影牢 -かげろう-

帯刀通

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解放と君臨

03

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同じ顔、同じ身体、なのに其処から溢れ出す空気はまるで異なる他人のようだ。
真っ直ぐな黒髪に映える、真っ白な肌の対比コントラスト。毒々しいほど紅く色づいた口唇は冷たい笑みを浮かべている。全てを見透かすような透徹した強い瞳に射抜かれて、漸く気づいた。

あれは別の何かだ。
私の皮を被った別の生き物。

傲岸不遜な表情で睥睨へいげいし、値踏みし、選定し、奪い取る。周囲を圧倒するオーラで膝を折らせ、屈服させ、従える。

そう、まるで女王蜂のようだ。ねえ、君は誰なの?

「取り敢えず、疑問は先送りにしてさ。俺で試してみない?美澄」

ちょん、と髪を一筋引かれて我に返る。…そうだ、密兄さまと話していたんだった。まだ意識だけ夢の中に置き忘れてきたように、ぼんやりと半覚醒の波間を漂っているようだ。

「これでフェロモンが止まれば、美澄の本当の相手は俺ってことになるでしょ?」

そんなことはあり得ない、と頭では主張しているのに、うまく思考がまとまらない…さっきから胸焼けしそうな程に甘い、噎せかえる蜜の匂いが辺り一面に立ち込めていて、思考を邪魔している。霞がかかったように、視界がぼやけて、輪郭が崩れていく。境界が緩んでいく。

さっきまで傍にいたはずの愛兄さまの姿さえ掴めない。ここは暑すぎる。汗ばむ空気に耐えかねて熱い息を吐けば、身体の底からジリジリとチリチリと炎が立ち上っていった。不愉快なほどにまとわりつくのは誰の腕?

その時、するり、と影が姿を現した。

本当にそうとしか表現できない。背後から揺らめいた黒い影が、焼けたアスファルトに立つ陽炎のように、眼前に現れたのだ。

それは確かに、私の形をしていた。

ドッペルゲンガーの如く、鏡に写し出された虚像の如く、さっきまでの白昼夢に出てきたあの高慢な女王蜂の如き、似て非なるもう一人の私。否、これは。

『やっと逢えた……』

したたる血よりも鮮やかな赤い満月の瞳がギラギラと燃え上がる。映し出されている私の顔は、蛇に魅入られて色を失くし怯える鼠のようにもろい。今にも倒れそうな青さで震えている。

『もうき頃合いだろう』

憐れみと慈しみを混ぜ合わせた笑顔で、その人はそっと手を差しのべた。頬に指を這わせて、優しく撫でさすると、

愛おしげに頬を擦り寄せて、
口付けた。
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