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憂鬱な朝食
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食堂になっているホールの扉を開くと、既に観客は勢揃いしていた。
今日は土曜日。学校も仕事も一般的には休みとなっているが、この北白川家は毎日同じスケジュールで動いているので、休日だからといって寝過ごすことは許されない。まだ7時だというのに、今すぐにでも外出できそうなほど一分の隙もなく身なりを整えた兄たちをゆっくりと見渡して。
くっきりと、にっこりと微笑む。眉間に視線が集中する。
「おはようございます、兄さま方。今朝はお揃いだなんて、お珍しいですね」
可愛らしい妹の振りとしては満点だろう。朝から笑顔の大盤振る舞いだ。
「おはよう、今朝も可愛らしいね、美澄」
上座に座るはずの北白川家現当主、真兼お祖父様は離れの自室にいる。ご高齢すぎて、無駄に広い本館内の移動が難しいので全面バリアフリーの離れで生活なさっているからだ。
次席の真時お父様は、海外での事業がどうとかで先月から不在にしている。国内にいたとしても朝食をともにすることなど滅多にないから、同じことだが。
そして、現時点でこの屋敷の頂点に位置しているのが、長兄の真雪兄さまだ。
まだ二十代半ばとは思えないほど落ち着いた物腰で、まるで学者のように物静かで聡明な雰囲気をまとっている。漆黒の艶やかな髪は肩口で揃えられていて、細面は母様譲りだ。背は高い方だがとても痩せているので、華奢に映る。たおやかで華やか、たとえるならカラーの花のような人だが、芯があって決して折れない。
さすが北白川の長兄である。雪の名を冠するに相応しい、美しさと厳しさを兼ね備えている。私を見るその美しい一重の目元は今、柔らかに細められている。銀縁の眼鏡をそっと指で押し上げる様すら、溜め息が出るほど美しい。優しく麗しい、私の大好きな兄さま。
「雪兄さまも相変わらず素敵ですわ」
心からの微笑みを返せる、雪兄さまは私の心のオアシスだ。幼い頃からずっと。
「また雪を贔屓してるな!たまには俺の好みもきいてくれ!」
横やりを入れてくるのは、次兄の真春兄さま。
声の大きさに比例するように、身体も大きく、雪兄さまと同じ兄弟だとは思えないほど野性味に溢れているところは完全に父様譲りだ。意思の強そうな眉と、口ほどに物を言ってしまいそうな大きな眼。素直で無鉄砲、子供っぽい危うさが長所であり短所でもある。とにかく男らしさ一直線といった趣きだが、実は家庭的で家事全般お任せ、料理の腕はプロ並みというギャップ萌えな人でもある。
少々、少女趣味的なところがあり、私にいつもゴテゴテと飾り立てたお姫様のような格好をさせたがるところが玉に瑕だ。
「春兄さまのくださるお洋服は、日常生活向きではありませんもの」
軽くあしらっておくのが丁度いい。
「じゃあ、次の夜会では俺の見立てたドレスにしてくれ!約束だぞ」
拗ねた声で強引に約束を取りつけるあたり、まだまだ雪兄さまに比べると子供だ。
「では、僕のお願いは何にしようかな?」
すんなりと割って入ったのは三兄の真月兄さま。
雪兄さまをひとまわり小さく幼くしたような可愛らしい容貌と無邪気で奔放な気質は、万人に愛される武器となる。その実態はかなりの天の邪鬼で腹黒、いわゆる小悪魔なのだが嫌われないギリギリのラインを攻めているあたり、相当な策士でもある。利害が一致すれば心強い味方にもなるので、敵対しない限りは自由にさせておくのがいい。
「月兄さまのお願いでしたら、いつでも承りますわ」
どんなことでも、と明言しないでおくのが肝だ。言質をとられると面倒この上ない相手なのは、長年の付き合いで学習済みである。
「じゃあ、とっておきのお願い、考えておくね!」
妹にウィンクするな、バカ兄。基本的にこの三人は、頭に超弩級がつくほどの妹バカなのだ。胸焼けしそうなこってりのクリームよりも甘く甘く、溺れそうなほどに私を甘やかす。
そして、なるべく自然に見えるように、
最後に残った兄に視線を送った。
「おはようございます、愛兄さま」
今日は土曜日。学校も仕事も一般的には休みとなっているが、この北白川家は毎日同じスケジュールで動いているので、休日だからといって寝過ごすことは許されない。まだ7時だというのに、今すぐにでも外出できそうなほど一分の隙もなく身なりを整えた兄たちをゆっくりと見渡して。
くっきりと、にっこりと微笑む。眉間に視線が集中する。
「おはようございます、兄さま方。今朝はお揃いだなんて、お珍しいですね」
可愛らしい妹の振りとしては満点だろう。朝から笑顔の大盤振る舞いだ。
「おはよう、今朝も可愛らしいね、美澄」
上座に座るはずの北白川家現当主、真兼お祖父様は離れの自室にいる。ご高齢すぎて、無駄に広い本館内の移動が難しいので全面バリアフリーの離れで生活なさっているからだ。
次席の真時お父様は、海外での事業がどうとかで先月から不在にしている。国内にいたとしても朝食をともにすることなど滅多にないから、同じことだが。
そして、現時点でこの屋敷の頂点に位置しているのが、長兄の真雪兄さまだ。
まだ二十代半ばとは思えないほど落ち着いた物腰で、まるで学者のように物静かで聡明な雰囲気をまとっている。漆黒の艶やかな髪は肩口で揃えられていて、細面は母様譲りだ。背は高い方だがとても痩せているので、華奢に映る。たおやかで華やか、たとえるならカラーの花のような人だが、芯があって決して折れない。
さすが北白川の長兄である。雪の名を冠するに相応しい、美しさと厳しさを兼ね備えている。私を見るその美しい一重の目元は今、柔らかに細められている。銀縁の眼鏡をそっと指で押し上げる様すら、溜め息が出るほど美しい。優しく麗しい、私の大好きな兄さま。
「雪兄さまも相変わらず素敵ですわ」
心からの微笑みを返せる、雪兄さまは私の心のオアシスだ。幼い頃からずっと。
「また雪を贔屓してるな!たまには俺の好みもきいてくれ!」
横やりを入れてくるのは、次兄の真春兄さま。
声の大きさに比例するように、身体も大きく、雪兄さまと同じ兄弟だとは思えないほど野性味に溢れているところは完全に父様譲りだ。意思の強そうな眉と、口ほどに物を言ってしまいそうな大きな眼。素直で無鉄砲、子供っぽい危うさが長所であり短所でもある。とにかく男らしさ一直線といった趣きだが、実は家庭的で家事全般お任せ、料理の腕はプロ並みというギャップ萌えな人でもある。
少々、少女趣味的なところがあり、私にいつもゴテゴテと飾り立てたお姫様のような格好をさせたがるところが玉に瑕だ。
「春兄さまのくださるお洋服は、日常生活向きではありませんもの」
軽くあしらっておくのが丁度いい。
「じゃあ、次の夜会では俺の見立てたドレスにしてくれ!約束だぞ」
拗ねた声で強引に約束を取りつけるあたり、まだまだ雪兄さまに比べると子供だ。
「では、僕のお願いは何にしようかな?」
すんなりと割って入ったのは三兄の真月兄さま。
雪兄さまをひとまわり小さく幼くしたような可愛らしい容貌と無邪気で奔放な気質は、万人に愛される武器となる。その実態はかなりの天の邪鬼で腹黒、いわゆる小悪魔なのだが嫌われないギリギリのラインを攻めているあたり、相当な策士でもある。利害が一致すれば心強い味方にもなるので、敵対しない限りは自由にさせておくのがいい。
「月兄さまのお願いでしたら、いつでも承りますわ」
どんなことでも、と明言しないでおくのが肝だ。言質をとられると面倒この上ない相手なのは、長年の付き合いで学習済みである。
「じゃあ、とっておきのお願い、考えておくね!」
妹にウィンクするな、バカ兄。基本的にこの三人は、頭に超弩級がつくほどの妹バカなのだ。胸焼けしそうなこってりのクリームよりも甘く甘く、溺れそうなほどに私を甘やかす。
そして、なるべく自然に見えるように、
最後に残った兄に視線を送った。
「おはようございます、愛兄さま」
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