12 / 24
反転宇宙
03
しおりを挟む
長い休みに突入すると、学部生がいなくなるせいか学内全体の火が消える。人影もまばらなキャンパスの静けさは居心地が良かったのに、
「は?約束の日は一週間後ですよね」
「うん、早まった。から、よろしく」
「いや、僕にも予定ってもんが」
「お前に夏休みの予定?笑かすなよ、ヘソで茶沸かすぞこの野郎」
どうせ冷蔵庫の中身くらいしか心配することないだろ、とズバリ言い当てられて口ごもる。目の前の輩はボサボサと放射状に伸びたザンギリ頭をガシガシと掻き回しながら、火のついていないタバコを咥えてカハハと笑う。麻のシャツにどこで買ってくるのか奇抜な色と柄のだらけたズボン、足元にはサンダル。滲み出る知性がなければ高円寺辺りの路上で露店でも開いてそうな年齢不詳さだ。
「とにかくさ、体調不良かなんかで早めに来て欲しいんだとよ。自然の中で星空案内、最高にチョロい仕事だろが。真面目に勤労してこい若人よ」
「…研究室は」
「お前一人いなくたって潰れるわけねえよ」
さっさと行ってこい、と犬でも追い払うみたいにシッシッと手を振る教授を睨みつける。他人の事情なんかお構いなし、思いつきで突飛な行動ばかりする傍若無人な王様、そんな人が上司だなんて夢も希望もない。ただ、ずば抜けて優秀なのだ。才能というヤツはいつだって凡人に厳しい。
他人の絡む予定なんか当然ないが面と向かって指摘されると腹が立つ。とはいえ散々痛い思いをしてきているので暴君には抵抗しても無駄と諦めて、さっさと思考を切り替える。
幸い交通機関のチケットは取っていなかったから、旅程は幾らでも変えられる。泊まる先は管理人用の部屋、食事は賄いがあるというのだから本当に着の身着のまま行けばいいらしい。帰ったら旅のお供にする本を選ばなきゃな、と軽い溜息をつきながらも心の端っこは少しだけステップを踏んで躍っていた。
「ひと夏の出会いとかあるかもな!うう!ワクワクしちゃう!」
「先生気持ち悪いです」
「…お前は相変わらず、上司相手にも口が悪いね」
「師匠を見習ってるんで」
軽口を叩きながら研究室の片付けを始める。申し送りやら鍵の管理やらの目処をつけ、教授に一筆書いてもらい、私物を整理して部屋を出ると外はすっかり闇に包まれていた。空を見上げても星なんかロクに見えやしない。
森と星の空間、か。
出会いなんて要らないしフラグが立った時点で全力で回避するけれど、星が見えるなら少しは、ほんの少しだけは期待してみてもいいかもしれない。星空は裏切らないし嘘もつかない。いつもと違う夏になるかもって、ほんの少しだけは。
「は?約束の日は一週間後ですよね」
「うん、早まった。から、よろしく」
「いや、僕にも予定ってもんが」
「お前に夏休みの予定?笑かすなよ、ヘソで茶沸かすぞこの野郎」
どうせ冷蔵庫の中身くらいしか心配することないだろ、とズバリ言い当てられて口ごもる。目の前の輩はボサボサと放射状に伸びたザンギリ頭をガシガシと掻き回しながら、火のついていないタバコを咥えてカハハと笑う。麻のシャツにどこで買ってくるのか奇抜な色と柄のだらけたズボン、足元にはサンダル。滲み出る知性がなければ高円寺辺りの路上で露店でも開いてそうな年齢不詳さだ。
「とにかくさ、体調不良かなんかで早めに来て欲しいんだとよ。自然の中で星空案内、最高にチョロい仕事だろが。真面目に勤労してこい若人よ」
「…研究室は」
「お前一人いなくたって潰れるわけねえよ」
さっさと行ってこい、と犬でも追い払うみたいにシッシッと手を振る教授を睨みつける。他人の事情なんかお構いなし、思いつきで突飛な行動ばかりする傍若無人な王様、そんな人が上司だなんて夢も希望もない。ただ、ずば抜けて優秀なのだ。才能というヤツはいつだって凡人に厳しい。
他人の絡む予定なんか当然ないが面と向かって指摘されると腹が立つ。とはいえ散々痛い思いをしてきているので暴君には抵抗しても無駄と諦めて、さっさと思考を切り替える。
幸い交通機関のチケットは取っていなかったから、旅程は幾らでも変えられる。泊まる先は管理人用の部屋、食事は賄いがあるというのだから本当に着の身着のまま行けばいいらしい。帰ったら旅のお供にする本を選ばなきゃな、と軽い溜息をつきながらも心の端っこは少しだけステップを踏んで躍っていた。
「ひと夏の出会いとかあるかもな!うう!ワクワクしちゃう!」
「先生気持ち悪いです」
「…お前は相変わらず、上司相手にも口が悪いね」
「師匠を見習ってるんで」
軽口を叩きながら研究室の片付けを始める。申し送りやら鍵の管理やらの目処をつけ、教授に一筆書いてもらい、私物を整理して部屋を出ると外はすっかり闇に包まれていた。空を見上げても星なんかロクに見えやしない。
森と星の空間、か。
出会いなんて要らないしフラグが立った時点で全力で回避するけれど、星が見えるなら少しは、ほんの少しだけは期待してみてもいいかもしれない。星空は裏切らないし嘘もつかない。いつもと違う夏になるかもって、ほんの少しだけは。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!
三崎こはく
BL
サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、
果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。
ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。
大変なことをしてしまったと焦る春臣。
しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?
イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪
※別サイトにも投稿しています
【完結】あなたに撫でられたい~イケメンDomと初めてのPLAY~
金色葵
BL
創作BL
Dom/Subユニバース
自分がSubなことを受けれられない受け入れたくない受けが、イケメンDomに出会い甘やかされてメロメロになる話
短編
約13,000字予定
人物設定が「好きになったイケメンは、とてつもなくハイスペックでとんでもなくドジっ子でした」と同じですが、全く違う時間軸なのでこちらだけで読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる