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夢現の喪失
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しかしある時、一人の王が立つ。彼は『神の子』に与えられし子によって齎される栄華を良しとせず。
『神の子』ではなく、人の力で切り開いてこその未来だと宣い、かの一族を虐殺せしめたという。無抵抗の赤子まで残らず根絶やしにする鬼畜の所業に、巫覡の一族は怒り狂い、呪詛を吐き、末代まで祟り続ける血の誓いを残したという。
「…是だな」
北白川はαの中のα。古代から連綿と受け継がれている為政者の血は違え様も無い。
美澄の中に居たアレは、この巫覡の一族の者と考えて間違いなかろう。あの言い様から察するに、一族を殲滅に追い込んだ張本人である「王」とやらに僕が似ているのか。兎に角、僕を目の敵にした様な物言いも、この歴史のせいと考えれば容易に納得がいく。
一族を皆殺しにした男ならば、さぞかし憎かろう。巫覡の一族の身であるならば、他人を意の儘に操る術など身につけていても不思議は無い。かえって、アレが僕を敵として認識し、排除しようと企んでいるのであれば、此方の行動には必ず反応してくるに違いない。あれ程までに恨み辛みが募った相手を易々と逃す筈はなかろう。
そう仮定すれば、僕が行動することで事態は容易に変化していく筈であり、契機も勝機も僕にあると考えても奇しくない。此処でも矢張り、運命、というものを感じずにはいられない。
アレが宿る相手が美澄であったこと、アレの認識している宿敵とやらが僕であったこと。僕があの人に出逢い恋に堕ちたように、美澄が僕に恋をしたこと。美澄と僕が番となったこと。
誰かの娯楽のために操られている人形の如く、全てが逐一決められていて覆せない「運命」というレールの上を走っているだけの台本通りの狂言だとしたら。
何処に生きる意味など在るだろうか。
---考えても詮無きこと。
頭を振って、下らない考えを振り落とす。背景が見えた今、美澄を取り戻すためにすべき行動とは何だ。無駄に脳の神経を磨り減らすな。糸口は見つけた。後は、行動あるのみだ。
兄弟たちとて、決して手を拱いていた訳ではあるまい。だが、屋敷や一族の者が使えないとなると途端に手詰まりになっただけだろう。
所詮、財閥の直系だと持て囃されて煽てられ、世界を我が物にせんと傲り高ぶり、蓋を開けてみれば己が手足となる者すら居ずに、北白川という看板がなければ不様に手足を捥がれた虫螻のように足掻くことすら適わず口を噤むしかないとは、何とも情けない仕儀だ。
財力も権力も、己の身に相応しく付随するものではなく、虎の威光ばかりを得て猿山の大将であったとは滑稽至極。後は己が身ひとつで、足で、この広い世界を当て所なく彷徨い、見つけるしか手立てが無い。
…この街だけで、如何程の人間が住まい、生きていることか。夜空に瞬く星が零れ落ちて溢れるように、無数の人で溢れ返っている。その中から唯一人を見つけ出すことなど、確率的には低すぎて試算する気すら起きない。
それだけ、人と人が出逢うということは、奇跡的なことなのだと。
美澄と僕が出逢い、過ごした日々というのは、それこそ無数の星空に等しい奇跡なのだと、
此の時僕は漸く気付いた。
偶然などではない。当然でもない。時間をかけて紡ぎ重ねて合わせて共有してきた想い出も、感情も、一瞬すらも、全てが奇跡であり意味のあることだったのだと、僕は失ってみて初めて気付かされた。
これが果たして恋愛感情なのか、正直に言えば分らない。あの人への想いとは異なる重さで、形で、存在しているこの感情は何なのか。
理解出来ない状態というのは不愉快である。故に僕は、この感情の正体を知りたいと思う。美澄に再び逢うことで攫める物があるならば、僕は厭わずにアレと向き合い、美澄を取り戻そう。
そう、改めて心を決めた。
誰かの存在を行動理由にするなど久方振りのことだった。
『神の子』ではなく、人の力で切り開いてこその未来だと宣い、かの一族を虐殺せしめたという。無抵抗の赤子まで残らず根絶やしにする鬼畜の所業に、巫覡の一族は怒り狂い、呪詛を吐き、末代まで祟り続ける血の誓いを残したという。
「…是だな」
北白川はαの中のα。古代から連綿と受け継がれている為政者の血は違え様も無い。
美澄の中に居たアレは、この巫覡の一族の者と考えて間違いなかろう。あの言い様から察するに、一族を殲滅に追い込んだ張本人である「王」とやらに僕が似ているのか。兎に角、僕を目の敵にした様な物言いも、この歴史のせいと考えれば容易に納得がいく。
一族を皆殺しにした男ならば、さぞかし憎かろう。巫覡の一族の身であるならば、他人を意の儘に操る術など身につけていても不思議は無い。かえって、アレが僕を敵として認識し、排除しようと企んでいるのであれば、此方の行動には必ず反応してくるに違いない。あれ程までに恨み辛みが募った相手を易々と逃す筈はなかろう。
そう仮定すれば、僕が行動することで事態は容易に変化していく筈であり、契機も勝機も僕にあると考えても奇しくない。此処でも矢張り、運命、というものを感じずにはいられない。
アレが宿る相手が美澄であったこと、アレの認識している宿敵とやらが僕であったこと。僕があの人に出逢い恋に堕ちたように、美澄が僕に恋をしたこと。美澄と僕が番となったこと。
誰かの娯楽のために操られている人形の如く、全てが逐一決められていて覆せない「運命」というレールの上を走っているだけの台本通りの狂言だとしたら。
何処に生きる意味など在るだろうか。
---考えても詮無きこと。
頭を振って、下らない考えを振り落とす。背景が見えた今、美澄を取り戻すためにすべき行動とは何だ。無駄に脳の神経を磨り減らすな。糸口は見つけた。後は、行動あるのみだ。
兄弟たちとて、決して手を拱いていた訳ではあるまい。だが、屋敷や一族の者が使えないとなると途端に手詰まりになっただけだろう。
所詮、財閥の直系だと持て囃されて煽てられ、世界を我が物にせんと傲り高ぶり、蓋を開けてみれば己が手足となる者すら居ずに、北白川という看板がなければ不様に手足を捥がれた虫螻のように足掻くことすら適わず口を噤むしかないとは、何とも情けない仕儀だ。
財力も権力も、己の身に相応しく付随するものではなく、虎の威光ばかりを得て猿山の大将であったとは滑稽至極。後は己が身ひとつで、足で、この広い世界を当て所なく彷徨い、見つけるしか手立てが無い。
…この街だけで、如何程の人間が住まい、生きていることか。夜空に瞬く星が零れ落ちて溢れるように、無数の人で溢れ返っている。その中から唯一人を見つけ出すことなど、確率的には低すぎて試算する気すら起きない。
それだけ、人と人が出逢うということは、奇跡的なことなのだと。
美澄と僕が出逢い、過ごした日々というのは、それこそ無数の星空に等しい奇跡なのだと、
此の時僕は漸く気付いた。
偶然などではない。当然でもない。時間をかけて紡ぎ重ねて合わせて共有してきた想い出も、感情も、一瞬すらも、全てが奇跡であり意味のあることだったのだと、僕は失ってみて初めて気付かされた。
これが果たして恋愛感情なのか、正直に言えば分らない。あの人への想いとは異なる重さで、形で、存在しているこの感情は何なのか。
理解出来ない状態というのは不愉快である。故に僕は、この感情の正体を知りたいと思う。美澄に再び逢うことで攫める物があるならば、僕は厭わずにアレと向き合い、美澄を取り戻そう。
そう、改めて心を決めた。
誰かの存在を行動理由にするなど久方振りのことだった。
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