12 / 94
強制される未来
02
しおりを挟む
繰り返される口吻に身体が火照りだした頃、
ドンドンドンーーー
文字通り、叩きつけるようなノックの音が響いた。思わず身体が跳ねる。ドアも揺れる。こんな野蛮かつ無粋なノックをする人物は、誰何する必要もないほどに明白だ。
「おーい、美澄ぃー。入るぞー」
春兄さまだ。
「ついでに、僕もー…って、雪兄ズルいぞ!抜け駆け!」
月兄さまもいた。
騒々しい人たちだ。昔からこの二人がくっつくと、何やかやと良からぬことをする。混ぜるな危険、の組み合わせだ。幼い頃からの習性は変わらないのか、端から聞く気がないのか。年頃の妹の部屋にズカズカ入ってくることを何度注意しても止めない、その学習能力のなさは如何ともしがたい。
「雪、独り占めは感心しないな」
春兄さまはそう言うと、雪兄さまに埋もれていた私の両脇をがしっと掴んで引き抜いた。そして幼い子供を抱えるように抱き上げると、クローゼットの前に着地させる。
「さあ、今日は兄さまの贈った服を着ようなぁ。どれがいいかなぁ」
おもむろに脱がせ始める。
「ちょっ!ちょっと、春兄さま!何するんですか!?」
「ん?着替えだが?」
「いやいやいや、私もう子供じゃないんですよ!自分で着替えられます!というか、それ以前にしれっと年頃の娘を裸に剥かないでくださいな!」
次々とボタンを外していく春兄さまの手をぎゅっと掴むと、何を思ったのか、ちゅっと口づけされた。
「お?照れてるのか?かーわいー」
茶化した声とニヤけた顔を思わず睨みつける。しかし、そんな威嚇が兄相手に通用するはずもない。
「遠慮するな。兄さまに任せてごらん」
顔を寄せて、軽く耳たぶを噛まれた。
「俺の可愛い可愛い妹を、世界中の誰よりも可愛くしてやるからさ」
低く甘くとろけるような声に、耳が侵食される。
「…悪戯が過ぎますよ、春兄さま」
悔しいけれど物凄くいい声なのだ、この兄は。普段はがさつにも見えるほど豪放磊落を装ってはいるが、人一倍繊細な春兄さまはとても低くて渋い声をしていて、間近で囁かれるだけで“孕みそう”な声らしい。パーティーで女性陣がうっとりした顔でそう言っていた。
そうこうするうちに抵抗も虚しく服は剥ぎ取られ、春兄さま趣味のいわゆるロリータ服を着せられていく。
「今日はアリスにしようなぁ。うちの妹は本当に可愛なぁ。あーっ、本ッ当に可愛いなあ!」
「…二回も言わなくて結構よ、兄さま」
もはや着せ替え人形の如く、半ば投げやりにされるがままになっている私を見て、雪兄さまと月兄さまがくすくす笑う。
「いや、本当に可愛いよ?さすが私たちの妹だ」
…笑いながら言われても嬉しくはない。その間も春兄さまは、もっと太れだの、俺が食べさせてやるだのと煩い。…まぁ、ザッハトルテを作ってくれるのは嬉しいけど。
「じゃあ、今度は僕が魔法をかけましょうか?アリスちゃん」
そう言うと、月兄さまは勝手知ったるとばかりにバスルームからメイク道具を取り出してきて、着替え終わった私をソファに座らせた。
「さぁ、目を閉じてーーー」
抵抗しても面倒なだけだと諦めて目を瞑る。ブラシの滑る感触がくすぐったい。時折かすめる指先に、びくりとする。
「…前から十分可愛いけど、最近は色っぽくなってきたね、お姫様は」
迷いのない動きで仕上げられていく化粧。一体何処で覚えたのか、誰を練習台にしたのか、器用なことだ。要領よく一通りこなせてしまう器用さは月兄さまの長所でもあり短所でもある。熱しやすく冷めやすい、癖のある面倒なタイプだ。
「じゃあ、仕上げだよ。目を開けて」
素直に目を開けると、思いの外至近距離に月兄さまの顔があった。近い、近すぎる。口唇に人差し指がのり、ゆっくりと紅が引かれていく。
「もうちょっと、口ひらいて」
くすぐったいような、恥ずかしいような、指先の動きに全ての意識が集中してしまう。触れられたところがヒリヒリするほどに、感覚が尖っていく。
「あ…兄さま…ぁ、もう…」
思わず止めようと伸ばした手を掴まれて、
「…っは、…えっろい顔」
口づけされた。
ドンドンドンーーー
文字通り、叩きつけるようなノックの音が響いた。思わず身体が跳ねる。ドアも揺れる。こんな野蛮かつ無粋なノックをする人物は、誰何する必要もないほどに明白だ。
「おーい、美澄ぃー。入るぞー」
春兄さまだ。
「ついでに、僕もー…って、雪兄ズルいぞ!抜け駆け!」
月兄さまもいた。
騒々しい人たちだ。昔からこの二人がくっつくと、何やかやと良からぬことをする。混ぜるな危険、の組み合わせだ。幼い頃からの習性は変わらないのか、端から聞く気がないのか。年頃の妹の部屋にズカズカ入ってくることを何度注意しても止めない、その学習能力のなさは如何ともしがたい。
「雪、独り占めは感心しないな」
春兄さまはそう言うと、雪兄さまに埋もれていた私の両脇をがしっと掴んで引き抜いた。そして幼い子供を抱えるように抱き上げると、クローゼットの前に着地させる。
「さあ、今日は兄さまの贈った服を着ようなぁ。どれがいいかなぁ」
おもむろに脱がせ始める。
「ちょっ!ちょっと、春兄さま!何するんですか!?」
「ん?着替えだが?」
「いやいやいや、私もう子供じゃないんですよ!自分で着替えられます!というか、それ以前にしれっと年頃の娘を裸に剥かないでくださいな!」
次々とボタンを外していく春兄さまの手をぎゅっと掴むと、何を思ったのか、ちゅっと口づけされた。
「お?照れてるのか?かーわいー」
茶化した声とニヤけた顔を思わず睨みつける。しかし、そんな威嚇が兄相手に通用するはずもない。
「遠慮するな。兄さまに任せてごらん」
顔を寄せて、軽く耳たぶを噛まれた。
「俺の可愛い可愛い妹を、世界中の誰よりも可愛くしてやるからさ」
低く甘くとろけるような声に、耳が侵食される。
「…悪戯が過ぎますよ、春兄さま」
悔しいけれど物凄くいい声なのだ、この兄は。普段はがさつにも見えるほど豪放磊落を装ってはいるが、人一倍繊細な春兄さまはとても低くて渋い声をしていて、間近で囁かれるだけで“孕みそう”な声らしい。パーティーで女性陣がうっとりした顔でそう言っていた。
そうこうするうちに抵抗も虚しく服は剥ぎ取られ、春兄さま趣味のいわゆるロリータ服を着せられていく。
「今日はアリスにしようなぁ。うちの妹は本当に可愛なぁ。あーっ、本ッ当に可愛いなあ!」
「…二回も言わなくて結構よ、兄さま」
もはや着せ替え人形の如く、半ば投げやりにされるがままになっている私を見て、雪兄さまと月兄さまがくすくす笑う。
「いや、本当に可愛いよ?さすが私たちの妹だ」
…笑いながら言われても嬉しくはない。その間も春兄さまは、もっと太れだの、俺が食べさせてやるだのと煩い。…まぁ、ザッハトルテを作ってくれるのは嬉しいけど。
「じゃあ、今度は僕が魔法をかけましょうか?アリスちゃん」
そう言うと、月兄さまは勝手知ったるとばかりにバスルームからメイク道具を取り出してきて、着替え終わった私をソファに座らせた。
「さぁ、目を閉じてーーー」
抵抗しても面倒なだけだと諦めて目を瞑る。ブラシの滑る感触がくすぐったい。時折かすめる指先に、びくりとする。
「…前から十分可愛いけど、最近は色っぽくなってきたね、お姫様は」
迷いのない動きで仕上げられていく化粧。一体何処で覚えたのか、誰を練習台にしたのか、器用なことだ。要領よく一通りこなせてしまう器用さは月兄さまの長所でもあり短所でもある。熱しやすく冷めやすい、癖のある面倒なタイプだ。
「じゃあ、仕上げだよ。目を開けて」
素直に目を開けると、思いの外至近距離に月兄さまの顔があった。近い、近すぎる。口唇に人差し指がのり、ゆっくりと紅が引かれていく。
「もうちょっと、口ひらいて」
くすぐったいような、恥ずかしいような、指先の動きに全ての意識が集中してしまう。触れられたところがヒリヒリするほどに、感覚が尖っていく。
「あ…兄さま…ぁ、もう…」
思わず止めようと伸ばした手を掴まれて、
「…っは、…えっろい顔」
口づけされた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる