影牢 -かげろう-

帯刀通

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揺るぎない妥協

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目の前に広がるのは、大型ディスプレイ。其処に映るのは、終わることを知らない、狂った宴。

自分と同じ顔をした彼の、痴態の数々。他人?否、中身が違うとはいえ、画面に映る身体は紛れもなくつい先日まで僕自身だったのだから「自分の情事」を客観的に常に見せられ続けるというのは、苦行を通り越して無の境地に至れるものだと知った。

初めは目を逸らして耳を塞いでいた。でも、逃がしてはくれなかった。追いかけて追いかけてつきまとう。

此方の都合では拒めないことが分かると、僕は諦めた。というか、頭の回路が何処かの時点で焼き切れてしまったようだった。心の痛む場所にぐいぐいと乾いたタオルを突っ込んで、上から蓋をして、ぐるぐると包帯で巻き込んで、ぎゅうぎゅうに締め上げて、その苦しみで。

軋んだ悲鳴を上げる、この痛みを相殺そうさいしただけだ。

こんな処で死ぬまで独りでい続けることを受け入れるには、自分がもう誰とも何処にも未来永劫繋がれないことを受け入れるには、正気ではいられなかったから。

僕は何も感じない。
僕は誰にも感じない。
僕は石だ。石は痛みを感じない。だから大丈夫。
僕は唯の石だ。この身体に詰まっているものは唯の石だ。
だからこの痛みもまやかし。
痛くない痛くない恐くない恐くない悲しくなんてない。

ーーーよし、おまじない終了。

却説。最近では僕は、泉のことを双子の兄弟のように感じている。僕であり、僕ではない者。運命を共有しながらも、別の個体である、不思議な存在。親近感と嫌悪感が秤の上で揺れている。

とっくに縁を切り離しているようで、ひっそりと隅の方に細い糸が繋がっている、
まるで赤い糸のように。

泉はあれ以来、僕と意識を繋げようとはしない。見向きもしない。ただ見せつけるように、誰かと繋がる。身体だけがだとでもいうように次から次へと花の間を渡り歩く、毒々しいまでに華麗な蝶。

あの狂乱の宴から僕と入れ替わった泉は、そつなく「北白川美澄」を演じているようだった。泉の演じる「美澄」を見ることは、存外面白かった。これまでの自分は他人からはこんな風に見えていたのかと、新鮮な発見もあった。

どんな手練手管を使ったのか、僕には見えない処で何を画策していたのか、泉は北白川の家を出ていた。手引きをしたのは密兄さまだ。一体どんな理由を以てすれば鳥籠の小鳥を外界へと放つ許可を、あの父様や兄さま達がくれたのだろう。

泉のあの凶暴なまでの圧力というか、魔力めいた何かに誑かされただけなのか。何がどうして泉の自由行動が可能になっているのか、そのメカニズムがよく分からない。分からないけれど、

鳥籠から解放された泉の笑顔を見た時、
少し泣けた。

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