三度目の衝撃。

帯刀通

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二度目の衝撃。

02

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鬼の形相で駆けつけたコーチ達に事の次第を聞かれ、ありのまま正直にあったことを伝えたら、憤怒の顔をしたコーチがどこかに走り去り、その後緊急放送が流れた。

今なら何を言われたのかも、何が起こったのかも分かるけれど、純粋な子供だった当時の僕には、自分がとんでもなく卑猥な言葉を投げ掛けられたことすら分からなかった。

そして、それを馬鹿正直にコーチに言ってしまったことは、今思い返しても顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

競技場に不審者が出たことで表彰式は急遽中止、解散となり、僕は家までコーチに付き添われて帰った。

そして、その後しばらく僕は単独行動禁止になった。僕の周りには常に数人の友達がボディーガードのように付き添うようになった。

でも、何より僕の心を刺したのは、その人の「男かよ」という一言だった。

確かに僕は女顔で背も小さく、ユニフォームから普段着に着替えていたあの時は、ちょっとボーイッシュな女の子にも見えたことだろう。だけど、問題はそこじゃない。

女の子と間違われて襲われそうになった貞操の危機も充分ヤバくてありえないことだったけれど、理不尽なのは「男だ」という事実にガッカリされた、ということだった。

男で何が悪い。女の子じゃなくて悪かったな。

実際僕は何一つ恥じることも貶められることもないのだが、その一言は棘となって僕の心の奥底に沈殿していき、その後も事ある毎に僕を刺すことになる。

女の子みたいに見えたのに女の子じゃない、それは他人にガッカリされることなのだ。

というネジ曲がった変換が拭えないまま、何度も女の子に間違われる度に、そこに一瞬でも相手の目に浮かぶ失望の色を嗅ぎとってしまうと、もうダメだった。心が底無し沼に堕ちていく感覚。

それは、ありのままの僕じゃダメなんだと、男の僕が僕であることは他人にとって受け入れられないことなんだ、という捻れた自己認識をもたらして、遅効性の毒のように僕を蝕んでいった。

それ以来、僕は段々と女性が受け入れられなくなってきた。女性ソレは僕の存在を侵害する敵だ、と僕の細胞が過剰反応をし始める。蜂に刺された後のヒスタミン反応のように。

どんなに女子が近寄ってきても避けるようになり、次第に僕は「顔はいいけど愛想の悪い男子」から「女に興味のない男子」になり、挙げ句の果てには「女に潔癖すぎる男」と形容されるようになった。

女顔なのも背が小さいのも僕のせいじゃないのに。
段々と「男のクセに女子より可愛い男」として女子からは排斥され、男子からは「女みたいな弱いヤツ」とレッテルを貼られ、居心地の悪くなった僕は必死に勉強をして、中学から私立の男子校へと入学した。

男子校は、女子がいない分だけ気が楽だった。
でも、その頃には僕は男子も苦手になりつつあったのだ。ある特定の層の男子達にとって、僕は格好の的だった。弱くて女みたいな顔のチビ、その行く末は当然ひとつ。

表立って分かりやすく苛められた訳じゃなかった。でも、チクチクと針の筵に座らせられる疎外感。バカにされたりイジられたり、ちょっと仲間外れにされたりするくらいなら許せた。女子の恨みを買うよりは数段明快で単純で、いっそ清々しくさえあった。

ここなら女子と比べられずに済むと思ったのに。男だらけの飢えた狼達の中でいつの間にか、自分が女子の代用品とされていることに気づかされてしまった。

女子のいない閉鎖空間で、幾らか女子っぽい生徒は、揶揄いまじりに持て囃されるのだ。何となく特別扱いをされる。姫みたいに持ち上げられるのは悪い意味じゃなくて、可愛がられたり優しくされたりすることの方が多い。それに甘んじてしまえばイージーな6年間が送れるともいえた。

だが、僕にとっては、またしても、ここでもか、という思いだった。女子ではないことを思い知らされる6年間。所詮代用品でしかないから、実際に付き合いたいのは本物女子だし、合コンは男同士のどんな約束よりも優先された。

そう、結局僕は不完全なのだ。男子でもなく女子でもなく、どっちつかずのコウモリで、どこに行けば楽に息が出来るのだろうかと溜め息しか出てこない日々。

周りはどんどん第二次成長期を迎え、背が伸びて声変わりしてオトコに近づいていってるのに、僕ときたらまだコドモのまま。祖父や父親も線の細いタイプだったが一目見て男性だと分かるほどには男性性を持っていたから、早く僕もそうならないだろうかと、成長期を心待ちにしていた。
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