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106. 反響

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 このパンがすごく好き!毎日買うね!

 女の子が伝えてくれたのは、大変嬉しい言葉であった。

 けれども、アカデミーへの出店は期間限定なので、ティルミオは一生懸命に想いを伝えてくれる女の子に少しだけ申し訳なさそうな顔で、その事実を伝えた。

「有難う。そう言ってくれるととても嬉しいよ。でもね、アカデミーに出店するのは三日間だけなんだ。」
「そっか……」
「だから、お店の方に買いに来てな。いつもで君が好きなパンを買えるように用意しておくから。」
「うん、そうする!!」

 アカデミーでの販売が三日間しか無いことを伝えると、女の子は分かりやすくしょんぼりと肩を落としたが、直ぐにティルミオが実店舗の方に買いに来てと伝えると、再び彼女の顔を明るくなって、元気よく頷いた。

 そうして、女の子は伝えたかったことを伝えると、ティルミオに手を振って別れて、離れた場所で待っていた友人たちと合流し帰路へとついたのだった。

 ここのパン、本当に美味しいんだよ!
 うん!柔らかくて美味しかったね!

 そんな会話を友達としながら、女の子は家へと帰って行った。

 その様子をティルミオは、嬉しそうに目を細めて見送った。すると、今度は背後から男の子に声をかけられたのだった。

「赤毛の兄ちゃん!!」

 ティルミオが後ろを振り向くと、少し離れた所から幼い男の子の三人組が、大きな声で叫んでいた。

「兄ちゃんのパン美味かったよ!また売りに来てよ!!」
「明日も来るよ!」
「本当?!やったぁ。明日もオレ買うよ!」
「有難う、よろしくな!」

 元気の良い男の子たちと同じくらい大きな声で、ティルミオは彼らに手を振って応えた。

 すると、そんなやり取りを見ていた周囲に居た他の子供たちも、ティルミオたちに一声かけて帰って行くのであった。

 パン美味しかったよ
 また売りに来てね

 そんな声を多く聞いて、ティルミオは自然と顔が綻ぶのを止められなかった。

「……アカデミー、出店して良かったよ。」

 子供たちを眺めながら、ティルミオはふと、心からそんな声が漏れ出た。
 すると、その呟きを目敏く聞いていたフィオネは、すかさず横からしたり顔で口を挟んだのだった。

「そうでしょう?私に感謝しなさい。」
「あぁ、有難うフィオネ。うちのパンを喜んでもらえるか不安だったけど、こうして、お客さんから声掛けてもらえるのは嬉しいな。」

 フィオネのまるで自分一人の手柄のような物言いにも、ティルミオは素直に同意した。

 こんな風に子供たちから喜びの声が直接聞けるのは、アカデミーへの出店を取り付けたフィオネのお陰だと、ティルミオは静かに彼女に感謝した。

「……ティナにも、この光景見せてやりたいなぁ。こんなに子供たちに美味しいって食べて貰えてるって知ったらアイツも喜ぶだろうし。」
「そうですわね。それだったら明日はティナとティオで来たらいいわ。店番はそこの貴方が出来るでしょう?」

 この光景をティティルナにも味わってもらいたい。ティルミオのその想いにフィオネも賛同し、ジェラミーに明日の店番を命じた。
 そうすれば、ティティルナをアカデミーに連れて来れるから。

 けれども急に話を振られたジェラミーは、驚いてフィオネに聞き返したのだった。

「えっ、オレは店番の方が楽で良いけど、この荷車結構重いぞ?ティティルナで押せるのか?」
 
 ジェラミーは今日押してきたこの荷車は、中々の重さで、とても普通の女の子であるティティルナでは押していけないと思ったのだ。

 しかし、そんなジェラミーの心配は杞憂であった。
 ティティルナに力仕事をやらせるなど、フィオネは1ミリも考えていなかったのだ。

「何言ってるんです?荷物運びは貴方がやるんですのよ?こんな重い物、ティナには運ばせられませんわ。行きと帰りの荷運びは貴方がやるんですよ?アカデミーに荷物を運んただら店に戻って店番して、時間になったらまたアカデミーに荷物を取りに来るのです。」
「オレの仕事多くない?!何度も言うけど、オレが怪我人なの忘れてないか?!」
「忘れてはいませんわ。考慮していないだけですわ。」
「考慮しろよ!!」

 そんなフィオネとジェラミーの馴染んできたやり取りを、ティルミオは横で苦笑しながら、それでいてどこか楽しそうに聞いていた。

 こうして、アカデミーの出店初日は、無事に終わったのだった。
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