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海中追いかけっこ

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「待てこのっ!」
「ピュイッピー!」

 逃げる子イルカ。追いかける流児。
 本来なら、子供とはいえイルカの遊泳力に人間が追い付けるわけがない。しかし、ここが不可思議な海故か、流児が『もっと速く』と願う程に泳ぐ速度が上がり、子イルカの泳ぎに付いて行けるようになったいた。

(何だか体が軽い……水の抵抗が少ないみたいだ!)

 子イルカに迫る速度で泳ぐ流児。
 手の一掻きでカーブで発生するスピードのロスを帳消しにして、脚の一蹴りで更に加速する。

「捕まえ──」
「ッピー!」
「クソッまた避けられたっ!」

 海中に点在する建造物をするすると避けながら泳ぐ子イルカ。
 それを建造物にぶつかりながらも追い付き始める流児。

 ──幾つかの柱にぶつかる度に、柱が青い光を放つ。それは徐々に数を増して行き、それはやがて花の地上絵を描き出す。

「ようやく追い詰めたぞ……さあ、スマホを返せっ!」
「ピーッ!?」

 行き止まりで泳ぐ子イルカに飛びかかる。それに驚いてか、子イルカはスマホを離して避けた。

「取った──っ、何だっ!?」

 舞い落ちる端末を掴み取り安堵する流児。泳ぐ勢いを殺すため、側にある柱にぶつかって勢いを止める。
 すると、流児の触れた柱が一段と強い光を放ち、それに呼応するかのように周囲の柱も強く輝き出した。

「うわああっ!?」
「──救助開始」

 叫びながら、丸くなることで衝撃に備える流児。そこにシエラが駆け寄ると、流児を抱えて助け出した。

 その直後。全ての柱が花開くように広がり、その全容を露にする。

 ──それは、海底に咲いたハイビスカスだった。

 海底で無数に咲く白い花も合わさって、巨大な花畑の様な空間が広がっている、
 ハイビスカスの様に咲くそれは淡い青色の輝きをほのかに放ち、花弁は中央にいくにつれて淡い桃色になっている。
 中央の雄しべの部分は、サンゴともイソギンチャクとれる様相で、雌しべにあたる部分から桃色の触手を伸ばし、何かを待っている様にユラユラと揺れている。

「ありがとうシエラ……それで、あれが何かわかる……?」
「──二次優先項目を確認。案内に支障が発生しましま、協力を願いします」
「え、ちょっなに!?」

 助けてくれたシエラに感謝を告げ、表れた巨大な花が気になる流児。
 しかし、シエラはハナについて何も言わず、中心に咲く一等巨大な花に向かって流児を抱き寄せたまま泳ぎ出した。

「えっと……?」
「──指定した箇所に応じた作業を開始してください」

 花の芯に到着した二人。
 何がしたいのか流児が困惑していると、シエラが芯を指差し何かを訴えている。

「作業って……ん、あれは……」
「──あちらへと端末を設置し、そちらで生体データを登録してください」

 見ると、雄しべの表面に巨体な手形らしきシルエットと、人形ひとがたのシルエットがあった。
 シエラは流児の持つ端末を指差して、人形のシルエットへ向ける。
 続いて、少女は手形らしきシルエットを指差し、流児の手を取った。

「……成る程、そうして欲しいんだね?」
「──そうです」

 シエラの意図を確認するため、流児も同じ動きをしてみる。すると、意図が伝わったことを喜んでいるのか、シエラは微笑み頷いた。

「……よし……ここか?」

 雄しべの表面まで泳ぎ、人形のシルエットの胸元付近に端末を置く。
 すると、人形のシルエットの隅々から触手が表れ、何かを探すような動きをした後、端末へと殺到した。

「うわ、大丈夫かな……」

 その様子に不安を感じるが、触手は端末を優しく包み、何やら光の粒子を雄しべへと端末で行き来させている。
 これで良いのかとシエラを見ると、頷きと微笑みで返事をされ、続いて手形を指差した。

「……わかった……」

 頷いて答えると、シエラは微笑んだ。

「よし、えいっ──うわっ!?」

 それを見てやる気の沸いた流児は、僅かに躊躇ちゅうちょしつつ、自身の身の丈を超える手形らしきシルエット──その中心に手を合わせた。

 すると、端末の時と同じ様に触手が現れ、流児の手を包んだ。
 更に、雌しべから延びた無数の触手の先端が、脳波を図るかの様に流児の頭の至るところに張り付いてくる。

「うおおっ!?  こ、これっ大丈夫なやつ!?」
「──危害はありません」

 焦り確認するが、シエラは大丈夫だと微笑み頷いた。

「……なら、良いけど……」

 流児は抵抗を諦め、解放されるその時を待つことにした。

 端末と同じ様に、光の粒子が雌しべへと流れて行く。
 自身に異常が無いか手足を動かしたり、記憶を探ってみるが、大した変化は無かった。
 流児は、この奇妙な作業の終わりを静かに待つことにしたのであった。
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