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極海

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「ここが終点か?」
「ピー!」
「そうか、ありがとな。ほら御礼だ」
「ピュァー!」

 送迎の御礼に、子イルカの群れに餌を上げる。
 そして子イルカ群れと別れて到着したのは、何処か冷たい雰囲気の漂う海だった。

「随分と冷たい……ん、あれは……」

 薄暗く冷たい海に驚く流児。周囲を確認すると、不意に影に覆われる。
 上を見ると、光を遮る白い塊が見えた。

「あれは……流氷か……そうか、ここは北極か南極の海か」

 流氷に覆われた、星の極圏。
 流児がたどり着いたのは、そんな厳しい海だった。

「……怖いな……」

 雲とは違う、質量のある白。空とは違う、冷たいあお
 全てを拒絶するような寒気の走る光景に、流児はふと恐れを溢した。

「──大丈夫です」
「……!」

 しかし、そんな流児の手をシエラが強く握り、ガザミがハサミを掲げて鼓舞する。

「……そうだね、行こう」

 ここが何処だとしても大丈夫と、シエラの微笑みとシャカシャカ動くガザミを見て安心する流児。
 そうして、シエラの手を握り返し、一人と一匹に微笑み返す。

(そうだ、何も脅える必要はない。俺にはシエラと、ガザミがいるからな……)

 そうして払拭された恐怖を胸に、流児はシエラに手を引かれるままに先へと泳ぎ出した。

 暫く冷たい海を泳いでいると、視界に雪のような白い何かがちらつきはじめる。

「なんだこれ……」
「……!」
「お、ナイスキャッチ!  ……成る程、オキアミか」

 流児達の周囲をピョコピョコと泳ぐそれを、ガザミがハサミで捕まえる。その正体は、ナンキョクオキアミだった。

「……!」
「ん?  ……ああ、これね。はい」
「……!」
 
 オキアミを捕まえたガザミは、何かを求めるように流児にハサミでアピールしている。何となく何を求めているか察した流児は、腰に着けていた餌袋からガザミサイズの団子を取り出すと、それを与えた。

 すると、餌の臭いに釣られたかオキアミを求めてか。見たこともない魚が現れ、その魚を狙って極海に棲む生き物も現れた。

「あれは……イッカク!  はじめてみたな……!」

 極海の魚達がオキアミを貪り、油断したところをイッカクの角で殴られ気絶。補食される。

「ああやって餌を取るのか……」
「──餌やりをしますか?」

 イッカクの補食を眺めていると、シエラが餌袋を指差し首をかしげて聞いてきた。

「え? ……いや、大丈夫だ」

 本当は餌やりをしたいと思っている流児だったが、自身のやりたい事をするために、ここに来るまでに何度も足を止めている。
 これ以上迷惑をかけるのはいけないと自制して答えたが、シエラは何かを待っている様子のオキアミや魚、イッカクに向けて指差し、最後に餌袋を指した。
 シエラは言外に許可を出している様だった。それに甘えて、流児は餌袋を手に取る。

「……ごめん、餌やり……して良い?」
「──はい、どうぞ」
「ありがとう。それじゃあ、楽しませてもらうね」

 そう言うと、流児は餌袋を左手に持ち変えて餌やりを楽しみだした。
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