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110. 次の一手

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「まぁ、再生練金の方は花瓶だけでも大収穫だ。よし、次は生産錬金の方をどうにかしようか。今までどんな物を作ったんだい?」

 ティティルナの能力を見極めようと、フィオンはまた新たな質問を投げかけていた。

「えっと、丸パンにバターに甘いパンに食事パンに……あ、後パンに練り込むチーズも作ったよ。」

 フィオンの質問に、ティティルナは思い出しながら素直に答えた。本当は甘いパンや食事パンといっても様々な種類を作っていたが、それらは端折って答えた。
 しかし、それを聞いたフィオンの表情はなんともぎこちなく困惑の色を浮かべていたのだった。

「……そもそも、ティナ達はいろんな物を売りたいから、よろずやに変更したんだよね?」
「そうだよ。」
「……なのに君たちは殆どパンしか売ってないじゃないか……」

 余りにもティティルナたちが贈り物を活用出来ていない状況にフィオンは頭を抱えながら溜息を吐いた。

「だ、だって、紙売ったら大変なことになったし……そもそも、全然売れなかったし……」
「まぁ、元がパン屋でパンを買いに来る人に紙は売れないよね。ちょっと考えれば分かることだよ。」
「う……じゃあ、フィオンさんは何だったら売れると思うの?」
 
 フィオンに正論で駄目出しされて、ティティルナは大人に叱られた子供の様にシュンとして、少し不満げに訊ねた。

 するとフィオンは、間髪入れずにスラスラと、様々な品物の名前を挙げたのだった。

「そうだな、普段使いする日用品。例えばロウソクやランプ油、石鹸、麻紐や布袋、食器とかかな。」
「……確かに、それらは日常的な普段買いする物だと思うけど、でも、私作り方知らないよ」
「うん。だからティナに良い物を持って来たんだ。」

 そう言ってフィオンはニッコリと笑ってティティルナの前に分厚い本をドンと置いた。

「フィオンさんコレは……」
「百科事典だよ。これにはあらゆるものの、詳しい説明が記されてるんだ。原料や作り方なんかも載ってるよ。コレを読んで、作れる物を増やすんだ。」
「こんな分厚い本を読むの?!」
「そうだよ。」

 鈍器になりそうな程、分厚く重量のある本に、ティティルナは怯んだが、そんな彼女の様子などお構いなしに、フィオンは話を続けた。

「話を聞いて思ったんだ。ティナの生産錬金は、知識が絶対に力になると。だからティナは、とにかく知識を詰め込むべきだよ。あ、今は一冊しか持って来てないから、後で残りの14冊も直ぐに届けるからね。」

 ニッコリと笑って柔らかい雰囲気で言っているが、付き合いの長いティティルナにはフィオンの有無を言わずに全部読めという圧が分かった。

 けれども流石にこんな分厚い本を一人で全巻全部読むのは大変なので、ティティルナは慌ててフィオンに他の提案を持ちかけたのだった。

「そうだポーション!私ポーションも作れるよ!ポーションを売ったら良いんじゃないかな?!」

 咄嗟にティティルナは、ポーションも作れる事を思い出したのだ。

 回復ポーションなら材料費をかからないのでティティルナは良い提案をしたと思ったが、しかし、そんなティティルナの提案をフィオンはバッサリと却下したのだった。

「紙と同じだよ。パンを買いに来る人がポーションなんて買うかい?それに、あれの販売は冒険者ギルドが管理してるから、販売許可を取るのが難しいんだ。誰もが適当に作って、粗悪品を売られたら大変だからね。」
「う……」

 フィオンのもっともな講釈に、ティティルナは、これ以上もう、何の言い訳も思い付かなかった。

「まぁティナ、取り敢えずはさっき言った品物のページから読んで、ちょっとずつ学んでいきなよ。」
「うぅ……わかったよ。……で、それはどこを読めばいいの……?」

 縋るような目で、ティティルナはフィオンを見つめながら

 しかしフィオンはニッコリと笑って、思ってた通りの返答をしたのだった。

「うん、そこは自分で探してね。あ、後で残りの十四冊も届けるから頑張って必要な箇所探してね。」
「うぅ……やっぱりそうなるのね……」

 ティティルナは諦めて、フィオンから事典を受け取ると、せめてティルミオやジェラミーにも店で売れそうな商品のことが書いてあるページを探すのを手伝ってもらおうと思ったのだった。

「まぁ……今日もお客さん少ないし、取り敢えずこの本の中で、店で売れて直ぐに錬金できそうな情報をゆっくり探してみるよ。」

 ティティルナは受け取った事典を1ページ、2ページとパラパラとめくって、余りの文字の多さに狼狽しながらも、難しい顔で本を読み出した。

 しかし、フィオンはそんな彼女にストップを掛けたのだった。

「待ってティナ、本を読むのは後にして。今日はまだやる事があるんだ。」
「えっ……まだ何かあるの……?」

 フィオンがこれ以上まだ何か持って来ているのかと、ティティルナは戦々恐々と身構えたが、しかし、フィオンの口から出て来たのは、今までとは種類の違う話であった。

「やられっぱなし、防戦一方じゃ癪だろう?だから少しだけでも反撃しようじゃないかと思ってね。」

 そう言ってフィオンは、不敵に笑った。
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