンを追いかけていたのだ。そして、そのヒョウアザラシやペンギンを狙ってか、シャチも現れた。
「うおおおおおっ、マジか!? ペンギンが、ヒョウアザラシも──どうしようっ?!」
その時、流児はペンギン達を助けようとした。
しかし、自身の勝手で生態系的に手を出すのはどうなのかとも考えた。
だが、目の前でさっきまで戯れていたペンギン達が、ヒョウアザラシやシャチに引き裂かれるのを見たくはない。そう思った流児は行動に出た。
「ええい、止まれーー!!」
覚悟を決めたのか餌袋に手を突っ込み、大きな餌団子を取り出した。
それに気付いたのか、シャチもヒョウアザラシもペンギンを追いかけるのをやめ、皆して餌を食べながら主人公の元にゆっくりと泳いで近付いてきた。
「良かった……のか? ……まぁいいや。本当は良くないけどね」
そんなことを呟きながら、流児は餌団子を放る。
すると、ヒョウアザラシはそれを食べようとして──シャチにどつかれて餌を奪われてしまった。
「こら、そんな事しなくても餌はあるぞ。ほら」
「キュイィ!」
シャチを嗜めつつ餌をやり、側で悄気ているヒョウアザラシにも餌をやる。
そして、恐る恐る戻ってきたペンギン達にも、餌を与えた。
「今だけは平穏に頼むよ……」
願うように餌を撒く。すると、餌を食べた各々が嬉しそうに泳ぎ出す。もう互いを襲い襲われることは今はないだろう。
「キュイィー!」
「……よし、平和だ! お、ははっよしよし」
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