三度目の衝撃。

帯刀通

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反転宇宙

03

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長い休みに突入すると、学部生がいなくなるせいか学内全体の火が消える。人影もまばらなキャンパスの静けさは居心地が良かったのに、

「は?約束の日は一週間後ですよね」
「うん、早まった。から、よろしく」
「いや、僕にも予定ってもんが」
「お前に夏休みの予定?笑かすなよ、ヘソで茶沸かすぞこの野郎」

どうせ冷蔵庫の中身くらいしか心配することないだろ、とズバリ言い当てられて口ごもる。目の前の輩はボサボサと放射状に伸びたザンギリ頭をガシガシと掻き回しながら、火のついていないタバコを咥えてカハハと笑う。麻のシャツにどこで買ってくるのか奇抜な色と柄のだらけたズボン、足元にはサンダル。滲み出る知性がなければ高円寺辺りの路上で露店でも開いてそうな年齢不詳さだ。

「とにかくさ、体調不良かなんかで早めに来て欲しいんだとよ。自然の中で星空案内、最高にチョロい仕事だろが。真面目に勤労してこい若人よ」
「…研究室は」
「お前一人いなくたって潰れるわけねえよ」

さっさと行ってこい、と犬でも追い払うみたいにシッシッと手を振る教授じょうしを睨みつける。他人の事情なんかお構いなし、思いつきで突飛な行動ばかりする傍若無人な王様、そんな人が上司だなんて夢も希望もない。ただ、ずば抜けて優秀なのだ。才能というヤツはいつだって凡人に厳しい。

他人の絡む予定なんか当然ないが面と向かって指摘されると腹が立つ。とはいえ散々痛い思いをしてきているので暴君には抵抗しても無駄と諦めて、さっさと思考を切り替える。

幸い交通機関のチケットは取っていなかったから、旅程は幾らでも変えられる。泊まる先は管理人用の部屋、食事は賄いがあるというのだから本当に着の身着のまま行けばいいらしい。帰ったら旅のお供にする本を選ばなきゃな、と軽い溜息をつきながらも心の端っこは少しだけステップを踏んで躍っていた。

「ひと夏の出会いとかあるかもな!うう!ワクワクしちゃう!」
「先生気持ち悪いです」
「…お前は相変わらず、上司相手にも口が悪いね」
「師匠を見習ってるんで」

軽口を叩きながら研究室の片付けを始める。申し送りやら鍵の管理やらの目処をつけ、教授に一筆書いてもらい、私物を整理して部屋を出ると外はすっかり闇に包まれていた。空を見上げても星なんかロクに見えやしない。

森と星の空間、か。
出会いなんて要らないしフラグが立った時点で全力で回避するけれど、星が見えるなら少しは、ほんの少しだけは期待してみてもいいかもしれない。星空は裏切らないし嘘もつかない。いつもと違う夏になるかもって、ほんの少しだけは。
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